第32話 31-思い出の料理
各々武具を外し軽装となり、エプロン姿になる。こんな都合の良い状況が起きているのは、異世界だからなのか、何かの詐欺なんじゃないかと、葵は思いたくなる。特に環は、その豊満な胸は、エプロンの上からでも隠しきれない主張をしている。その最強クラスの武器とは、真逆に顔立ち甘く、ふわふわと柔らかい口調で話す。男は誰しもが勘違いしてしまうだろ。もし、これを計算でしているなら相当の策士である。
「では、葵さんが、今一番食べたい物を作るとしましょうね?葵さんわたしの前に来て下さい。」
葵が言われるがまま、環の前に立つ。
「葵さんは、側に立つと案外背が高いんですねぇ。こちらの椅子に座ってもらえますか?」
葵は用意された背もたれのない丸椅子に座る。
「こうで良いですか?」
環は葵の背後にまわり、葵の背中から頭を両手で抱きしめるように抱え、光魔法のブレイントレースと錬金術の技能を組み合わせて顕現させる。
「あっ…」
思わず葵は声が漏れてしまう。後頭部のあたりに、ものすごく柔らかな物を感じる。環も葵の声の理由がわかっているのか、小声で葵の耳元に話しかける。
「男性にこれを使うのは、わたしも恥ずかしいので、あまり意識しないで下さいねぇ!わたしも平気な訳じゃないんですよ…」
環の囁きは吐息とともに葵を刺激する。
「す…すみません。」
葵は、意識しないようにするが理性で理解しても、オスの本能は理解しようとしない、後頭部あたりに全神経が集中したかのように、鋭敏にその感触を堪能してしまう。葵のオスの部分がムクムクと目覚めている。
「葵さん、楽にして大丈夫ですよ!カレーという料理とサラダはこのドレッシングが特別なんですね~後はこの鶏肉の料理ですか、なかなかおもしろい料理ですね。」
環はスッと葵から離れた。葵はもう少し堪能したいかもと思いつつ、他の女性陣に目を合わせると怖い気がするので、料理に集中することにする。
「環さんこっちの世界に同じような食材はあるんですか?」
「まったく一緒ではないでしょうが、似た食材を使います。後、わたしは味や料理の完成したイメージも葵さんからいただきましたから、同じように作れると思います。後は葵さんに食べてもらえばどのくらい、近いのかはわかると思います。では、みなさん準備を手伝って下さい」
女性陣がてきぱきと料理の準備をする、皆、包丁さばきはお手の物と言わんばかりの腕前で料理を進める。葵とはカレーを担当し環はタンドリーチキンを担当している。最後の味覚チェックを環と葵がする。若干、マノーリアの野菜の切る音が殺気だっていて怖いが、環があの魔法を使うことを知っていたわけだから、葵は何も悪くないと思う。マノーリアと目が合う、微笑みを向けてくれるが目が笑っていない。
「葵くん!お皿とか用意できるかしら!」
「は、はい」
葵はなんとなく居心地が悪いのでダイニングへ逃げる。夕食の準備ができて配膳を皆でして席に座る。環が葵に声をかける。
「葵さん、料理の説明してもらって良いですか?」
「これが、カレーで鶏肉がタンドリーチキンでサラダは人参ドレッシングです。日本料理というよりは、元々はインドって国の料理を日本人がアレンジして家庭料理にした感じです。カレーは子供から大人まで、日本人のほとんどの人が好きな料理で、タンドリーチキンとサラダはインド料理のお店に家族行った時に気に入って、ウチの家ではカレーの時は一緒に食べるの定番になってます。」
「じゃあ、今日のメニューは葵んち家庭料理ってこと?」
「そうだと思う…」
「では、みなさん、いただいてみましょうか!」
環がそう言って全員でカレーを食べる。
「ナニこれ!美味しい!」
「サラダのドレッシングもすごく美味しいわ!」
「青星の民の食卓もなかなかですね。」
「タンドリーチキンはお酒も進んでしまいそう…」
「お野菜をこんなに美味しくいただけるの素敵ね!」
皆が料理に舌鼓を打ち、美味しいと食べている姿に、葵は、ものすごく嬉しい気持ちになる。葵も久々のカレーとスプーンいっぱいにすくい頬張る。すると、葵の頬に一筋の涙がこぼれる。
「葵くんどうしたの?」
「葵…?」
マノーリアと梔子がその様子にすぐに気づき葵に声をかける。
「ウチのカレーだ…」
葵はその後も黙々とスプーンでかっこむようにカレーを食べる
「葵くん…お水置いておくわね」
マノーリアが葵の心中を察するようにグラスの水を差し出す。葵の涙は止まらない。20歳の大人になったはずの男が美少女の前で泣きながらカレー食べている。
「俺が子供の頃、初めて作って失敗した時のカレー…それを母さんが食えるように味加えてくれて、親父や妹達が旨いって言ってくれたカレー、親父が旨いカレーを教えてやるって言って一緒に作ったカレー…か、母さんが作ってくれた優しい味のカレー、妹達が初めて作ったカレー…う、う、全部の味がする…」
葵は家族達を想いだし、もう会えない可能性が高いこの状況に悲しみが溢れ出した。
「葵くん…家族大切な料理なんだね…すごく暖かい味がしたわ!わたしたちは、何もしてあげられないけど…落ち着くまでそばにいるね…」
「うん!葵んちが仲良しで、家族を大切にしているのがわかる優しい味がした!」
夕食を済ませ、皆用意された部屋に戻る。葵は少し夜風に当たろうとテラスに出ていた。
「葵くん…落ち着いた?」
「マニー…さっきはごめん…片付けとかもやらずに」
「謝ることないよ…家族を大切に思う気持ちは葵くんの世界も、わたしたちの世界も一緒だもの!」
「そういえば、マニーとクーはお母さんは家にいるんじゃないの?」
「クーは今家に行ったわ」
「マニーもお母さんに顔を見せてあげた方が良いんじゃない?」
「お母様に顔を見せる前に、葵くんが心配だから来たの!もう平気かしら?」
「あ、ごめん大丈夫…でも環さんのすごいね。」
「そうね、じゃあ、わたしもお母様に会って来るわ」
「行ってらっしゃい、後、おやすみ~」
マノーリアがテラスの横から部屋の方に、向かうと思ったら、葵の背後から葵を抱きしめる。
「マノーリアさん?」
「強がらなくても良いからね…がまんしなくて良いからね…」
「ありがとう…」
「あの~多分俺の誤解だろうけど、この状況で我慢しなくて良いよって言うのは、非常に誘惑的なんですが…?」
「バカ!分かってて言ってるでしょ!」
「でも、マノーリアさんわざと当ててますよね?柔らかいの?」
「環さんので葵くんが変なことをひとりでしないように上書きしているの!」
「と、言いますと…マノーリアさんのでは良いと言うことですか?」
「ホント!バカ!」
マノーリアは口を尖らせ、葵の背中をぺしっと叩く
「いて、それはいらなかったな~」
「気合い入れてあげたの!わたしもう行くね!おやすみ!」
マノーリアはスタスタと歩いていく、葵は夜空を見上げながら、たまにはいい話の夜になったと思ったが、寝れない夜を迎えるのであった。
「2回か?」
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