第19話 18-街道の野盗と自警団
支獣の引く馬車が地竜や馬や牛のようなモンスターが引く馬車を何台も追い抜いて行く、旧街道も対向する馬車がいなければ充分に追い抜ける道端がある。新街道は馬車3台が並列して走れる道端がある。
「支獣ってのは~便利だなぁ~お嬢さん方は良いとこ家なのかい? 支獣連れてるなんて普通の家じゃねぇ~ よなぁ? 」
救助した馬車の主人が隣の梔子に尋ねる。
「ええ、まぁ、ハハハ…」
梔子が困りながらマノーリアに助けを求める。主人の問いに、答えずらそうにしている梔子を見て葵がウソぶく。
「ええ、ご主人ここだけの話なんですが、彼女はお忍びで旅に出ていた良家の令嬢でして、俺と彼女が護衛で雇われた冒険者なんですよ、なので内緒でお願いいたします。それが助けた礼が不要の理由です」
「そぉうなんかいわかった。オレは口がかてぇのが取り柄だからよ~ ところでぇわりぃんだけどよ~ ちと腹がいてから一回休憩してもらっていいか? 」
馬車を端に止めて休憩する。主人が用を足しに離れたのを確認し梔子が軽くため息をつく。
「助かったけど…とっさに平然とウソをつく葵もどうかと思う」
「まぁ…車軸の折れ方が不自然だったからね。良いんじゃない?おそらくこれで、あのおじさん本性現すんじゃない?」
「葵も気づいていたんだ、マニーどうする?」
「そうね、少し様子を見て、だまされてあげましょうか?しかし、ここからどのような因縁をつけると言うのかしら?」
「ありえない因縁つけるから、たちが悪いんじゃない」
主人が用をたし終わり戻ってくるのが見えた。
「それじゃ、マニー令嬢と護衛の冒険者の寸劇よろしく!」
「すまね、じゃ行くかい、雨が降ってきそうだからな」
先を進むと30分もせずに雨が落ちてくる。
「本降りになったわね…」
梔子が無言になり目で合図する。
「後ろから、野盗みたいのが着いて来たね。10人くらいかな」
「兄さん達だけで、でぇじょぶなのか?」
「大丈夫も何もやらなきゃやられるだろ!」
葵が苛立っているように演技する。
「速度上げて逃げきれるかしら?」
「あいつら、乗ってるのが地竜じゃなくてスピードホースだから厳しいと思う」
マノーリアの提案を梔子が却下する。スピードホースは馬型のモンスターで足の早さには定評があるが支獣のアリスが負ける相手ではない。
「仕方ない!追い払うか」
アリスに馬車を止めさせて葵と梔子が外に出て梔子が尋ねる。
「ご用件は?」
野盗のリーダー風の男が答える。
「ずいぶんと勇敢なねぇちゃんだなぁ、馬車を置いていけ!なんなら、ねぇちゃんは一緒に来ても良いぜ!」
「かしら~中にも上玉の女がいますよ~これは今夜は楽しめるぜぇ!」
「いや!離して!さわらないで!」
マノーリアが頑張って令嬢の演技をしている。マノーリアなら当然この程度の輩をねじ伏せるのは容易いだろう。
「はぁ~!」
葵は盛大なため息をつく、久しぶりのありがちな輩キャラをめんどうに感じ、さっさと済ませたくなったが、梔子も駆け出し冒険者の演技を始める。
「お嬢様にさわるな!あたしの目が黒いうちは絶対に手出しさせないから!お嬢様あたしの後ろへ!」
「こりゃ~!ご立派な女戦士様だ!じゃじゃ馬ほどあっちは楽しめそうだ!」
野盗のリーダーが梔子の発言にバカ笑いをすると、他の輩もバカにするように笑う。葵はふたりが案外楽しんでない?と思い始めた。
「かしら~さっさと小僧を殺して、楽しい事しましょうぜ、そこの林で充分できますよ~」
マノーリアと梔子の美貌を見て盛りついた輩が騒ぎだす。葵もゲスな輩にムカついてきたが、ふたりが寸劇を楽しんでいるので付き合うことにし、ブロードソードをかまえる。
「何されようが、彼女達を護るのが俺の使命だ!俺は負けない!かかってこい!」
葵は、自分で言っていて恥ずかしくなる。マノーリアと梔子を横目で見ると明らかに笑いをこらえている。野盗数名が葵に襲いかかる。葵は魔力を体内で循環させて防御力を向上させて、輩達の攻撃をなんとか防いでいるふりをする。梔子は、早々に捉えられたふりをし拘束される。梔子とマノーリアが弱々しい乙女の演技をする。
「葵~!頑張って~!」
「葵様!わたしたちの事はいいからお逃げ下さい!」
「ふたりとも!必ず俺が助けるからな!」
葵はなんだかんだ、ふたりも嫌いじゃないじゃんと思うが、これ自分がやられないと次の展開にならないよね?と思うと、後方から数人の騎士達の声が聞こえる。
「お前らそこまでだ!それとも我々と一戦交えるかー?!」
野盗達はすぐにモンスターに飛び乗り逃げだした。
「奴らを取り押さえろ!深追いはするな!」
「はっ!」
数名の騎士達が野盗を追いかける。
「お嬢様方!お怪我はございませんか?私はビナスゲート首都自警団のアイズと申します。」
その騎士風の男性は、騎士でなく自警団所属のようだ。軽装鎧に銀髪の髪はきれいに整えられ品位がある。瞳は右が黄色で左が緑色をしている。光と風の2属性魔法の持ち主のようだ。人耳の持ち主である。騎乗しながら戦えるようにか、ワンハンドロングソードを右手に持っている。とは言っても白檀の大太刀ほどの長さではない。アイズはマノーリアと梔子を見て軽く首をかしげるが、マノーリアが感謝を口にする。
「アイズ様ありがとうございます。助かりました。馬車のご主人の荷物が無事で何よりです。」
「そちらの馬車はこちらでけん引しましょう。」
馬車の主人の舌打ちを梔子の鋭敏な聴覚が捉える。梔子がアイズにアイコンタクトで馬車の主人が野盗とグルであることを訴える。アイズは気がついたようで、他の自警団に主人を任せ、葵達と先に首都に向かう事を告げる。少し距離が出たところで自分たちの身分を証す。
「やはり、皇国騎士団騎士長の如月騎士長と斥候隊隊長の文月隊長でしたか!魔装衣もですが、お二人の容姿を見てそうではないかと…」
「お気づきになられていたのですね。こちらが日本からの転移者の神無月葵くんです。彼も騎士見習いとして騎士団に所属しています。」
「神無月葵です。よろしくお願いします。」
「神無月さん、よろしくお願いします。実は、先月まで私は、この国の騎士団に所属しておりましたが、騎士団を追放され、仲間と共に自警団を設立したのです。」
「追放…ただ事ではありませんね。」
「最近のこの首都での、噂はお聞きになっているでしょうか?騎士団幹部にも、悪党に組する者がおりまして、それに反する者を、言われのない容疑で追放していくのです。我々は、それに屈しない意思表示として、自警団を設立しました。私たちに支援してくださる方々の賛同も大きいのです。」
アイズによると、豪商のロドリゲスという男が、首謀者だという。ロドリゲスは、没落した元貴族や権力にしがみつこうとする、上級貴族を高利で資金援助をし、自身に都合の良いように、操っているとのことだった。マノーリアが尋ねる。
「しかし、いくら豪商の者が力をえても国の中枢まで操る事は無理なのでは?」
「はい、その通りです。一番濃厚なのは、元侯爵の関与が囁かれています。今も権力と財力を持ち、影響は大きいのですが、ロドリゲスとの繋がりを証明できる証拠がないのです。ところで皆さんは何故名乗らなかったのですか?身分を証せば、奴らは手をださなかったと思うのですが?」
「簡単に解決できるなら、現行犯で捕まえようと思ったのですが、根が深いようですね。後は彼が日本人とわかると、いろいろな問題も起こるかと…」
今の葵は柴崎のブレスレットをつけているので、一見この世界の人に見えるが、黒髪黒い瞳なのにブレスレットの御石は、紫の色をしているので、人と戦いなれている者は簡単に気がつくだろう。
「なるほど、そういう事ですね。よろしければ私どもの拠点にいらしてはいただけませんか?首都内で最も安全な場所になります。何かお知恵を拝借いただければ幸いですが…」
「旧友のお宅を訪問しようと思っているので、少しのお時間なら…お役にたてるかわかりませんが」
「ありがとうございます。是非お力をお貸しいただければ」
ビナスゲートの首都の門は、西門と南門は豪商の息がかかっておらず、安全に門を通れる。元々が西門と南門が市民や旅人の行き交う区画の為である。アイズの案内で3人は西門から入り首都中央まで安全に入る事ができた。アイズに案内されたのは大きな建物だった。建物名を葵が口にする。
「クローバー治療院…目的地が一緒だねマニー、ありがちなパターンだけど、実際に起きるとわね。」
「ロゼッタの家ね、裏手に住まいがあるはずよ」
「なんという偶然!如月騎士長のご旧友はロゼッタ嬢でしたか、我々の最大の支援者です。治療院の一画を使わせてもらっています。治療院に通院するのは怪しまれませんからね。」
建物内に入り部屋の前に浴室を案内される。アイズが3人にを気づかい雨で濡れた体を暖めるよう案内してくれた。浴室から出て部屋に通されると室内に少女がいた。
「マノーリア!会いたかったわ!梔子さんもご無沙汰しております!」
「ロゼッタ相変わらず元気そうね。安心したわ!」
「ロゼッタさん、あたしは2年ぶりですかね?お久しぶり!」
ロゼッタが葵に気がつく、葵を目文する。マノーリアを一度見る。
「あなた、マノーリアを泣かしたら承知しないわよ!」
「いきなり何!」
「ロゼッタ!彼は神無月葵くんよ。そんな事する人じゃないから安心して、日本人の人よ」
「あら、失礼いたしました。以後お見知りおきよ」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。」
ロゼッタとマノーリアが話に夢中になり、葵は梔子に助けを求める。
「けっこうキツそうね?彼女…」
小声で梔子が答える。
「基本的に良い娘なんだけどね…マニーの事が大好き過ぎてね。」
「うまくやっていけるかな?」
「葵次第…まぁ彼女の前でマニーをからかうのは危険行為だよねぇ~」
「自重します…」
葵は肩をすくめる、自重するつもりはなさそうだ。むしろ、ロゼッタもいじり倒してやろうと無用な闘志に火をつけるのであった。
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