第18話 17-神殿出発

 神殿に朝日があたり日の出を告げる。神官や武術道場生たちはすでに身支度を済ませ、朝の勤めの為にせわしなく移動している。葵達はあざみと朝食をとる為に準備された部屋に案内された。


「おはようございます。あざみさん」

「皆さん、おはようございます。」

「デイト様とリュウシ師範は御一緒ではないんですか?」

「デイト様はそろそろいらっしゃると思いますよ、師範は朝稽古に出られるとのことなので、皆さんが出発する時はお見送りされると言っていましたよ」


 あざみはお茶をコクりと一口飲み、カップを両手でそっと置き微笑む、大義を成した上に信仰する神が、共に暮らすのだから、いつも以上に幸福感が満ち溢れている。カップを置く、ただそれだけの所作がいつも以上に品位と優雅さが増している。デイトが部屋に入ってくる。昨日とは装いが違いこの神殿の巫女服を着用している。


「皆さんおはようございます」

「デイト様とてもお似合いです。かわいい!」


 無表情のデイトが若干恥ずかしそうにしている。少女の姿をしているので、葵にはバイト巫女が友達と初詣で会って恥ずかしそうにしているようにしか見えない、本来の姿はあのデカイ山なのに、今のデイトの胸は霊峰のような拝みたくなる山はなく、小高い丘が2つあるだけだなと窓から見える霊峰を見ていると、デイトが葵に抗議してくる。


「神無月さん、今高確率で失礼なことをお考えですね?」

「葵!デイト様で何イヤらしいこと考えてるの!」

「イヤ、デイト様もその姿だと可愛らしい女の子だなぁ~昨日の鎧姿とは違うなと思っただけです。」


 葵は神様に受け流しが通じるのか疑問だし、デカイ山なのも胸は霊峰でないのも事実なので嘘はついてないと心の中で思う。


「デイト様!気をつけて下さい!こう見えて葵はスケベですから!デイト様のかわいい姿見て、なに考えているかわかりません!」

「コラコラ!クー!朝から何吹き込んでいるんだよ!」

「事実でしょ!」

「否定はできないな…」

「葵くん!今は否定しなさいよ!」


 マノーリアにも注意されるが、男がスケベなのは事実なので仕方がない、あざみが3人のやり取りを見て微笑む


「3人は仲が良いですね~こんな賑やかな朝食は久しぶりですわ!」

「あざみさん、騒がしくて申し訳ありません」


 葵と梔子が言い合いをしているのを横目で見ながら、マノーリアが気まずそうにあざみに謝罪をする。デイトが口を開く


「如月さん、文月さん。楽しめる朝が来ることは良いことです。男が異性に興味を持つのも良いことです。そのように造られています。しかし、神無月さんはわたしのこの姿を見てもそれほどでもないようです」


 デイトが葵の股間をじっと見る。


「デイト様?どこ見てるのかな~その姿でその視線はまずいと思いますよ~」


 葵が股間を凝視され若干困りながら注意する。


「これは、失礼しました。民の男の欲情状態を測るには生殖器の膨張を確認するとのことなので、データ収集しておりました。」


デイトの発言に全員が言葉を失う、デイトの今の容姿では耳年増な少女の行き過ぎた態度にしか見えない。


「デイト様こちらで生活するならば、民の生活様式やマナーもご理解いただく必要がありますね。そのお姿でそのような振る舞いは、非常にはしたない行為になります」

「そうなのですね。わたしも民達と生活することで失ったデータが回復するかもしれないので、学びたいと思います」


デイトの口調に少し抑揚が出てきたように皆が思う。


「皆さん、席について朝食にいたしましょう」


朝食をとりながらあざみが3人にこれからの旅について質問をする。


「これから旧道を東側に向かわれてからどうされるのですか?」


 マノーリアが答える。


「できれば、ビナスゲートの首都には旧友がいるのでお会いしたいと思っているのですが、予定が押しているので…」


梔子が口を挟む


「マニー!顔だした方が良いよ!ロゼッタさんでしょ?そのくらいは皇女様だってビャク兄だってダメとは言わないよ~!ねぇ葵?」

「友人いる街に行くなら訪ねても良いと思うよ、最近会ってないならあった方が良いんじゃない?」

「1年ぶりかしら?ふたりがそういうなら、訪ねてみようかしら?」


 マノーリアが旧友と会うことに思いを馳せて少しだけ顔をほころばせている。あざみが目を上に向け何か考えている。


「ロゼッタさんとは、クローバー治療院のご令嬢のクローバー・ロゼッタさんですか?」

「はい、わたしの母も治療師でその縁で知り合い、王国留学の時はルームメイトでした。あざみさんもお知り合いだったのですね?」

「クローバー治療院は首都で一番大きい治療院ですからね。ロゼッタさんとは、ストロングスピア防衛戦の時に一緒に従軍し、結界や後方支援をしておりました。」

「そうだったんですね。世間は狭いものですね。」


葵が質問者をする


「治療師ってどんな仕事なの?」

「魔法で治療をするの薬学の知識も必要ね、錬金術で薬を精製することもあるから」

「あっちの世界だと医者なんだろうけど、薬まで造るって凄いな」


葵達の世界の医者と薬剤師の両方の資格もっていて、さらに魔法で治療し薬を造る万能な仕事でこちらの世界でも魔力量だけでなく学力も必要な職業であった。あざみが別の話を切り出す。


「首都に行かれるならばお耳に入れておいた方が良いかと思うので…実は最近首都で騒ぎ事になっていることがあって、お気をつけ下さい。」

「どんな騒ぎ事なんですか?」

「どうも、因縁をつけて騒ぎたてるようで、運の悪い方は裏で身売りされたなんて話を聞きます」

「政府や騎士団は対策していないんですか?」

「それが…どうも主犯が最近力をつけて来た豪商の大棚で力のなくなった旧貴族を取り込んで好き勝手やっているそうです。神殿でも助けを求めて来た方を保護しているのですが、国の中枢まで癒着しているとも聞きます。もしかすると、騎士団の一部も取り込まれているかもしれません。やはりこの地は邪神に目をつけられているのでしょうか?」


あざみがデイトを見て、すがるような目をする。


「戦略上入りやすい位置にあるのは事実でしょう、ですが結界の歪みはどこにでも起こりうるものですね。魔族に心を捧げておりますね。その民は」

「やはりこの地はって何かあったんですか?」


 葵が質問するとあざみが説明する。20年前にビナスゲートは別の名の国であり、王朝国家だったが王家が魔族に取り込まれて、国に戦乱が起きて各国からも出兵し沈静化した。王国は解体され同時に貴族も解体され民主制をとった。しかし、今まで貴族権力を我が物顔で行使していたものは納得するわけもなく、いろいろな手を使い権力を維持しようとする貴族もいるそうだ。先祖代々からの実直に国の為に勤勉に勤めていた貴族は解体されても良家として名を成しているが、没落するような貴族は見栄と強欲に溺れ魔族に取り込まれやすい。葵がさらに質問する


「さすがに、皇国騎士団の騎士長と斥候隊隊長を相手にゆすることはないでしょう?」

「強欲な人は何をするかわからないわ!わたしはロゼッタが心配です。やはり訪ねて元気な顔を見たいですね。」


 目的が決まり部屋を出て、各々準備を済ませ馬車に荷物を積み込む。


「では、道中お気をつけ下さい」

「ありがとうございます」


 道場の方からリュウシが来て3人に声をかける。


「皆、気をつけてな!試練に同行できて良かった。感謝する。」

「こちらこそ、師範がいなければ加護を得られなかったと思います。本当にありがとうございます。」

「神無月さん。有事の際は必ずリンクを使ってわたしを読んでください。」

「わかりました。デイト様!」


 3人は馬車に乗り込み、マノーリアの支獣のアリスが走り出す。東側は下りなので早いが馬車の車輪にブレーキをかけながら下る。アリスが馬車を引くので先に行く馬車を追い抜き、地竜の馬車を何台か抜き麓まで降りてきた。すると前方に馬車が1台脱輪している。


「大丈夫ですか?手を貸しましょうか?」

「スピード乗りすぎて脱輪しちまった!けど…お嬢さん達だけじゃ」

「問題ないですよ!葵くん」


葵はグラビティコントロールをかけて馬車を押す


「あんちゃんスゲーな!見かけによらず怪力だな!それとも魔法か?」

「まぁ~そんなとこですよ!おじさん車軸いっちゃってますね」

「あ~!直してたら時間がなくなる!昼までに届けなきゃなきゃなねんだ!」

「ご主人、どちらまで行かれるんですか?」

「この国の首都だよ!お嬢さん手間賃だすから馬車で引いてくんねぇか?」

「手間賃なんていりませんよ!クー!ユキちゃんにつかませて運べる?」

「大丈夫だね!ユキちゃんよろしくね!」


馬車は2台連なりビナスゲートの首都に向かうことになった。

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