第26話 25-旅の終わりとはじまり。新たな転移者

 朝食を済ませた葵たちは、身支度を済ませて馬車に荷物を詰め込み、出発の準備をはじめる。いよいよ、今日の道中が順調であれば、皇国の都に到着する。葵からすれば、初めて国であり、初めての街であるが、これからこの世界の住人になると母国になる国なので、いままで立ち寄った国々や街とは、やはり思いは違う。不安と期待を持ち合わせている。しかし、マノーリアや梔子をはじめとする、皇国騎士団の面々と数日、共に過ごした感じや、他国との関係を聞く限りでは、まともな国なのであろうとは思う。



「明日からが、やっと新生活のスタートって感じかな?かなり濃厚な2週間だったけど…」


「葵くんなにか言った?」


「あっ、なんでもない、独り言だったんだけど…やっと、この世界の母国に、今日着くのかと思うとなんか複雑で…」


「ごめんね、葵くんの気持ちを簡単には理解してあげられないよね…」


「マニーが謝る理由なんてないだろ」




 そこに荷物を抱えた梔子が現れる。


「なにふたりでイチャイチャしてるの?」




 真っ赤になったマノーリアが反論する。




「クー!イチャイチャなんてしてないもん!」




 梔子がマノーリアを茶化す。




「ふーん、マニーがすごーく愛おしい、お姿に見えてさ…」




 マノーリアが照れると思いきや冷静な顔になり、梔子を見つめ返答する。




「クー…」


「なぁに、マニー?」


「最近、葵くんに似てきた気がする…」




 葵が声を出して笑う。梔子が顔を真っ赤にして反論する。




「マニー!絶対似てないよ~!こんなデリカシー無いし!変態なヤツ!と一緒にしないでよォ~!」


「ごめんごめん、なんとなくそう感じたから…」




 そこへ、ロゼッタとアイズがやってくる。




「皆さんおはようございます。ご報告があります!昨日の、聴取の後の会合で、冤罪による騎士団追放処分を取り消しの上、再編成される、ビナスゲート共和国騎士団団長に、任命されました。皆さんのおかげです。どう、感謝してもしきれないほどです。まずは、ご報告と思いまして」


「おめでとうございます!アイズさん!」


「おっめでとう!アイズさん!」


「アイズさん、おめでとうございます。ロゼッタ良かったわね!」


「マニー!ありがとう!梔子さんと葵もありがとう!」




 ロゼッタが自分の事のように喜んでいる。アイズがそういえばと思い出したように尋ねる。




「ところで、ハリー殿が連盟本部に戻られたとお聞きしましたが、みなさんお会いされたかと思いまして…」




 葵とマノーリアはハリーさんだからねと、表情で答え皆が梔子を見る。




「べ、別にあたしはだ、大丈夫だよ!昨日ちゃんと話したし…もう大丈夫なの!」




 葵がニヤリと笑い梔子を茶化す。




「ふーん、通りでスッキリした感じな訳ね…」




 梔子は昨日の事を回想し、頬を赤く染め下を向く。それを見て葵がたじろぐ。




「そ、その反応は…話しただけではなさそうだな…」


「うるさいなぁ!!」




 そんな、騒がしい様子のところに、デイトとあざみともうひとり男性が現れた。




「直哉さん!」


「葵くん、こんな直ぐに再会するとわね!」


「どうして、柴崎さんがデイト様とあざみさんといるんですか?」


「ロドリゲス商会が事件起こして倒産するって聞いたから、じゃぁ、ウチで買収するって話しになってさ!ハリーから、情報料として、ウチのそのブレスレットを連盟と帝国にもって話で…晴れてロドリゲス商会はウチの傘下になりましたとさ、でハリーは帝国の連盟本部に戻るから、このお二人に君らのところに案内してもらえってね…たまにあったんだから、酒くらい付き合えて話だよね~」


「直哉さん、やっぱ商魂たくましいッス!で俺達に用があるんですか?」


「ハリーが葵くんにって!まぁ~まだ試作なんだけど、俺もハリーから、商品価値ありそうな物を提供してもらったから、試算では大儲けだね!ハリーから借りて使ったから、何だかはわかるよね!白檀からも導入の方向で前向きに考えるって言ってたからさ、このモノクルは、皇国仕様作っているから、部分的に魔装衣使ってる。帝国製より軽量で性能も良いと思うよ。」




 柴崎からバルーンフルーツ社製のモノクルを手渡される。左目に装着する。スコープは不必要なときはこめかみ側に倒せるようになっている。




「直哉さん、これは戦闘力とかは数値化とかしないですよね?」


「左に着けると、考えちゃうよね~、スゲー強い相手だと計測不能で壊れるとか?」


「ハハハ、直哉さんならやりかねないと思って…」


「さすがに、戦闘力とかは無理だね?結局は、索敵魔法で相手の急所を見つけるわけだからね。ちなみに、これも自分の体内魔力を使用するからね。まぁ使用量は、かなり、低いから気にするほどじゃないけどね。」


「そういえば、ハリーさんとも知り合いだったんですね」


「そりゃ、俺が転移した時にハリーも白檀達と一緒だったからね、その頃からだよ、連盟行ってからは、白檀とより、ハリーの方が連絡とってるよ!情報は金だからね!」




 葵は、ハリーが白檀だけでなく、柴崎ともうまが合うことを知って、ハリーがエロである事を確信する。




「じゃ!ロドリゲス商会の仕事残ってるから行くわ!ブレスレットは問題ないよね?」


「めちゃくちゃ、助かってます!」


「それは良かった!それじゃ!」


「ありがとうございます!」




 柴崎と話終えると、デイトとあざみが葵達の元へと来る。




「今度こそお別れですかね?」


「そうだと良いんですが…デイト様、あざみさん本当にありがとうございました。」


「神無月さん、頻繁に頼られるのは少々適正を疑いますが…危機的状況であれば、躊躇せず呼んでください。」


「私達は、もうしばらく、こちらに滞在する事になると思います。マノーリアさんと梔子さんもお気をつけて」


「あざみさん、ありがとうございます。」




 デイトが梔子を手招きし、こそこそと耳打ちする。梔子が顔を赤くしている。




「どうした?クー?」


「なんでもない!デイト様もぜっーたい!言わないで下さい!とーくーに!葵にはぜっーたいダメ!」


「わかりました。やはり、時として人は近道よりも迂回を好むのですね…この辺りのデータ収集も必要ですね…」




 葵はまたデイトが、とんでもない発言をしたのだろと思ったが、ある程度想像が着くので聞き流す。




「では、みなさんお世話になりました。」


「アリスよろしくね!」




 3人を乗せたアリスの馬車が走り出す。皆が手を振り別れを惜しむ。この旅も終わりを迎えようとする。今日の夕方には、ロスビナス皇国の首都に到着することとなる。




 ―――――――――――――――――――――――


  現世界=地球(青星:ブループラネット)




  6月上旬の雨の日のこと、その日の夕方の情報番組は、女性アナウンサーの低トーンの声ではじまった。




「首都高 山手トンネル火災から、1日が経過しましたが、人気アーティストの霜月麻衣さんが事故に巻き込まれ、行方不明のまま、未だに発見されていない状況です。現場のトンネル入口、上空と中継が繋がっています。」




 今年の音楽チャートを賑わし、帰国子女の彼女は英語も堪能で欧米の音楽チャートでも顔を出すほど世界的に人気を博していた。年末の音楽大賞の大賞は、彼女以外いないと夏前で既に騒がれいる程の人気ぶり、歌手の行方不明のニュースは、テレビだけでなく、ネットでも話題となり、いろいろな憶測を呼び、事故を装った引退だとか、拉致されたとか、駆け落ちしたとか、好き放題に人の不幸に花を咲かせた。




「……スタジオに、お返しします!」


「はい、最近、霜月麻衣さんのように、事故後に行方不明となり、10代の被害者が見つからないケースが多いようです。みなさんもご記憶に新しいと思いますが、1ヶ月前の埼玉県で発生した、電車脱線事故では男子大学生が…2ヶ月前には世田谷区のマンション火災で、男子高校生が、未だに行方不明となっています。本日はゲストに災害心理…」




 よく分からない肩書きのコメンテーターが、行方不明者に、何があったか解説しているが、どれも推測で、あくまでも、俺はそう思うというレベルだ。




「ありがとうございます。ではお天気です!今日は中継が繋がっています。田中さーん!」


「田中でーす!この、アジサイ見てください!綺麗ですよね~!今日は埼玉県にある…」




 結局、何の答えも出ずに、女性アナウンサーは声のトーンを2トーンほど上げて、お天気お姉さんに中継をつなぐ。一週間もすると忘れられ、新しい話題に埋もれる。




 ――――――――――――――――――――


 異世界(緑星:グリーンプラネット)同時刻




 そこは、人がひとりでは、入ってはならない森。エルフやシルフでなければ、その森を自由に歩くことはできない。それは森の迷宮である。この国の名はこの森からつけられた。フォレストダンジョン王国の大森林だ。この国は、妖精の国である。守星大戦時に女神アマテウスが眷属神エーテルを産み、エーテルが人種ひとしゅと共に戦える人種と同等の体をもつ妖精を生み出す。それがエルフやシルフと呼ばれる者達だ。人種達は区別がつかない為、総称してエルフと呼んでいる。エルフは魔力でなく、周辺の精霊から力を借り、魔法のような力を顕現させる。力を借りる為、無限に攻撃を可能とするが、その為、精霊の宿る自然をむやみに手をいれることはない為、原生林がそのままになる。この原生林は守星大戦時に邪神から大陸を守る為に、眷属神エーテルがその大森林を全ての力を使い作ったとされている。


 そんな森をひとりのエルフの少女が警らの為、風のように走っていた。彼女の名はアマナ、フォレストダンジョン王国騎士団の騎士をしている。彼女は騎士の中でも腕の立つ騎士である。警らは当番制で順に回ってくるが、アマナは、森を自由に歩ける警らの仕事が好きだった。




「人の悲鳴? あっちか? 」




 エルフは、人種以上に耳が良い、エルフ同等の聴力をもつのは人種では、兎耳ラパニアくらいだ。アマナは悲鳴の方向に向かい、ひとりのおびえる少女を見つける。




「この森を人がひとりで歩くから…… 冒険者? ずいぶん軽装ね? 防具も着けずに…… 」


「何? なんなの! ここどこ! 意味わかんない!」


「ずいぶん、混乱してるね! 鎮静させないと話も聞けないか……」




 アマナはその少女に精霊術で鎮静させる。




「落ち着いた? 」


「あっ、うっ、はい…… 」


「冒険者? 」


「冒険? ここはどこなの?どこかのスタジオ?こんなロケ聞いてないわ! 」


「スタジオ? ロケ? わたしも聞いたことないわ!ここはフォレストダンジョンの大森林だよ、エサで連れてこられたのかな? 」


「エサ? 意味わかんない! あなたエキストラ? そんな尖った耳して、そんなプロモ演出なかったわよ! 」


「エキストラ? プロモ? 良くわかんないな? 最近、人の街行ってないからな~わたしはアマナ、こんなとこいても、しかたないから、私達の街に行こよ、あなたの名前は? ひとり? どこから来たの? 」


「えっ、話が通じないわね!マネージャーもいないし!どうなってるの、あなたアマナって言ったかしら? あたしのこと知らないの? どこから来たって、東京に決まってるでしょ! ここどこ? 関東のどこか?」


「トーキョー? カントー? 聞いたことないなぁ~? まぁ~ 今初めて会ったし、むしろ知ってる方がおかしいよね? 」


「もう、なんなの! ここ! アマナでいい? あたしは麻衣よ! スマホ持ってる? わたしのスマホ見当たらないし、意味わからない、衣装来てるし! 」


「アマナで良いけど…… 名前は麻衣って言うのね? スマホ……? 何それおいしいの? 」


「何言ってるの? ふざけないでよ! スマートフォン! ガラケーでも良いわ! 」


「スマートフォン? ガラケー? 会話にならないな? なんか精神異常かな? ひとまず団長に相談かな? 」




 アマナは、麻衣に眠りの精霊術をかけて眠らせ、騎士団詰所に向かう。




「団長~! 森で変な娘を保護しました~ 名前は麻衣って言うらしいですが、他は意味わからないことしか言わないです!」




 団長が簡易ベッド寝かされた少女の顔を覗き込む。




「人の娘がひとりで森に? しかもこんな軽装で? あり得ないだろ?」


「でも~ いたんだもん! 」




 団長は顎に手をあて、左上をみながら考えこむ。アマナは事実なので反論する。団長は麻衣に精霊術で目覚めさせる。




「目が覚めたか? 」


「う、うーん、久々に良く寝たわね!スッキリした…… ここどこ? また、別のスタジオ? あなたもエキストラ?」


「確かに、意味のわからない事を言うな? 」


「意味がわからない? あなた達のふざけた格好の方がおかしいわ!」




 団長が麻衣の気の強さにムッとする。アマナがまあまあと諭す。




「麻衣はどこの国の人なの? オーシャンガーディアン? それともロスビナスかな? 」


「はぁ? 何その国? 日本に決まってるでしょ! 意味わかんない! 」


「日本? 」




 団長が驚愕の顔をしている。




「団長~? だんちょう! どうしたんですか? 」


「確かに、人がもつ御石を持ってない! 転移者…… しかし髪が黒くないな…… 」


「御石? 転移者? 何言ってるの? 髪は、昨日カラーしてもらったから、キレイでしょ?」




 麻衣は、毛先に赤の入った栗色の髪をサラッとかきあげ見せつけるが、団長とアマナは口を空けたまま立ち尽くしている。団長が我に帰り部下に指示を出す。




「直ぐに元老院に伝令を出せ! 転移者を保護したと伝えろ! アマナ元老院の決定次第では、彼女をロスビナス皇国に連れていくかもしれないからな! 」


「わたしがですか? 」


「お前が保護したからな? ロスビナス行きたいよな? 」


「偉い人と会うのは面倒だなぁ~」




 元老院は団長の予想通り、日本人の保護施設のある、ロスビナス皇国へ連れて行く決定をした。数日後、アマナと麻衣は、ロスビナス皇国へ旅立つ事となった。




「アマナ~!電車とかクルマとかないの? 」


「麻衣、まだそんなこと言ってるの? あなたのいた世界が、どんな世界かしらないけど! ここにはそんな乗り物ないよ! 馬車借りられたんだからいいじゃん! それより麻衣~歌、歌ってよ! 」


「しかたないなぁ~ わたしの生歌をひとりじめできるなんて、凄いことなのよ! 」


「ハイハイ! 歌って歌って~ 」




 こうして、少女ふたりの旅がはじまった。

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