第16話 15-試練

 リュウシとの稽古を終えた3人は、明日の試練に挑む為の準備にあてていた、夕食前に明日同行するあざみとリュウシと打ち合わせする為、あざみの自室を訪ねる。


「あざみさん失礼します」

「どうぞ、お入り下さい」


 リュウシは既にあざみの部屋に来ていたようでテーブルの席に座っている。


「では、みなさん、明日の試練について、お話し合いを始めましょうか」

「あざみさん、試練の詳細はお分かりになられましたか?」

「ええ、おそらく、デイト様が創造した相手と闘うかと思います」

「この書物をご覧になっていただけますか」


 あざみはテーブルの上にかなり古い書物をテーブルに出す。過去にデイト・ア・ボットの試練を挑んだ者がいない為、試練がどのようなものかがわからない、あざみは午後から神殿の禁書庫に立ち入り何か情報がないか調べてくれていたのだ。その内容が記載されてあるだろうところに紙が挟まれておりあざみがひらく


「こちらの文になります。青星の民に力を与えし器になりうる民か、眷属が生み出し組伏せるかを試みる。両星の守り手になりうる器であること女神の眷属となりうる器か眷属が試みる、器となりうる青星の民を導き、女神の目覚めをもたらす」

「その一文からですと確かに闘いそうですね、その後の内容も気になりますけど…女神の眷属とか女神を目覚めさせるとか…なんかすごい話じゃないですか?」

「文面をそのまま解釈すればですが、女神の目覚めを何を意味するのかはまだわからないですね」

「あざみさん、文面上あまり禁書になる内容でないと思いますけど…何故禁書庫にあったのでしょうか?」

「禁書の理由は解釈を間違え誤解を招く内容が多くあり、狂信者を生みかねない為とされています。女神が目覚めるとかかれていれば、そちらを追求したいとするものは多くいるでしょうから、それによって極端な信仰にならないように禁書にしたのかと思います」

「なるほど~試練の事はこんなところで、祭壇の場所までのルートとか戦闘時のフォーメーションとかはどうしますか?」


 梔子がポンと手をうち話の話題を変えてきた。


「祭壇の周辺は結界をはっております。道中はモンスターや魔族に遭遇する可能性がありますね。回復と援護はわたしにお任せください」


 あざみが祭壇までのルートを説明する。道中はそこまで険しくないが、魔族やモンスターとの遭遇はあるらしいが、強敵が出てくることはほとんどないらしい、あざみは神官職である為、神官職の技能として回復系全般や結界・領域援護等の魔法を得意とする。そもそも神官職と魔導師はもっとも魔力量が多いものが適正者となる。その次に魔力量が重要視されるのが騎士や錬金術師となる。あざみは神官職でも上位神官である神殿長である為、眷属神の代行者であるがゆえに限定的な加護の力を与えられている。あざみが説明が一段落するとリュウシが口を開く。


「前衛は私と梔子、梔子の支獣で葵とマノーリアが遊撃を神殿長の護衛にマノーリアの支獣をつけてくれ」

「わかりました。ところで師範は武術では魔法を使用されませんが魔法も使えるのですか?」


 マノーリアがリュウシに質問し、リュウシはそれに答えるが、リュウシは魔力量がそこまで多くないらしく一般人程度らしい、マノーリアは柴崎の魔法製品のブレスレットをテーブルにおいて説明する


「こちらの魔法具は、作製者側の意向と皇国騎士団の備品となります。御譲りすることはできないのですが、お貸しすることは可能ですのでご使用ください、今から装備すれば魔力も充分補充できると思います。低魔法であれば60回使用できます。マジックポーションでも回復します」

「マノーリアさん、ありがたくお借りします。」

「感謝する。物理攻撃に耐性のあるものが相手場合は、私は前衛として役にたたなくなるからな」


 あざみとリュウシがブレスレットを受け取り、マノーリアが説明する。各々必要な魔法の詠唱を読み込めば使用可能だ。


「では、明日よろしくお願いいたします。朝9時を出発とします。昼前には祭壇の広場に到着できると思います。今日は準備できたらゆっくりお休みください」

「わかりました。ありがとうございます。」


 その夜は準備を終わらせて、明日の試練に備えることとなった。翌朝予定通りに集合し、神殿奥にある山道入口より入山する。山道ではモンスターに遭遇するが難なく倒し先を進む、魔族とは遭遇することはなかった、もともとこの霊峰には魔族はおらず、結界の歪みからわいて出るか、他の山々から渡って来たものが潜むことはあるらしいが、武術団の面々が日々警らしている為、近年この霊峰で強敵のモンスターや魔族に襲われるような被害の報告はないそうだ。 途中何度か休憩をするものの大きなトラブルもなく、祭壇の広場まで到着する。


「ここが祭壇の広場になります。あちらが祭壇となります。」


 あざみが指差す先に広場の中央に大きな黒い長方形の石が横たわっている。その周りに石像などが置かれているが石の材質や雰囲気からして人の手によって置かれたものであろう、デイト・ア・ボットが祭壇をコントロールパネルと言っていた事を考えると黒い石はデイト・ア・ボットが用意したのだろうと葵は考えた。


「あざみさん、祭壇の前に立つといきなり試練始まったりしますかね?」

「神無月さん前例がありませんので、しっかり準備してからの方がよいでしょう」


 葵が皆を見ると全員がうなづく。広場の入口で全員がポーションを飲み体力・魔力全快させる。マノーリアが葵に近づきいつものように拳を葵の胸当て健闘を祈る。


「葵くんなら大丈夫だよ!頑張ってね!わたしたちが一緒だから…」

「誰も経験したことのないことないんだから楽しんじゃお!」

「そうだね!やるだけの事はやってみよ!」


 梔子も同様に健闘を祈り葵も祈りを返し、リュウシとあざみからも声がかかる


「葵、この場に立ち会えて私も感謝している!悔いを残すなよ!」

「わたくしも最善を尽くさせていただきます。神無月さんに祝福あらんことを」

「俺も最善をつくします!じゃ祭壇に行きますね!」


 全員がうなづき、祭壇に向かおうと広場の入口に入った瞬間にあの少女の声が聞こえ、祭壇の前に少女デイトが現れる。


「自動接続完了…神無月さんそれに緑星グリーンプラネットの民のみなさん、お待ちしておりました」

「デイト様、試練を受けに来ました。どうすれば良いですか?」

「では、さっそく神無月さんの適正テストをしていきましょう、コントロールパネルに両手を置いてくださいエントリーを行います。」


 葵は両手の手のひらを祭壇の上に置くと祭壇の上面が青く光


「まずは、神無月さんは騎士を選ばれたので剣技を見ましょう、こちらは神無月さんお一人での実施になります。わたしの加護と魔法は使用できません、1分後にスタートです」

「えっ!?」


 葵は最初から加護と仲間の助力を得られないことで呆けた声を漏らす。広場の祭壇を中心に領域が作られ、葵以外は押し出されるように広場の端に追いやられる、すると、葵の周りの地面から、人の形をした数体のはにわのような泥人形が現れる、手には鉱物で造られたような、剣や槍を装備している。背格好は葵と対して変わらない。すぐさま、葵は囲まれ攻撃される。


「葵くん!」

「葵!」


 葵以外の者はその封鎖された領域に入れず、固唾をのみ見守るしかない。彼女達の前には、シャボン玉のような透明で光の加減では虹色に光る膜があり、ガラスの壁のようになっている、上空からマノーリアと梔子の支獣のアリスとユキが入ろうとするが、透明で何も見えないが、上空も閉ざされていて支獣も入れない。


「くっ!なんとかなりそう!」


 葵は左側からの攻撃をガントレットで防御し、右側からの攻撃をブロードソードで受け、正面の敵を蹴り倒す。正面が空き正面に回避し、右側の敵を切り払い、左側の敵を反転し突き刺す。倒れていた正面の敵をダガーで突き刺す。後方の敵が正面となり一刀両断する。倒すとまた地面から別のはにわが出てくる。


「そこまで強くない!ゴブリン程度だ!」


 20体ほど倒しようやく新たな、はにわは出てこなくなった。


「終わったのか?」

「お疲れさまでした。神無月さん、まだまだ伸び代はあるようですが基準は満たしています。では、次はみなさんと協力して下さい、神無月さんに与えた力は全て使用が可能とします」


 少女デイトがそういうと閉鎖領域が解除され皆が葵のところへ駆け寄る。


「葵くん!大丈夫?」

「問題ない!ポーションを飲んでおこうかな?」


 葵は息を整えながら、ポーションケースに手をまわそうとするとあざみが手を出してヒールをかける。


「神無月さん、ここからは可能な限りヒールで回復させましょう。全員の魔力がつきた時にポーションを使用してください」

「わかりました。」

「準備はよろしいですか?」


 少女デイトから声がかかる。リュウシと梔子が葵の前に出て、マノーリアが横に立つ、あざみが後衛から全員に攻撃・防御の強化魔法を顕現させ、周囲直径5メートル程度の範囲に結界魔法を顕現させる。


「みなさん、危険を感じたら必ずこの結界内に入って下さい」

「了解!」

「わかりました!」

「承知!」

「オッケー!」


 地面から大きな成形された岩が隆起する。ずんずんと高くなり長方形のブロックのような岩が5メートルほどの高さになり、岩に縦横に青く光の筋が入り手足と頭が露となった。


「ゴ、ゴーレム!?」

「全員!警戒!!」


 少女デイトふわりと浮いてゴーレムの肩に乗り、ゴーレムの額を指差す。


「このゴーレムを停止させるにはここを攻撃するしか方法はありません、みなさんで協力して倒してください。」


ゴーレムの額には赤く光る石が埋め込まれている。あざみ以外の4人がゴーレムへと向かう、あざみが後方から魔法を放つ。


「スピアスコール!」


 無数の水の槍がゴーレムを襲う、マノーリアが闇魔法のデコイを前衛のふたりにかけて、リュウシと梔子がふたりになる。支獣のユキとアリスは上空から攻撃を仕掛ける。葵が加護のクラッシュロックで攻撃し、リュウシと梔子がゴーレムの足元へ入り梔子が風魔法の高位魔法のハリケーンを放つ、リュウシが奥義紫炎の力でゴーレムの片足を集中的に打撃を与える。ゴーレムが足でリュウシを蹴散らそうとするが上手くかわす、さらにゴーレムの拳がリュウシを襲う


「ロックウォール!」


 葵がリュウシの手前に壁を造り、ゴーレム攻撃が外れゴーレムの拳が地面に突き刺さり、その腕をふたりの梔子が駆け上がり、ゴーレムの顔面目掛けて、魔法からの剣技の連撃を放つ。


「ウィンドウスラッシュ!シャープラッシュ!疾風斬!」


 連撃を終えた梔子と入れ代わるように支獣のユキが同じ場所を攻撃する


「なっ!?くっ~!」


 梔子が声にならない声を出した瞬間に梔子とユキが吹き飛ばされる、ゴーレムがもう片方の腕で梔子とユキを殴りつけた。


「クー!」

「だ、大丈夫!」


 先に体制を立て直したユキが梔子を背に乗せて後方に下がる。梔子下がったのでマノーリアが前に出てふたりのリュウシに声をかける。デコイの魔法は自分にかけた以外はかけた術者にも本物がどちらだかわからない。


「師範!攻撃を与えているのはどちらですか?」

「右足だ!」


 マノーリアは右足にリュウシの打撃とともに3連続で剣技を放つ。


「乱舞!乱れ咲き!月光!花吹雪」


 マノーリアの剣技は攻撃力と引き換えに防御が甘くなり、ゴーレムの振りかぶった拳に狙われる、葵が壁を造るまもなく拳がマノーリアを捉え振り下ろされる。


「マニー!ぐはっ!」

「葵くん!」


 マノーリアと拳の間に葵が割って入るが吹き飛ばされるが葵は温存していたグラビティコントロールをかける。ユキと梔子が葵を回収する。同じテイドに造られたゴーレムだからかそれ以上の存在だからか、さほど重力の影響を受けていない


「は、は、は、多少は動きが鈍くなったか?」

「大丈夫!葵!」


あざみがみなに声をかける


「みなさん、一度立て直しましょう!」


 マノーリアが支獣のユキとアリスにブラフを二重にかけて各4体8体にしてゴーレムを撹乱させて、その間に結界に戻る、あざみが全員に回復系魔法をかける。


「攻撃が効いているかがわからないわ!」

「マノーリア効いてはいる…攻撃している者から、ゴーレムも攻撃してきている」

「グラビティコントロールが対して効かないのもきつい!自分達にかけて凌ぐしかないな」

「水属性の魔法は効いているように感じます」

「風魔法はあんまりです、あたしたちの剣技もあまり…師範はどうですか?」

「マノーリアと同時に攻撃した時は、後、一手二手で芯に届くように感じるのだが…梔子、支獣ともにアイツの気をそらしてくれ!攻撃は私とマノーリアが担う」

「わかりました!」

「わたしにもう少し力があれば…」

「マニーそれは言いっこなしだ!俺はもっと不甲斐ない…」


 葵は自分の不甲斐なさを噛み締めながらもマノーリアの肩をポンと叩くが、マノーリアは下唇を噛み目を潤ませている。感情が溢れ口から漏れでる


「…わたしは、葵くんの力になりたい!この世界に来たことを悔やんでほしくない!」

「ユキとアリスが限界!あたし先に行くよ!」

「マノーリア、葵行くぞ!私とマノーリアが攻撃している間に防御を頼む!」

「俺の攻撃が弱いなら!」


 葵は梔子と支獣の攻撃に合わせてロックウォールをゴーレムの左足の足元に起こしバランスを崩すが、ゴーレムは耐える。


「葵!今のは悪くない!次は攻撃の後だ!」

「わかりました!俺が先行します!」


 葵はグラビティコントロールをかけ、自身の体を軽くして跳ねるようにゴーレムの足元に突進する、ブロードソードにグラビティコントロールをかけ2連撃の剣技を浴びせる。


「ランドスライド!クイックレイヤ!マニー頼む!」


 葵は防御体制を整え仲間のサポートにまわり、マノーリアにグラビティコントロールをかけ、葵が攻撃したところを畳み掛けるように、マノーリアが剣技を4連撃を放つ。



「乱舞!月光!花吹雪!乱れ咲き!五月雨!師範!」


 マノーリアとリュウシが入れ代わり、葵のグラビティコントロールがかかり、さらに奥義紫炎の紫の炎をまとったリュウシが猛攻を仕掛ける。


「はー!せいっ!とどめっ!食らえー!」


リュウシは猛攻の打撃の最後に紫炎とさらに水属性魔法を拳にまとわせてゴーレム内部に数発放つ。


「ウォーターショットガン!」


 リュウシの放った攻撃でゴーレムの足が崩壊する、そのタイミングで葵がロックウォールでバランスを崩し、梔子と支獣とさらに後方のあざみの攻撃がゴーレムに浴びせられ、バランスを崩したゴーレムが右前に倒れる、倒れ込むゴーレムの手の下に、力尽きていたマノーリアが立ち尽くしていた。


「マニー!」

「マノーリア!」

「届け!ロックウォール!」


葵のロックウォールは届かずマノーリアの手前に壁ができるがゴーレムによって崩され、ゴーレムが倒れ砂ぼこりが周りに立ちこめ、葵と梔子の呼びかけには返答がなかった。

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