第17話 16-マルチパープルの力
砂ぼこりで広場の視界が悪く、周りの状況が把握できない、マノーリアの安否は不明。声をかけても返事がなく動きが止まる葵と梔子にリュウシから檄が飛ぶ。
「葵!梔子!手を止めるな!手を動かせ!攻撃しろ!マノーリアを助ける手段はそれしかない!」
片足を破壊しただけでゴーレムを倒したわけではない、ただ倒れたことでゴーレムの動きを止める事には成功したが、気を緩める段階にはない。
「アイツを起き上がらせるな!次は左足だ全員で左足に集中攻撃するぞ!」
リュウシから指示がかかるが、その時、破壊したゴーレムの右足に砕けた石が集まり、足が再生されその足がリュウシを蹴りとばす。
「ぐぁっー!」
「師範!」
リュウシが端まで飛ばされるが、アリスが背に乗せあざみがいる結界まで運びあざみが叫ぶ
「師範は大丈夫です!」
ふたりはリュウシの無事に安堵し葵はアリスの姿を見てひとつの答えを導く。
「クー!アリスがいるならマニーも生きてるって事だよな?」
「死んでない…とは言えるけど…」
ゴーレムが立ち上がろうとした瞬間、マノーリアがいるであろう右手の下が、微かに紫色に光った後に、手が細かく砕け飛び散る、正確には刻まれたが正解だろう。支えていた手がなくなり、ゴーレムがバランスを崩す。砂煙の中から、淡い紫の炎のようなものに包まれたマノーリアが葵と梔子の元にやって来た。
「クー!葵くん!ゴーレムを倒すわよ!」
「マニー!それって…」
「紫炎が使えるの?…」
「話は後!」
マノーリアは葵と梔子の問いを制止して、ふたりに攻撃をするように促し、立ち上がろうとするゴーレムの右足に剣技を3連撃放つ、マノーリアの剣技が先程とは明らかに違う、マノーリアは体だけでなく、武器である薙刀の刀身までもが紫色に輝いている。梔子がゴーレムの気をそらすように支獣2体と攻撃をし、リュウシが治療を終えて結界から出て参戦する。葵がリュウシにグラビティコントロールをかける。
「師範!お願いします!葵くん!わたしの魔力を感じて!強く自分を信じるの!」
「せぇーい!!」
リュウシの一撃で、マノーリアが攻撃した右足が崩壊する。葵の体内に流れるマノーリアの魔力を感じようとイメージする。穏やかで温かく気高く流れる魔力を掴むように手繰る、この異世界に転移してたった10日前後だが寝食を共にして生死を互いに預けてきた。毎日が濃厚であっ たことは間違いない。マノーリアと梔子への信頼はもっと長い付き合いだと思えるほどに、信頼をしているし情も感じている。あちらの世界では薄れていた感情だった気がする。転移者というだけで、無条件で受け入れ救ってくれたマノーリアと梔子には、心の底から感謝をする。加護の力もこの魔力も全て借り物の力であって、自分が何かを成し遂げたわけではない、しかし、最低限それを受け取れるだけの資質があることは証明したいと強く思う。すると葵の脳裏にマノーリアの優しく温かい笑顔が映り、葵の感情に何かが刺さり溢れるように思いが声になる。
「この笑顔を曇らせるわけには…いかないよな…」
すると葵は体の変化を感じ、熱を感じ体の中の何かを自分の意志で動かせることを感じ、それを体全身に巡らせ圧を高めていく、すると力が湧きはじめて来ることを実感する。体から紫の何かがゆらゆらと出てくる、ブロードソードを持った右手にさらに圧をかけると、ブロードソードの刀身が紫のコーティングをしたように輝きはじめる。
「やれる!やってみせる!」
葵はマノーリアとリュウシが足と腕への攻撃が効果があるのを確認して、陽動をしている梔子と支獣の元へ行きグラビティコントロールを自身にかけてゴーレムの直上へ飛ぶそして下にいる梔子に声をかける。
「クー!ユキとアリスと顔面に集中攻撃してくれ!とどめをさす!」
「わかった!」
梔子と支獣2匹が顔面に魔法を乱発して、梔子がゴーレムの顔に剣技を4連撃して体力がつき落ちていく、それをユキがすくいあざみのところへ避難する。
「クー!後は任せろ!」
葵は自身とブロードソードにグラビティコントロールをかけ、ゴーレムの直上から紫炎をまとった葵が剣技を放つ。
「これで終わりだぁ!!ランドスライド!」
葵はさらに飛び上がり確実にしとめる為に赤い宝石を目がけてブロードソード突き刺し剣技を放つ。
「ディスピア!」
葵がゴーレムの額にブロードソードを突き刺し額からゴーレムが砂となり崩れていく。
「終わった…」
無表情の少女デイトが少し目を丸くする。
「まさか、魔力コントロールまで、ものにするとは…やはり神無月さんは強運の持ち主ですね。如月さんの力を目覚めさせられたのは計算外でした」
葵のところに皆が集まり、あざみが全員に回復魔法をかける。梔子も無事のようだ。葵は少女デイトを見て口を開く。
「デイト様これで試練は終わりですか?」
少女デイトは人差し指を顎にあてて小首をかしげる、かわいいリアクションをしても、やってることは、かなりえげつないぞと葵は思いながら返答を待っている。
「せっかくなのでもう少し試したいですね」
「まだやるんですか…」
葵は少しうんざりする。
「加護を与えるのはお約束します。これから実施するのはあくまでも追加テストです。一気に成長されている皆さんなので、もう一段階レベルアップしたりするのでは?というわたしの個人的興味です」
マノーリアが葵の横に立ち少女デイトを見る。
「デイト様!次はどうされるんですか?わたしは何度でも立ち向かいます!葵くんがこの世界に来て良かったって言ってもらえるように」
梔子も隣に立つ。
「わたしももっと強くなる!ふたりともっと一緒に冒険したい!こんな楽しいのは、はじめてだし!」
少女デイトが祭壇を指で叩きはじめる。
「では、最終テストです。わたしと戦って下さい」
「はい?」
少女デイトに昨日見せたゴーレムアバターに似た漆黒のゴーレムが現れ分裂し、鎧のように装備される。鎧というよりもパワードスーツのようだ。片手にはツーハンドソードを握っている。パワードスーツを着ていても、兜やマスクは着けておらず、少女の容姿にその大剣はアンバランスだ。
「久しぶりにこの姿になります。楽しませてください。行きますよ!」
「全員散開!!予定どおりマノーリアの支獣は神殿長の護衛に着け!」
「了解!アリス!あざみさんをよろしくね!」
リュウシが全員に散開の指示をだし、あざみが後方に下がり結界をはる。あざみは全員に防御の支援魔法をかける。デイトがツーハンドソードをあざみに向ける。
「あざみさん。まず回復、支援役には早めに退場していただきます」
デイトはあざみに向けて眷属神の力を手加減なく発揮する。
「メテオシャワー!」
葵が使っているクラッシュロックが比にならない、流星群のような光石があざみの結界を易々と破壊し、あざみとアリスに攻撃する。
「あざみさん!」
「早く救護を!」
「心配はありません、戦線離脱していただいただけです。そのまま終わるまで安眠していただきます。ピラミッド!」
倒れたあざみの周りに石が積み上げられ小型のピラミッドが造られた。デイトはリュウシに向き直る。
「お次はリュウシ師範!あなたです。」
デイトが高速でリュウシに迫る、リュウシは持ち前の身体能力でかわす。
「さすが、リュウシ師範、その運動能力は常人の頂点に位置するでしょうね。しかし、守星の為にはさらに高嶺を目指す必要があります。あなたにはそれに挑戦できる選ばれた方です。」
デイトが大剣をまるでナイフのように軽々と操り、リュウシに猛攻を仕掛ける、リュウシは防戦となるが、一瞬の隙に剣をよけて、懐に入り脇腹部へ連撃を放ち、間合いを開け、後ろ回し蹴りを繰り出す、全て奥義紫炎と魔法の合わせ技で、現在のリュウシ持つ力の最大の攻撃を行ったが、デイトは無表情にリュウシの蹴りあげた脚を抱え投げとばす。
「なかなかやりますね。ですがこれで終わりにしましょ、クイックサンド!」
リュウシの周辺に流砂が発生しリュウシが埋もれ行く、するとあざみのいるピラミッド脇に新たなピラミッドが造られる。デイトはそのまま梔子に接近する。
「文月さん!次はあなたです。その身体能力、剣術・魔力量に問題ありませんが、まだまだ、適正以下ですね。あなたの成長を首を長くして待っている、眷属神がおります」
「させるかー!」
葵が梔子とデイトに割って入り切り抜ける、立て続けにマノーリアが剣技を放つ。
「クー!皆で行くわよ!」
「わ、わかった!」
「まとめてですか…仕方ありませんね。皆さん頑張って下さい」
デイトは葵とマノーリアの攻撃を大剣でかわし、もてあそぶように3人と支獣2匹の攻撃を交わし続ける。マノーリアが剣技を放つとふわりと交わし、マノーリアの薙刀の刀身に立つ。
「如月さんは大技が多いですね。文月さんは風魔法をもう少し強化する必要がありますね。神無月さんは全般的に強化が必要ですね。1ダメージくらいはわたしも受ける覚悟でしたが…」
「葵、マニー!絶対に一撃はデイト様にあてるよ!」
「では、期待しましょうか」
デイトがふわりと浮いて戦闘再開となる。梔子と支獣2匹が攻撃を仕掛ける。梔子は魔力を全て使い高位魔法を乱発し剣技を4連撃放つ。
「マニー!葵!後、おねがい!かまいたち!疾風斬!ダブルエッジ!シャープラッシュ!」
デイトは梔子の魔法と剣技を大剣で弾いて防御する。
「お疲れさ…」
「まだまだ!」
葵が紫炎をまといながら、梔子の攻撃途中にデイトの後方から攻撃を仕掛ける。
「クイックレイヤ!ランドスライド!ディスピア!」
葵は剣技を放ち、紫炎の力を止めて全ての魔力を魔法として顕現させる。力尽き倒れ込む。
「マニー!頼む!」
マノーリアが剣技と魔法を放つ。
「紫炎乱舞!花吹雪!五月雨!月光!乱れ咲き!」
「皆さん成長が必要ですね、今回は魔法コントロールを如月さんができるようになったので良いとしますか」
力尽きて倒れ込んだマノーリアが隣で倒れている葵の手を握る。
「まだ…少しだけ…魔力…あるから…」
マノーリアが葵のブレスレットに手を当てポーションを口に含み葵に口移しをして気を失う。
「ゴ、ゴホッ!」
葵は目を覚ますが、むせてポーションを吐き出してしまい、なめた程度の回復しかしなかった。ブロードソードを杖のようにして、デイトに抱きつくようにもたれかかり、左手のダガーの剣先がデイトの鎧にコツン当たり、また気を失う、デイトは少しだけ瞳に潤むものを感じる。
「久方ぶりですね…人の温もりというのは良いものですね…造られたわたしでも、感情を感じられるのですから…」
デイトは何か懐かしむように葵の体を抱きしめる、全員に回復魔法をかけピラミッドを解除する。
「皆さんお疲れさまでした。以上で適正テストは終了です。お約束通り、神無月さんに加護を与えます。如月さんには助力を与えます。神無月さんはリンクが常に使用できるようになります。もし、危険があった時は、わたしをお呼びください、本来の体ほどの力は出せませんがこの体でもある程度は戦えますので」
梔子が素朴な疑問をする。
「デイト様の本当の体ってどこにあるんですか?」
「皆さんの足元ですよ。ここは肩になります。あそこを見てください」
デイトが山頂付近を指差すと山頂から少し下に光る瞳を見つける。
「わたしが動くと被害が発生するので、神無月さん達をお連れするのに被害がでなくて良かったです」
「街道の土砂崩れはデイト様の仕業だったんだ…」
「夕暮れも近いですから神殿にお戻り下さい。皆さんにお会いできて良かったです。あずみさん、リュウシ師範これからもよろしくお願いいたします。あなた達の働きで、わたしも自身の使命を忘れずにいられました。感謝を…。この姿なら神殿に行っても騒ぎにならないでしょうか?皆さんとお会いして、人恋しくなってしまいました」
「デイト・ア・ボット様…ありがたきお言葉…是非お越し下さい」
あざみが膝をつきデイトの手を包むように握りしめて見つめている。まるで姉妹のようだ。
「皆さん、下山いたしましょう」
霊峰デイト・ア・ボットの西側に日が傾きかけ、2時間もすると日が落ちる。デイトは神殿長着きの巫女という扱いでこれから生活していくことになった。葵達は明日昼前に神殿を出発し皇国を目指す事となった。
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