第11話 10-思いやることの難しさ

 葵は慣れない天井の部屋で目が覚めた。


「ふぁ~もう朝かぁ~!」


 葵はアクビと背伸びをして目を覚ます。結局、昨晩は夜更けまで宴に付き合わされ、酒も嫌と思うほど飲まされ、なんとなく、深夜に地震があったが、ちょっと強い揺れくらいなので、目も開けずに寝ていた。宿の外はまだ朝だというのに騒がしい。


「周辺は以上ありません!」

「王都までの街道・結界共に異常ありません!」

「報告ご苦労!順次休憩をとってよろし!」

「はっ!!」


 王国の騎士団や兵士達が手分けして、周辺の被害状況を報告している。地震発生からだいぶたっているので、街から遠方の確認の任務についていた隊が報告していたのだろ。葵は身支度を整え朝食をとる為、街の大きなレストランに向かう、好立地にある建物の外観からして、この街で1番の高級レストランである。王国騎士団が防衛戦を労い、借り上げてくれたらしい。すでに王国騎士団が到着している為、皇国騎士団の役目は終わり、皆好きに朝を過ごしている。葵はレストランまで、200メートルくらいの距離を1人で歩く、行き交う人が皆、葵に礼をする。葵は自分が偉いわけでもないのに、敬称に様をつけられることや、敬意をはらわれることがむず痒い。店や宿で客として、敬意をはらわれるのは、まだ良いのだが、歩いているだけで、見ず知らずの人に、されるのは反応に困る。レストランにつくと高級レストランらしく、キッチリとしたウェイター礼をして案内してくれる。


「おはようございます。神無月様。お連れ様がお揃いでございます。こちらへどうぞ!」


 店内は、重厚感がある家具と絨毯がひかれ、ロビーには高級そうな、絵画や装飾用の剣や槍などが飾られている。葵は奥の個室に案内される。


「みんな~おはよう!」

「おはよー」

「おはようございます!葵さん」

「おはようございまーす。葵さん、こっち空いてますよ!」


 咲が葵を手招きして、席を空いていることを促す。咲が何か含んだ笑みをしている。


「さ、さ、こっちこっちですよ~フフン♪」

「あ、ありがとう!なんだよその含み笑いは~!」


 葵の隣にいる、マノーリアがモジモジして、葵に目を合わせない、昨日のキスを冷静になって恥ずかしいのだろ。いつものマノーリアなら頬にしてもこんな感じになっていたかもしれないが、昨日は、唇にしているのだから仕方がない。勢いとはいえ、マノーリアの性格上、その場の勢いに圧されたとは考えにくい、葵への思いが形になったのだ。葵は、会って1週間もたっていないマノーリアには、早いかなと思い普通に接する事にする。


「おはようマニー」

「おっ、おはようございます!」


 マノーリアは完全に意識している。早めに気をそらさないとやりづらい。


「ここのお店の美味しい料理は何かな~?オススメありますか?」

「キスキス鳥のグリルした肉とノースバッファローチーズを使用したサンドイッチがオススメでございます」


 これは、ウェイターもグルで、はめられているのかと葵は思う。この程度では葵は動じたりはしない。


「そうなんだ~みんなは何にしたの?」

「他の皆様は、こちらのサンドイッチと、この街特産の魚、チュウチュウの燻製した身とハーブを使用したサンドイッチでございます。」

「ハハハ…どちらも美味しそうだなぁ~!じゃ鳥の方で…」


 マノーリアは、さらに頬を赤くして下を向いている。他の面々は笑いをこらえている。後々聞いたら、葵が起きてこないので、起こしにいこうかと話になり、先日の事故の件を思いだし、寝かしておくことになった。マノーリアもレストランに来るまでは、昨日の事は、気にしていないようだったが、ウェイターにメニューを聞いて、思い出したそうだ。葵はどうせなら、マノーリアに、いくとこまで行ってもらった方が、やりやすいと思って、またもや顔面に爽やかな笑顔を貼りつける。


「マニー、恥ずかしがることはないだろう?キミの素直な気持ちを、僕は嬉しいと思っているよ、急がなくていいから、その思いをお互い大切に育てていこう!」


 マノーリアは潤んだ瞳で葵を見つめ頷く


「カァー!朝から見せつけるなぁ~!マニー気をつけろ!こいつは騎士より詐欺師の素質がある!他の奴らもな~気をつけろよ!そのうち、オスになるからな!」

「団長!茶化さないで下さいよ!何も嘘は言ってませんよ~」


 白檀の言うとおり、葵はいつまでも自分を抑えられる自信はない。ただ、純粋培養されたマノーリアを口説くのは簡単だが、今後の事を考えると得策ではない。マノーリアを恋人にできるなら、葵も願ってもない話だが、自分の置かれている状況で、こんな純粋な娘と交際するには早すぎると思う。


「それは、いいからさぁ~!予定狂ったから、予定共有しよう!」


 梔子が若干おもしろくなさそうに話を変える。


「結局、昨日は葵と手合わせできなかったからな!今日1日ここに駐留して、明日、互いに出発にすることにするか!」

「びゃく兄!そんな適当で良いの?遅れたら帝国に印象良くないじゃないの?」

「気にするな!うちの魔装衣を欲しがってるのは向こうだ。1日2日遅れても問題ない!むしろ、下手に出る必要もないだろ、何イライラしてんだ?」

「うるさいなぁ~あたし先に戻るから!」

「隊長~待って下さいよ~!」

「隊長!お姉ちゃん!待って~」

「わたしも準備に戻ります」


 梔子は、イライラしながら席を立つ、咲と花が後を追いかける。その後をマノーリアが他の女性騎士達と連れだって宿に戻って行く。


「なんなんだ?梔子のヤツ!」

「団長…知ってて気がつかないふり…してますよね?」

「青春ってヤツだなぁ~」

「団長!」

「なんだ?」

「絶対に楽しんでますよね?」

「あいつらは、姉妹みたいなもんだ。男取り合っても、いつかは仲は戻るさ!」

「その渦中の男に言いますか?フツー」

「まぁ~最後に決めるのは、お前だからな!あいつらに選択権もいがみ合う理由もない…いつ気がつくんだろうな?」

「俺に聞かないで下さいよ!」

「昨日、マノーリアに見せつけられたら!梔子も燃えるよな!でどっちなんだよ?」

「まだ、会って数日ですよ、そんな軽いヤツに見えますか?それに俺は異世界の人間ですよ~」

「恋は盲目って言うだろ~!異世界人とかそういのは、後で気にすりゃいいんだよ!あいつらには全部良い経験だよ、まぁ~お前が、軽いヤツでなかったのが、更に熱くさせているけどな!」

「俺はこのままでいいんですかね?ふたりとの関係は壊したくないんですけど?」

「あいつらの問題だからな、お前は気にすることないし、今まで通りでいいだろ、どちらかと関係深めたいなら、そうなればいい、その時に、失恋した方が、どういう関係を構築するかも、経験だろ?距離を置くのも、気にせず今まで通りでいるのも」

「けっこう、残酷ですね、団長…」

「恋も失恋もしたことないヤツらだからな!生きているからできることだよ!まぁどちらかを選ばなきゃいけない時は、キッチリ選んでやれよ!変な優しいさは、逆に惨めになるからな!」

「当分は、選ぶつもりないですけど…俺も男ですからね…自分を制御できるかわかりません」

「あいつらが受け入れるなら、それもいいんじゃないか?お前も今を楽しめ!お前が生きているのはこの世界だからな!淡い恋心で終わりにするか、思いを貫くかは、あいつらだ、マニーの方がのぼせているけどな!しかし、お前は冷静だな?」

「一応、そういのは経験済みです。ふたりともいい娘なので、できれば傷つけたくないとも思ってますけど、好意を持たれていて、当然悪い気はしませんよ、ふたりには悪いけど、もう少し今の状況のままでいようと思ってます。」

「イヤなヤツだな!」

「イヤなヤツですね…俺」


 葵と白檀はそんな話をしながら、レストランを後にし、お互い訓練の準備に宿に戻り、演習場へ集合した。ここの演習場は、王都のような大きなものでなく、騎士団、兵士、冒険者が共有して使用する場所となっている。葵と白檀が演習場にみんな揃っていたが、何か様子がおかしい。


「咲・花、何の騒ぎだ!」

「団長、葵さん!お願いです。とめて下さいよ~!隊長と騎士長が~」

「まぁ~溜め込むより、ずっといいだろ~おまえら!俺が立会人になってやる!おまえら騎士だって事を忘れるな!やるなら、後腐れ無いようにやれよ!」

「なんで、ふたりが?」

「いや~わたし達もよくわからないんです。いきなりふたりが言い合いになって…」

「いつもの事だよ!」


 白檀はあきれた様子で言う。


「最近は、年1くらいのイベントだ!ガキの頃は良くやっていた、お互いに言いにくい思いがあると、最後は剣で決める」

「案外、ふたりとも脳筋なんですね~?」


 花が意外だといつも明るく朗らかな梔子と冷静沈着で品位をまとっているマノーリアの姿を思い出しながら表情で訴える。


「マニー、お互い言いたいことはあるだろうけど、あなたに話しても伝わらないと思う」

「そうね!クー!わたしも他の事を譲っても、今の気持ちにだけは譲れない!」

「それが、気が早いって言ってるの!もっと、ちゃんと考えなよ!あなたらしくない!」

「わたしらしいって何よ!わたしは自分の気持ちに素直なだけよ!」

「わからず屋!」

「おっせっかい!」


 梔子は、葵にのぼせ始めたマノーリアを冷静にさせる為に言った言葉に、マノーリアは不快に感じたようだ。相手が誰でも、経験不足なマノーリアのとった大胆な行動は、いつもの落ち着いて冷静なマノーリアを知る者は、誰でも心配させるような行動にもとれる。梔子の行動も他者から見ると、マノーリアを気づかうようにも見えるが、恋路を邪魔しているようにも見える。


「団長~とめなくていいんですか?」

「葵、あいつらには、やらせた方が良いんだよ!」

「そういうもんですか?」

「そもそも、やってることが間違いで、掛け違いたボタンに気づけてないんだよ、結局、本人達が気がつかなきゃ、変わらないだろ?」


 白檀は、肩をすくめながら軽くため息をつく、呆れているのだろう。ふたりがやろうとしている事に、なんの意味もない。葵はそう思う。しかし続けて白檀が漏らした話に白檀の思惑があった。


「ふたりは理解してないが、意味がない訳じゃない」

「意味なんてありますか?」


 葵には、意味が見いだせない。


「普通の手合わせや試合よりも感情が入る。試合でもこの感情は生まれない。今のふたりは、勝つことしか頭にない」

「それは、試合とかでも考えるじゃないですか?優勝したいとか…」

「勝ちたい意味が違うだよな~。自分の意思というか、価値というか、思想って言っても、いいのかもな…それをかけてるんだよ。」


 試合の勝敗は、自分の鍛練や才能の結果というのが白檀の考えだ。他人が見ても理解できるもので、今、ふたりがしようとしている勝負は、他人から見ても、理解できないものである。いつも仲がいい分、単なる喧嘩にも見える。それは、互いが譲れないから、剣で勝負するのだが、感情や価値観が優先されている今は本人達にしか勝負の価値は、理解ができないのである。


「結局、俺は訓練の延長としか思ってない」

「訓練ですか?」

「そうだ、互いの弱点が互いの強みでもある、弱点を自分で剣術と間合いで対応する必要がある」

「互いに、性格も知り尽くしている。能力も同等、勝つ気持ちが強い方が勝つ」

「今までどうなんです?」

「騎士見習いからだと、1勝1敗3引き分けだな、子供の頃はクーの身体能力で圧倒したが、マニーが魔法を使いこなすようになってからは、勝敗がつかなくなっている。そろそろだな、マノーリア、梔子!準備はいいな!合図はしない、自分達で始めろ!」

「団長悪い人ですね…彼女達の感情まで訓練にするって…」

「悪いヤツでかまわんさ!あいつらは何かあれば、死地へと向かわなければならん、悔いを残すような生き方させられないからな!」


 本来、試合や決闘は立会人の合図ではじめるが、白檀はそのどちらでもないと言っている。しかし、騎士団の騎士長と斥候隊隊長の実剣での立合いを野放しにはできない。白檀の思惑もあるので、許されている立合いだ。

 ふたりとも武器をかまえる。先に仕掛けたのは梔子だったが、マノーリアは梔子が攻撃範囲に入る前に、魔法を放つ、梔子も読んでいたのか、大きく直上に跳躍し回避する。さらに攻撃に移り、風魔法を放つが、マノーリアは土魔法の岩の防壁を作り、さらに砂嵐を起こして身を隠す。梔子が着地した瞬間に薙刀で剣技を放つ。


「乱舞!乱れ咲き!」


 マノーリア剣技は攻撃力があるものの大振りとなる、梔子が間合いをつめて、梔子が得意とする攻撃範囲に入り剣技を放つ。


「シャープラッシュ!!」


 梔子が両手にかまえたショートソードが無数にもあるかのように見えるほどの連撃でマノーリアを攻めるがマノーリアの姿が霧散する。マノーリアは闇魔法のデコイを顕現させ欺瞞工作をしていた。梔子の背後からマノーリアが剣技を放つ


「乱舞!五月雨!」


 梔子は、身体能力の高さと魔法駆使し回避する。ふたりの攻防は続き、どちらも引かず、互いに魔力と体力を削り合う状態が続く、マノーリアの魔力が枯渇すれば負け、梔子は体力を消耗すれば負ける、互いにそれもわかっているのか、マノーリアは梔子に体力を消耗させるような攻めをし、梔子はマノーリアに魔法を使わせるように立ち回る。


「見てるわたし達が、もどかしいですね…」

「クーを応援しているんじゃないのか?」

「なんで、ふたりが戦わなきゃいけないの?って言うのが正直なところです。いつも仲良いのに…」

「いつもは、ふたりともあたし達にだって、気遣ってくれる方達ですしね、相手の気持ちがわからない人達でもないのに…」


 咲と花が手を組願うように戦いを見守る。花と咲の隣で見守る葵の視界に黒猫のような生き物が、じっとこちらを見ているのに気がつく


「黒猫…?ネコはこの世界は、亜人になっているから、いないはずだよな?」

「葵さんどうしたんですか?」

「あそこに、黒い小さな生き物がいたような…」


 黒猫は姿を消したと思ったら、別の方向に座りまた見ている。白檀が葵を手招きする。


「葵!お前にも黒いミニチュアサーベルが見えるか?」

「あっ…はい」


 あの黒猫はミニチュアサーベルという生き物らしい、白檀が葵が見えているのを確認しさらに話続ける。


「今夜、俺につき合え、お前にもあいつが見えてるってことは、お前も連れてこいってことだろうからな」

「誰がですか?」

「情報屋だ、あいつはそいつの支獣だ、あいつが見えているのは、梔子には言うなよ!」


 あの支獣は、用件のある人物に確認されると消えるのだが、白檀が認識しても消えなかったので葵にも確認した。白檀が梔子を愛称でなく、名前で呼ぶときは、真面目に言っている時が多いと、葵は感じていた、深くは追及しないが、何かあるんだろうくらいには、頭の片隅に置くことにした。葵はふたりの勝負に意識を戻したが、状況は変わらないが、梔子の動き鈍くなってきたこと、マノーリアが魔法攻撃でなく剣術の攻撃が増えていたことに気がつく。すると白檀がふたりの間に割って入り、ふたりの攻撃を鳳凰の大太刀で受ける。


「ふたりとも!ここまでだ!これ以上やってもキリがない!」

「白檀お兄様!まだ勝負がついておりません!」

「そうだよ!いくら立会人って言っても水を差すのはやめて!」

「互いに、決めきれないのが悪い!消耗が過ぎている!それ以上は職務に支障がでる。おまえらの上司としては、これ以上やるなら力ずくでとめるが?最初に言ったろ?騎士であることを忘れるなと、後は話で解決しろ!そもそも葵の気持ちを無視している時点で、おまえらは間違っているんだよ!」


 葵もふたりのもとへ近づき諭すように話す。


「団長の言うとおりだ!マニーさっきも言ったけど、あせる必要はないよ!クーもマニーは子供じゃない、自分のやってることに自分なりの覚悟はあると思う、間違いだったとしても、悔やむ覚悟もあるんだろうから。後、ふたりとも!俺の事も、もう少し信じてもらえれば助かる。まだ惚れた晴れたとか言う時じゃないよ、皇国まで3人で行くんだからさ!けど…俺も男だから誘惑に負ければ、制御はできないから、そうなっても仕方ないと思ってくれ、俺は聖人でも朴念仁でもないぞ!少し冷静になってふたりで話し合うのも必要だと思う。ふたりで風呂にでも入って話して来なよ、なんなら俺も一緒に入るけど?」

「は、入らなくていい!」

「わかったわ、クーいきましょ…ちゃんと話そ…」

「そうね…咲・花ごめん訓練はふたりでやって…」

「了解です!夕ごはんの時は、いつものふたりに戻って下さいね!」

「結局、おまえらの立合いで、俺が葵とやる時間がなくなったじゃねーか!今日はもう終わりだ!俺はこれから会議だ後は各々自由にやれ!」


 葵は、昼食後は1人で行動することにした。眷属神の加護をうまく使いこなせるように練習したり、王国騎士団の詰所に顔をだし、兵法の本を借りて読んだり、のんびり風呂につかったりと自由に過ごした。夕食の時には、マノーリアと梔子はぎこちない感じはあったが、互いに腹を割って話しをして和解したようだった。葵は日中に白檀から誘われた時間に外にでる。白檀も宿の外におり、ふたりは歩き始める。


「情報屋でしたっけ?そんな仕事があるんですね」

「元はうちの騎士だ、今は守星連盟諜報部づきだ」

「諜報部…」


 葵は諜報部と聞き、世界的に有名な英国のスパイ映画をイメージし、今から会う相手を脳内でジェームスと仮の名をつける。どうでもいい事を考えていると、正面に黒猫が座っている。


「サーベルが見えているか?あいつが案内する着いていくぞ」

「了解です」


 何度か黒猫は角を曲がり酒場街の端にある店の前で消える


「この店のようだ」


 店に入ると、バーのような店のカウンターにその男はいた。


「久しぶりたなハリー!ずいぶんと帝国に被れてるな」

「白檀、悪いな忙しいところ、その彼が神無月葵だな?」

「はじめまして、神無月葵です。」

「ハリーだよろしくな!」


 葵は、スパイでなく魔法使いの方だったかと、どうでもいいことを思う。ハリーの容姿は狐耳フォクシアと尾もち、金髪の髪は左側は刈上げられ、右側の少しクセのある髪は顎の辺りまで伸ばしている。右目には装飾されたモノクルを装着している、装飾といっても華美なものでなく、機械的な装飾で飾られている。全体的にはマントを羽織っているのであまり見えないが、両腕にはガントレット装着している。なんとなくスチームパンクっぽい装いで、これが帝国被れというのかな?とハリーの容姿を観察する。


「連盟でも、既に仮ではあるが、加護をキミが得たというのは情報を得ている。ただでさえ希な加護持ちが、転移した日本人のキミが得たことで、連盟本部も情報収集に大忙しさ!それで会いにきたわけさ!まぁ連盟の一部には、未だに日本人を危険視する者もいるが、キミが我々と共に得た力を守星為に使ってくれることを願っているよ」

「こいつは、悪さするようなヤツじゃねーよ!加護持ちの俺が保証するし、そもそも、眷属神は悪行や利己的なヤツには加護は与えないだろ?」

「それもそうだな…」

「加護を与えたくれたデイト・ア・ボットが言うには、日本人の保護とこの世界で生き延び最高神である女神の依頼を遂行する為に力を貸すと言ってました。」

「依頼というのは?」

「詳しいことは、女神から聞いてくれ的な感じでしたね。後は他の眷属神とも会うことを推奨するって言っていたかな?」


 葵は、白檀とハリーにデイト・ア・ボットから伝えられた事を話す。ハリーも聞きたいことを聞けたようで、葵に関する話は終わったようだ。


「白檀、これから帝国入りするんだろう?あちらでまた会おう、それと帝国が魔装衣を欲しがっている話だが、帝国は軍の再編の中で新たな大隊を新設している、それが関わっているようだ」

「新しい大隊ね…」

「重魔装機工大隊という隊らしい…まだ隊の枠と配属される兵の選定中らしいが、魔法力の高い者かき集めているようだ」

「帝国さんは、軍事力1位にこだわるからな、加護持ちいない分、数で勝負なんだろうよ」


 一騎当千の加護持ち、鳳凰白檀は相当な脅威らしい、あくまでも国同士で戦争になることはないが、軍事力は守星連盟ないでの発言力が高くなるらしい、ロスビナス皇国はただでさえ皇女のいる国で発言力があり、加護持ちがいることで、軍事力はラストスタンドを抜いて2位となった。


「葵くん、キミの力は未知数だ。白檀が後押しするなら問題ないからな!よろしく頼む。」

「ハリー、梔子には会ってやらないのか?」


 ハリーが若干イヤな顔をした。


「今のところは、やめておくよ!」


 そう言って、ハリーは店を後にする。


「ハリーさんとクーってどんな関係なんですか?」

「クーの初恋の相手だ!正確に言うと、親が決めたとはいえ、婚約寸前だったが、連盟にいく事が決まり白紙になった。梔子はハリーを待つと言ったが、ハリーは気の毒に感じたんだろう、俺に白紙を伝えてきて俺も了承した。梔子もそろそろ忘れて来た頃にお前が現れたから、ちょうど良かったんだが…まぁどうするかは梔子しだいだな!」


 白檀はそう言って、妹を思う優しい兄の顔になり、蒸留酒の入ったショットグラスを一気に飲み干し、カウンターにコンっと置く、ハリーの気持ちも梔子の気持ちも白檀には理解できるのだろう、父親を失い父親の代わりも務めた、白檀はハリーの覚悟受け入れ、梔子を見守ることを選んだ。いつもの豪快な感じはなく大人な一面を見せた白檀の隣で葵はそっと酒につき合うのであった。

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