第14話 13-一心壮傳流紫炎武術

一糸乱れぬその姿は修練の賜物であろう。


 10代後半の男女が武術の型を寸分狂わず、全員揃って行っている。その周りには子供達が見学している。葵は神社のような神殿と言われる神仏を信仰する施設で集団で武術の訓練をしているので、少林寺のように見えたが、空手に近いようだ。髪型も自由で全員がツルツルではない、そもそも、葵は格闘技全般に疎いので、カンフーと空手と少林寺拳法の違いをよくわかっていない。なんとなく空手かなくらいの感じの印象だ。日本の空手の道着とも服装が違うので、あくまでも葵の主観で似ていると感じている。


「葵は武術にも興味あるの?」

「いや~まったくわからないけど~あれだけ揃った姿を見るとかっこいいよね~演武ってやつかな?」

「この霊峰に住む人達が先祖代々受け継がれた武術らしいわよ」

「歴史のある武術なんだね」

「この国、ビナスゲートでは、素質のある人達は徴兵が免除されているらしいわ、わたしとクーが騎士団に入団した経緯に似ているのかしらね」


3人が武術訓練を見ていると、巫女のような人が近寄ってきて話しかけてくる。


「如月騎士長様方、ご無沙汰しております。ようこそおいでくださいました。私は神殿の長をさせていただいております。あざみと申します。」


 あざみはこの神殿の神殿長で、20代前半で後ろで一つに束ねた髪は、栗毛で淡く青みがかり、狐耳フォクシアの持ち主で水色の瞳をしている。小柄で梔子よりも身長は低いが、大人の女性であることは、仕草からも感じられる。巫女風の服に狐の耳と尻尾で、いよいよ神殿というよりは神社感が強くなってきたと葵は感じた。


「あっ、あざみさんお久しぶりでございます。こちらが斥候隊隊長の文月梔子と騎士見習いの神無月葵です。何故わたしたちが来ると?」

「美しい魔装衣を着ている方も、こちらでは珍しいのですよ、それと皇女様の足元にもおよびませんが、こちらの神殿の長はデイト・ア・ボット様の代行を担う役目もございます。今朝の神事にて、あなた様方がおいでになるお告げをちょうだいしたところでした。」


 あざみは皇国の皇女と同様に神の代行者としての力を有する。ただ、皇女は最高神の女神アマテウスの代行者であるが、あざみは女神の眷属であるデイト・ア・ボットの代行者てあり、その力は眷属神ゆえに限定的なものらしい


「マニーお知り合いのご様子?」


 梔子がマノーリアとあざみを交互に見比べマノーリアに質問する。


「神殿長のあざみさんです。皇女様が連盟の会議に同行した際に、お会いしてから、親しくさせていただいているの」

「あなたが、青星の民、いえ、日本からいらした神無月葵さんですね?デイト・ア・ボット様からお聞きしております」

「じゃ、あざみさんから代わりに加護をいただけるんですか?」

「さすがに、代行者と言えども、加護を授ける事はできません。ですが、この神殿に古来から言い伝えられた、伝承の場所に向かえば、デイト・ア・ボット様にお会いできるかもしれません」

「あざみさんは、リンクという魔法をご存じですか?」

「如月騎士長、存じております。デイト・ア・ボット様と繋がるための祈りの魔法です。ただ、祈っても必ず繋がるとも限りません。」

「はい、一度きりでした」

「詳しくはあちらで、私のお部屋へご案内します」


あざみに案内されて神殿にある神殿長室へ招かれる。あざみの話によると、伝承にある場所というのは、この神殿から、さらに山を登り山頂との中腹に開けた場所に祭壇があるという、デイト・ア・ボットの加護を授かる為の試練は、神殿から始まり祭壇へ向かう事になっているのだが、試練という程の険しい山道でもないそうだ、過去に挑んだ者も何も起らず、祭壇から山頂へ登頂しても何も起らず、デイト・ア・ボットの加護は、霊峰の山頂でご来光を見ることと、考える者も多いらしいが、眷属神の火の創造神鳳凰の加護を得た白檀が現れた事によって、試練が比較的楽とされ、ここ霊峰に訪れる人が増えている。あざみはそう説明すると最後に持論を付け加える。


「私は、デイト・ア・ボット様の本来の試練とは、祭壇へ行き認められた者で日本人の方のみが、受けることができ、試練を達成できた方のみが、お会いになれると思うのです。当神殿では、毎日一般参拝時に試練の伝承もお伝えしているのすが、伝承の解釈を間違えた方達によって、祭壇に行けば…と広まったようです」

「伝承には続きがあるのですか?」

「ええ、祭壇にて祈りし青星の民の声が届きし者に、器となすかを試みる、器となる者と認めた者に加護与えて、女神のもとへ導く…と」

「青星って…そもそもデイト・ア・ボットは加護を転移した日本人に与えるつもりだった…」

「その通りです。青星の民の解釈は、未だに何を指しているのか、研究者でも解釈が割れているのが現状です。実際に転移された日本人の方で、過去の文献にも現在生存される方にも、加護を得ていないのも事実です。ですが、今回は違います。ここまで明確なお告げをいただくのも初めてです。神無月様あなたは加護を授けられると、認められた方だと私は確信をしております。是非、私と同行していただき、試練を受けていただけないでしょうか?」

「試練を受けるのは問題ないですよ、すでに直接あった時に加護受けることになっていたので、ただどうやって会うのかがわからなかったので、好都合です。問題は俺は強くないので、試練が何かわからないですが、認めてもらえるかどうか…」

「葵くん!そこはわたしたちも協力するから安心して!」

「そーだよ!ひとりで試練受けなきゃ行けないわけでもないんだから!」

「そうなの?」

「ええ、あなた方の騎士団団長の文月様も試練をお受けになられた時も、お仲間が助力されたとお聞きしております」

「びゃく兄は4人のチームで鳳凰神殿の神官1人の5人で試練受けたみたいよ」

「皇女様宛にも早馬も出しますのでご安心下さい、後、試練の時に仮で授けられた加護の力が使えない可能性があるので、よろしければ、私どもの道場で最低限の指導を受けて見てはいかがですか、数日で身になるものではないと思いますが、騎士様の日々の訓練と思っていただければ良いかと、私どもの武術は魔力も必要となるので、神無月様には難しい物もあると思います」

「魔力を使う…」

「はい、私どもの武術の始まりは、守星大戦時の山脈の西側へ避難を命じられた者達からはじまりました。一心壮傳流紫炎武術と言います」


あざみの説明によると大戦時に避難した、大戦に参加できない低魔力の者や負傷者や子供達が大半だった。現在の神殿の場所に門を築き結界をはり、魔族やモンスターの西側への侵入を防いでいた。ただし、精鋭は皆大戦に挑んでおり、門を守備するのは避難した者達だった、魔力の少ない者達が使用できる、魔法の回数も少なく、武器も全員に行き渡るだけの余裕もなかった、そこであみだされたのが、一心壮傳流紫炎武術という武術であった、魔力を体内に気と共に循環させ、手足に密度の高い魔力を圧縮し手足を鋼のようにし、防御と攻撃を可能とした、これにより、魔力の少ない者でも魔力を減らすことなく戦うことが可能となった。また、どんな物でも、武器にできるように型が考案され、手足を負傷した者でも、義手や義足を武器にし戦線を維持したと伝承で伝えられている。女神や眷属神が最後の砦とし山脈を築きその意志を貫く為、戦えないと判断された者達が、さらに弱い者を守る為、生き延びる為に考案された武術であった。紫炎武術の名の由来は、奥義である紫炎を使えるようになると、魔力の体内循環と圧縮が高まり、身体能力の最大強化ができるようになると、体の周りを紫の炎のように揺らめく物で被われ、これは魔法の適正に限らず紫色になる事からだそうだ。現在その奥義が使えるのは師範だけだと言う。


「なんか、凄い武術ですね…稽古していただくはありがたいんですが、どのくらい滞在しましょうか」

「確かに、皇女様に早馬出していただくにしても、長いはできないわよね…」

「では、5日後に試練に挑むのはいかがですか?じっくりと稽古できるのは、3日間になりますね」


 葵は、さすが異世界的な武術だなと思いつつ、世界的に有名なボール集めの格闘アニメをイメージして、その奥義が3倍だったり4倍だったり上があったりしないよね?って思いながらあざみに答える。


「おらのカラダもって…いや、5日なら大丈夫かな?」

「おら?葵!今、別の事考えていたでしょ?」

「こちらの神殿にいるのがわかれば、皇女様も安心されると思うわ」

「その旨も早馬でお伝えしましょ、では、師範を紹介するのでご一緒に道場へ向かいましょう」

「紫になるって、マニーの魔力適正と似てるね」

「そうね!何か縁をかんじるわね」

「これ以上、マニーが強くなったら凄いね!加護持ちを超える美少女騎士みたいな?」

「クー!茶化さないでよ~!」


 4人は神殿の隣にある道場に向かう。道場の室内では子供の稽古をしており、屋外では大人が稽古している。1人の男性があざみの姿に気がつき、山頂に一礼し、こちらにかけより、一礼する。


「こちらが、一心壮傳流紫炎武術、現師範のリュウシです」

「お初にお目にかかります。リュウシと申します」


 師範のリュウシは、格闘家のイメージとは異なり、線は細く身長も男性としては高くなく、マノーリアと同じくらいだ、ただ今のマノーリアはブーツのヒールが高くなっているのでリュウシよりも少し高い。リュウシは犬耳シェンイヤと尻尾を持ち、髪は銀髪で脇を刈り上げトップの髪は後ろで一つで結んでいる。あざみがリュウシに試練へ挑む旨とそれまでに武術の稽古に参加する旨を伝え、マノーリアが代表して挨拶する。


「はじめまして、ロスビナス皇国騎士団の騎士長の如月マノーリアとこちらが斥候隊隊長の文月梔子と騎士見習いの神無月葵です。神殿長からお聞きになってるかもしれませんが、彼が仮で加護を授かっています。短い間ですが、お世話になります。」

「こちらこそ、皆さんにお会いできて光栄です。少しでも助力ができればと、考えております。試練の際は私も同行させていただきます。」

「ええ、リュウシ師範と私も同行いたします。」

「よろしくお願いいたします」


 5人で会話をしていると、葵がビクッと体を揺らす。


「葵くん!どうしたの?」

「今、リンクが使えるようになった…」

「デイト・ア・ボット様が神無月様にお告げがあるのでしょう」


 稽古を中断させ、道場前の広場を開け、5人のみがその場に残り、葵がリンクの魔法を顕現させる。


「リンク!」


 すると前回同様に景色が変わり、霧がかった森の中に5人がいる


「これはいったい…!?」


葵以外の者が目を丸くし驚いている。5人の前に1人の少女が現れる。


「接続完了…神無月さんこんにちは」

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