第27話 26-皇国の都の花、女神桜と大樹木蓮

 葵達を乗せたアリスの引く馬車は、順調に街道を進んでいく、旧街道から新街道へ先程合流し、道幅も広がり速度も増している。街道の合流地点からが、ロスビナス皇国の国境となり、城塞都市でマノーリアと梔子のおかけで、当然顔パスで入国できる。その街に立ち寄る理由もないので通過し、首都である都を目指す。




「後、どれくらいで着くの?」




 葵の問に梔子が答える。




「そうだね、かなり順調だから、予定より30分くらい早く着くから、16時過ぎかな?」


「皇女の環さんに今日会えれば良いわね」


「皇女様ってどんな人?国の代表だからちゃんとしないとまずいよね?」


「まぁ~公の場ではそうね。けど、私達だけなら普通で良いと思うわよ、環さんもそうすると思うし…私達も環さんが皇女になられても、特に関係が変わってないから、大丈夫よ!」


「タマちゃんはすごーく優しいよ!あたしとマニーのお姉さん的存在!」


「そうね、小さい頃から姉のようにしたっているわね」


「タマちゃんって…ふたりは幼なじみだし、騎士団の職位もあるからなぁ~失礼はないように気をつけるよ」




  街道を進むに連れて、小さな街や村を通りすぎる。人々の服装も帯をしめるような服を着る人が増えてくる。街並みも、他の国はレンガ造りの街並みだったが、木造家屋が増えた気がする。




「ロスビナスの建物は木造が多いの?」


「そうね、上質な木材がフォレストダンジョン王国から輸入できるし、加工技術が優れているから、確かに多いわね他の国に比べると、葵くんは家に興味があるの?」


「まぁ~父親が建築士だったから、なんとなくね。」


「建築士…?葵のお父さんのその建築士というお仕事は、大工のようなお仕事?」


「いや、大工とはまた違うかな、家の設計図を作るって言った方が良いのかな?」


「設計図…?」


「この世界には設計図がないの?まぁ大工の人も頭のなかで図面引くのか?」


「魔法がないとやっぱりいろいろ違うわね、こちらでは、大工になる人は必要な魔法を使うわよ。じゃ~農家の方や漁師の方も葵くんの世界の方だと違うんでしょうね。」


「魔法ってやっぱり万能だな」




 そんな話をしている間に丘をひとつ越えるとまた周囲の景色が変わる。




「これ、もしかして田んぼ?」


「今度は農業に興味があるの?後、1ヶ月くらいすると田植えの時季ね。日本もお米が主食って言っていたわよね?」


「うん!やっと米が食べれるの?2週間パンや芋みたいな主食だったからな~楽しみだね!」


「葵くんはロスビナスの料理は気に入ると思うわよ!」


「そうだね。葵はお魚も好き?」


「もちろん、日本は魚もたくさん食べる国だからね。お刺身とか食べるの?刺身じゃわからないかな?生の魚って食べる?」


「生食はないわね。日本には生でお魚を食べる文化があるの?そのお刺身…?」


「そうだね。後はごはんを握って、その上に刺身をのせたのが、寿司ってのもある。刺身ないのか~ちょっと残念」


「葵が教えてあげれば良いんじゃない?そうすればあたし達も食べれるでしょ!」


「クー!良いアイデアね!咲ちゃんと花ちゃんにも約束してたわよね?ねぇ葵くん!」




 マノーリアと梔子が葵に日本の料理を食べたいとせがむ




「わかった、わかった!作るのはかまわないけど、俺のレパートリーはそこまで多くない、食べたことあるのをプロに作ってもらって、味見するとかなら、もう少しいろいろメニューも増やせるだろうけど…」


「葵それは大丈夫!タマちゃんが何とかしてくれる!」


「皇女様が凄い料理人を手配してくれるとか?」


「違う違う!タマちゃんが作ってくれるの!」




 梔子は人差し指左右に振りながら否定する。マノーリアが葵の問に答える。




「環さんは、お料理が凄く得意なの!プロの料理人だって認めるレベルなの!」


「なんか、国の象徴とか代表って人がそういうことするってイメージわかないな…」


「環さんだって、皇女になられる前は、普通の女性として、生活していたから、皇女になられても変わらないわよ」


「まぁ、そうなるのかなぁ?あまりイメージがわかない…」




 梔子が窓を開けて声をあげる。




「都が見えてきたよ!もう着くよ!なんか1ヶ月くらいだろうけど、凄く懐かしい~!そうだ!マニー!考えてみたら、満開の時季だよね!今!」


「確かに、そうね!今年も春の季節になったわね!葵くんも見たら綺麗で驚くわよ!都の名称のひとつよ!」


「春の花か…俺が住んでいた街も春の花が名称だったな…」


「葵が住んでいたところの花はどんな花?」


「桜って言う花、淡いピンクでソメイヨシノって種類かな?その木が何本も植えてあって、堤になっていて、その回りを菜の花って黄色い花畑が咲いてる」




 マノーリアと梔子が顔を見合わせる。きょとんと葵を揃って見る。




「どうした?」


「いや~こんな偶然ってあるのかなって…」




 梔子が驚いたと呟く。マノーリアがその偶然を説明する。




「都の花は女神桜って言う、ここでしか咲かない花なんだけど…堤になっていて、その回りに光草って淡く黄色い花畑が広がっているの」


「確かに、偶然の一致ってやつだね。でも光る花もここでしか咲かない桜とかその方が凄いと思うわよ」


「ぁ~なんか、葵が感動してくれるとか思ったけど、葵の住んでいたところも、似たような花があるとわね~」


「でも、偶然とも言えないかもしれないわよ!転移なんて不思議な現象が起きているわけだからね!葵くんは転移者で唯一加護を得たわけだし、来るべきして来たのかもしれないわよ!」


「理由があるなら、教えてほしいよな転移した理由…」


「この丘を越えると見えるよ!」




 梔子が言う通り丘を越えると、街の周辺に盛り土がされ土手が作られ、街を囲うようになっており、街をピンク色で覆われている。ピンク色の下は、淡く黄色に輝く花で覆われている。




「綺麗だ…花を見てこんな気持ちになるの初めてかもしれない…」




 葵は思わずその光景を見て無意識に声が漏れる。そして、葵の頬には涙が流れた。




「葵!泣いてるの?」


「えっ、あれ?なんで俺…」


「感動しちゃった?」




 梔子がここぞとばかりに葵を茶化そうとしたら、となりにいた、マノーリアが驚いた顔して泣き出した。




「えっ!なんで?マニーが泣いてるの?」


「ご、ごめんね!だって、わたしのお父様が都に初めて来た時と同じ事、葵が言うんだもの!ビックリしたわ!」


「そうなの?」


「父はビナスゲートの旧王国時代の鎮圧に王国騎士として出兵して、騎士団が分断されて、危機的状況で皇国騎士団に救出されて、療養の為にここに来た時に、あそこの大樹をみて、同じ事を当時軍医をして同行していた、お母様のとなりで、呟いたんだって、だからね嬉しくて」




 マノーリアは涙拭い笑顔ではにかむ。




「あの大樹はどんな花なの?」


「木蓮よわたしの名前の由来なの、あの大樹の花は白に紫の花を咲かせるのよ、わたしの髪や目の色を見て、父が大樹から名をいただいたのよ、今年はもう咲いてしまったから、来年まで辛抱ね」


「マニー!クーそろそろこのトンネルくぐって皇女様のところへ行こう!」




 女神桜は鮮やかなピンク色の花をしており、花弁も八重に重なりあっている。春の風が女神桜を優しく揺らし、葵を出迎えてくれているように見えた。

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