第3話

 そんな閉鎖的体制が長く続いていたサヌキに異変が起きたのは、昨年夏のことである。台風五十三号によるため池の汚染、及びそれに続く渇水騒動である。


 本誌でも報道した通り、昨年の八月十日から十一日にかけて西日本を襲った超激甚大型台風五十三号は、災害が少ないと言われるサヌキの地にも被害をもたらした。それまでの台風と最も異なる被害として、ため池のソーラーパネルの損壊が挙げられる。同十一日の午前中にかけて、内場村を始めとした区内各地で、ため池に設置したソーラーパネルが暴風によって水没・破損したことが確認された。


 讃岐山脈の北側に位置するこの地域は歴史的に水不足に悩まされており、解決策としてため池が多数造られてきた。しかし近代に入ると、隣県のダムの完成等に伴い、他地域からの水の融通事情が安定していった。それに伴い、これらのため池の多くは過去帳入りしていった。更に時代が流れ近年になると、用途のなくなったため池を再生可能エネルギーの発電所として利用する動きが活発化した。いわゆる大前進給電計画である。大規模な発電施設の少ないサヌキの総発電容量が増加したことは、電力自給率の向上という点で一定の成果をもたらした。一方でこの急速な拡大政策は、安全の確保が不十分な事業者の参入をも許容することとなり、結果として、この台風で漏出した重金属による水源汚染という負の事象をもたらした。


 更に悪かったことに、今度は水不足が襲いかかった。台風五十三号は風速こそ過去最大級に強かったものの、雨量はさほど多くなかった。比較的高速で移動したこともあり、サヌキの主要な水源である高知県の早明浦ダムを十分潤すには至らなかった。同台風の襲来前から日照りが続いていた四国地方は、台風一過から一カ月程度で干上がった。


 そんな状況でさえ、サヌキ特区議会の対応は遅々として進まなかった。議会で毎日取り上げられるにも拘らず、他地域との交渉実績として目ぼしいものはなかった。その本質的な原因は、特別区への移行の際に政治・行政の人手不足が明らかとなり、応急的に行った配置転換によって、他地域との連携に長けた人物が散逸してしまったためと言われる。


 最も新しい渇水経験でさえ二十年近く昔のことであり、政治のみならず行政側も、とても満足な対応は取れなかった。他地域からモノが入りづらくなったサヌキでは、給水車の確保や需要に応じた出動計画の策定・実行がうまくいかなかった。永らく利用されずに残っていたため池を、数十年ぶりに生活で使用し始めた地域も現れ始めた。

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