第2話

 やがて雨は止み、闇がやってくる。

 しかし街はぼんやりと明るく、カラスたちはすべて眠ることはない。


 カラス女は群れを伴い川辺へ向かった。

 日中は人目を避け、人の振りをしている彼女であるが、日が落ちると同時に本来の姿を取り戻し、自在に空を飛ぶ。

 翼の端から端まで2mはある大鴉である。

 中空を駆けるその姿は、雨上がりの湿った空を裂く巨大な鋏のようだった。


 鈍い羽音を響かせ川辺へ下ると、カラス女は同胞の骸を、ふつふつと祈りを唱えながら川へ放った。

 低いさざなみにわずかに高く水音が響く。きらりと水面が街明かりを翻し、すれすれに青白い鳥のような影が浮かんだ。

 カラス達が平坦な鳴き方で呼ぶと、青白い影が蠢き、割れたカラスの声で答える。鳴き交わす内、影は完全な鳥の形と鳴き声を取り戻していく。

 ―還れ。そして導きたまえ、あの異形のもとに…


 カラス女の脳裏にあの異形が蘇る。

 人でも獣でもない存在。今まで他に見たことはない。

 強いて言えば自分に似ている。


 古い記憶を呼び起こしてみる。


 今と同じ森、川、獣たち。人はまだいない。年月も時間も存在しないかのような月と日の廻り。やがて人が来て、集落ができ、街へと変わっていった。

 カラス達はずっとここにいた。


 カラス女はその頂点にして、群れそのものでもあった。かつては群れの1羽だったような気もするが、あまりに古い記憶で思い出すことができない。


 ―何であろうと我が庭、我が群れに綻びがあってはならない

 カラス達は鳴き交わし続ける。現し世と夢の間を行き来する振り子のように。

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