第25話 24-白猫と黒猫な狐
少女が目を覚ましたのは、見覚えのない部屋のベッド上だった。ベッドの上には、自身の支獣のはやぶさと黒猫、いや、ミニチュアサーベルが丸くなり寝ている。ミニチュアサーベルの名を呼ぶ。
「ダニー?ダニーだよね?」
「にゃァ」
「キー!クルル」
名を呼ばれ、ダニーが梔子のそばにすり寄る。ユキも主人にアピールするように羽を広げる。梔子はダニーとユキを撫でながら、我慢していた感情が溢れはじめる。
「やっぱり、ダニーだ!夢じゃなかった…ありがと…ユキちゃんもありがとね…」
部屋のドア開きマノーリアとロゼッタが入ってくる。マノーリアが泣きながら、梔子を抱きしめる。
「クーのバカ!心配したのよ!深追いしない約束でしょ!」
「く、苦しいよ!マニー!ありがとね、マニー」
「マノーリア!梔子さんの容態見るわよ!いいかな?」
「ロゼッタさんちだよね?ありがとね」
「梔子さん、お礼なんてやめてください!そもそも、わたし達の為に、こんな目にあってるんですから、男性陣も心配しているので、元気な顔を見せてあげてください。入ってもらって良いですか?」
ロゼッタが梔子に手鏡をにこりと微笑み渡す、そしてドアへ行き男性陣を呼ぶ。
「ロ、ロゼッタさんちょっと…まっ…」
梔子が呼び止める間もなく、男性陣が入ってくる。梔子は恥ずかしいのか目をそらしながら、手くしで髪を整える。
「元気そうだな?クー!」
葵が最初に声をかけ、続けてアイズが梔子に礼を伝える。
「文月隊長!本当にありがとうございました。私達の為に!お陰でこの街から悪魔を撃退する事ができました。」
「あたしは捕まって、何も…」
梔子はダニーを撫でながら、ハリーを探すがそこにはいない。梔子の心中を察し葵が口を開く。
「ハリーさんは、今、デイト様とあざみさんと残務整理に行ったよ、終われば戻って来るよ、一晩中クーの横にいてくれたよ」
「べ、別にハリーのことは…」
梔子は下を向きながら呟く。
「梔子さん、今日はゆっくりしていただいて、明日出発いたしましょう。カラダに異常はないので、外出も問題ないですよ」
「ありがと、ロゼッタさん」
「クー、お腹すいてない?今日、どうする?お買い物でもする?」
「ありがとマニー、とりあえずごはん食べようかな…」
梔子は着替えて皆のいる部屋に入る。朝食の前に改めて梔子は皆に礼を言う。
「みんな昨日はありがとう。結局どうなったの?」
マノーリアが梔子の問いに答える。
「ハリーお兄様が来てくれたおかげで、クーを救えた事で、後は、攻撃に転じたから問題なかったわ!」
アイズが尋ねる。
「しかし、お二人のあの力はいったい…それとあの少女巫女は…本当に眷属神デイト・ア・ボット様なのですか?」
マノーリアが真面目な表情にキリっと変えて、皇国騎士団 騎士長 如月マノーリアとして答える。
「アイズさん、それにロゼッタ、夕べのは他言無用でお願いいたします。まだ、皇女に直接報告できていないので公式になっておりません。葵くんが転移者であること、わたしも含め、奥義紫炎を会得したこと…デイト・ア・ボット様が仮のお姿とはいえ、霊峰神殿で生活をなさることも、デイト様に関しては、この国のお話ですが、神殿内のお話なので、わたし達がお話しすることもできないですしね…」
「葵がデイト・ア・ボット様の加護を得ていることもかしら?」
「さすがに、ロゼッタには隠せないわね。」
「魔導師、神官職も得ている。わたしが、魔法、技能、加護を見違える事はないわよ!」
「既に、非公式で連盟には報告済みです。公式な公表までは、よろしくお願いいたします。」
葵がひとつ疑問に思う事を尋ねる。
「デイト様と呼んでいたら、バレバレじゃないの?」
ロゼッタがその疑問への返答をする。
「少なくとも、この国では、名前で疑問に思うことはないですね。この国の守護神から、名をもらい受ける人は、比較的多いです。デイトやデイトアは特に多いでしょね。それでは朝食にいたしましょう。」
朝食を済ませて食後のお茶をしながら、今日の予定を相談する。ロゼッタが残念そうにため息をつく。
「せっかく、皆さんが今日もこちらに滞在するのに、御一緒できないのが残念だわ!」
「ロゼッタ、何か予定があるの?」
「そうなの、お父様の代わりに、治療師の会合にでなければならないの、アイズ様はご予定は?」
「わたしも、夕べの件で、元老院と軍より合同聴取の出頭命令が朝方来ております。騎士団の編成もそちらで話し合うそうです。」
「アイズ様!騎士団へ復帰できるのですか?」
「それは、まだ軽率なことは言えません。ただ、追放されたわたしが、参加する場でそのような話があると事前に内容が通知されると言うことは、期待したいのも本音ですね。」
「おめでとうございます。アイズさん!」
葵がアイズに握手を求める。
「神無月殿ありがとう。しかしまだ…」
「いざとなれば、皇国騎士団あげて推薦しますよ!なんなら、ハリーさんにも力からて、連盟からも推薦してもらいましょう!アイズさんの人柄なら問題ないですよ!」
「申し訳ないですが、今日は3人で観光でもしていただければ」
「ロゼッタ、謝らなくても、わたしもクー知らない街ではないし、ね、クー!クー?」
「え、うん、そうだね」
「どうした、クー?まだ腹へってのか?」
葵が空気を読まないようにあえて茶化すように梔子に言う。
「減ってません!葵はいつも一言多いの!」
梔子が葵にべーっとすると葵がにこりと笑う。
「やっと、いつものクーだな!」
「葵はデリカシーがないわね!女性に対してそんな事」
「ロゼッタ、あれは葵くんわざとクーに言ってるのよ」
「マニーそう言う事は言わなくて良いよ」
葵がマノーリアに言われ照れ隠しをする。
「照れるくらいなら、最初から言うな!」
梔子が葵に反撃する。
「よーし!いつものクーになってきた!こかっらは手加減なしだ!」
「葵くんも悪のりしないの!」
「マニーに怒られてやんの!」
「クーも挑発しない!もう!子供じゃないんだから!」
マノーリアがふたりを叱り姿を見て、ロゼッタとアイズがクスクスと笑う。
「マノーリアと梔子さんが親しいのはわかるが、神無月殿もまるで昔からの付き合いのようだ、信頼しあっている証拠ですな」
朝食を済ませて皆各々に準備をし、三人は街に出る。この街は、王国の王都程は、大きくはないが、ビナスゲートの首都にふさわしく、城塞がもうけられ各区画で整備されている。新国家設立と共に、街並みの整備も行ったが、旧王国時代の城が、元老院議事堂として使用されている。庶民の住居や商業区画は、西門と南門区画が多い、民主化と共に随分と区画的格差はないが、やはり元貴族街区画は人気が高く家賃も高い。この街は、西門から東門へと川を通し、水路の運搬も可能としている。各門の水中には柵がもうけられており、外部の侵入できないように工夫がされている。その川のほとりが庶民の憩いの場となっている。買い物も済ませて、三人もその川のほとりを散策している。
「綺麗な街ね」
「これからどうする?もう買い物も良いだろ?」
荷物持ちの葵は両手にふたりの買い物の荷物と自分のわずかな荷物で塞がっている。
「そうね、ランチも美味しかったし、カフェもよってスイーツも美味しかったし!クーは行きたいところある?」
「え、あ、うん、あたしはもう少し散歩しようかな?ふたりは先に帰ってて!」
「クー!」
「夕食までには帰るから!」
「クー…」
「ひとりで考えたいこともあるんだろ…ハリーさんに久々に会ったし…」
「ハリーさんとのこと聞いたの?」
「団長から少しだけ…団長もふたりの気持ちがわかるから、苦悩してるみたいよ…それを見せたくないみたいだけど…」
「ハリーお兄様とクーの事を白檀お兄様も凄く喜んでたから…ハリーお兄様が連盟幹部推薦で指名されて…クーが斥候隊志願したのも、ハリーお兄様に憧れてだから…」
「ハリーさんって斥候隊だったの?」
「前任の斥候隊 隊長よ、ウチの騎士団では、唯一白檀お兄様と実戦訓練ができた人よ、しかも、白檀お兄様の試練の同行者のひとり、防衛戦の時に白檀お兄様が駆けつけたのが大きいけど、ハリーお兄様も一緒に戻られて、参戦したのもかなり大きいわ!それで連盟に行くことになったんどけどね。」
「そうだったのか…俺達は今回出る幕はなさそうだな…帰るか!」
葵とマノーリアは、見守る事にしてクローバー治療院に戻ることにした。
――――――――――――――――――――――
梔子はやり場の無い気持ちで、気分が良くない。無我夢中でこの街を走り行き着いたのは、元老院議事堂であるこの街の城の屋根にいた。斥候としての任務を果たせず、捕らえられ、救出され、ハリーも現れて、抑えていた自身の気持ちも抑えられなくなっていた。葵やマノーリアは力を得て、自分よりも圧倒的な強者となっている。今まで恵まれた身体能力と努力で上り詰めた分、梔子の挫折感は大きい。
「あたしはどうしたらいいのかなぁ~?はぁ~」
「ナァァ~」
「ピー!」
「ダニー!?ユキちゃん!?おいで~」
ハリーの支獣と自身の支獣が慰めるように、すり寄って来る。梔子は声をこらえるように下向きを泣いている。
「なんだ…らしくない、もう、音をあげているのか?」
「ハリー…あなただけには言われたくないなぁ…」
「強がるなよ…弱い自分を受け入れるのも…強さだぞ」
「わかってるよ…」
「わかってないよ!」
「何が?」
「お前を認めて、お前を信頼して、お前を受け入れてくれているやつらの事だよ!帝国で咲と花にお前が隊長で良かったと散々話されたよ、それにお前が弱いわけじゃなくて、葵やマニーが強くなりすぎた、それだけだ。」
「わかってるよ…」
「試練の状況もあざみ神殿長から聞いた。葵が加護を受けて、マニーが助力を受けられて、全員生還してるんだ。誇れよ!白檀の時はふたりが犠牲になった。大違いだ…」
「わかってるよ…ねぇ…ハリー」
「なんだ?」
「お仕事…楽しい?」
「楽しいも何もないだろ?諜報も斥候も…」
「確かに…ねぇハリー」
「今度はなんだ?」
「待ってても…いい…?」
「俺が…良いよって言うと思うか?」
「思わない………でも…やっぱり…好きなんだもん…」
「葵は?」
「好きなのかもしれない…けど…マニーの事も応援したい…マニーがああいうの初めてだし…」
「お前は辛くないのか?」
「ハリーの時ほど辛くないよ…」
「それ本人に言う?」
「あ~なんか考えるのが、バカバカしくなってきた!」
梔子は立ち上がり背伸びをする。
「あんまり遅いと、良い男見つけてるかもよ?」
「ハイハイ」
「好きになった相手が悪かったなぁ~」
梔子がハリーに背を向けて強がると後ろからハリーが抱きしめる。
「悪いな…」
「謝るな!」
ハリーが梔子の肩を抱き自分の方に向き直させキスをする。梔子は下を向き呟く。
「ズルい………」
「じゃぁな!」
ハリーは、そのまま帝国へと戻って行った。梔子はクローバー治療院に戻り、夕食後にマノーリアに葵と呼ばれた。マノーリアから日記帳をプレゼントされた。
「ふたりとも、素敵でしょ?」
「昨日のだ」
「クーがグリーンで、葵くんがブラウンで、わたしがバイオレット。明日でやっと皇国に帰るから、その前にと思って、この2週間葵くんと出会っていろんな事が起きたから、書いておこうよ!これからも毎日なんでも良いから書くの、これからもいろいろあると思うけど、3人で乗り越えよ!」
「マニー……ありがと…」
「なんか、終わりみたいじゃん!これからなんだからさぁ!」
3人は自室に戻り、この14日間の出来事を書き綴った。
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