第10話 9-眷属神の加護の力

 葵が目を覚ますとそこは見覚えのある場所、先程オーガと戦って、ボロボロにされた場所。体を起こすと咲と花の姉妹と目が合う。


「葵さん!」

「良かったぁ~!葵さんが死んじゃったかと思って…うぇっ…エ…エ」

「葵さん、私たちの為に、ボロボロになってまで、助けてくれてありがとうございます!」


 ふたりが、泣きながら喜んでくれている。葵は周りを見渡し、マノーリアと梔子が無事なのを確認する。ふたりは支獣と共に、オーガが近寄らないように、応戦している、スカルナイトは騎士と冒険者が戦っている。


「俺、どのくらい気を失っていたんだ?」

「ほんの、数分ですよ!マニーさんがすぐにヒールをかけられていたので…どこも痛くないですか?」

「あっ、もう大丈夫!俺も戦ってくる!」

「葵さん、無茶しないで下さい!回復したばかりなんだから!」

「本当に大丈夫なんだよ!信じられないだろうけど、今の俺、加護持ちなんだぜ!」

「カゴ持ち…エ…エッー!」

「団長と同じ加護持ちだよ!鳳凰じゃないけど、デイト・ア・ボットの加護を受けた。まぁまだ仮だけどね。」

「大地創成の神デイト様の加護…」


 咲と花は、驚きつつも、半信半疑の表情で葵見る。葵がおかしくなって変なこと言っているんじゃない?と、表情をうかがうが、葵は何も変わらない、強いていえば、葵の自信のある満ちた表情のように見える。


「話すのは、終わってからだ。マニーとクーも体力的に限界だろから行ってくるよ」

「葵さん…」


 咲は自信の満ちた表情の葵を制止することはできなかった。倒れた後の葵は、明らかに何かが違う事を感じた。


「マニー!クー!一度下がれ!俺が前に出る」

「葵!」

「葵くん!」

「一度下がれ!」


 マニーとクーは一度葵の後方に下がる支獣2匹も下がってくる。オーガがふたりめがけて追ってくる。


「葵くん!何をしようしてるの?」

「まぁ~見てなよ!」


 葵はデイト・ア・ボットの加護の力を顕現させる。手を前方にかざす。するとオーガが何かに圧されたかのように、地面に這いつくばり、拘束されているかのように、体を引き剥がそうと咆哮をあげながら暴れる。


「何がどうなっているの?」

「葵くんがやっているの?」

「そうだよ!加護の力だけどね!グラヴィティコントロールってやつを使ってる。オーガのとこだけ重力を数倍重くしてる。自分達の重さで身動きが取れない感じだね。」

「加護って…」

「リンクの魔法は、デイト・ア・ボットと会う為の魔法だったらしい、さっき意識失った時に会うことができた、仮だけど力も借りられた。」

「デイト・ア・ボットって眷属神の大地創成の神デイト・ア・ボット様のことよね?」

「そうだよ、マニーの講習の時の挿し絵とは、全く違ってたけど…かわいい女の子だったよ、あっでもアバターだって言ってたなぁ…」

「アバター?」

「まぁ~仮の姿ってことかな?」


 葵は、一歩前に出て、フードの男に向かってブロードソードを向けて叫ぶ。


「おい!フードの人!もう、オーガ達は俺の敵じゃない!降伏しろ!」

「何を戯言をさきほど、ゴミクズのようにオーガにやられていたではないか!」

「あんたが、悪魔に力を借りたように、俺は神の力を借りた。あんたに勝ち目はない、事情を聞きたいから、降伏しろ!その後の処罰は俺はしらないけどなぁ!」

「ずいぶんと!虚勢を張るもんだな!これでも喰らえ!」


フードの男は黒い炎を葵に向けて放つ。


「葵くん!」

「葵さーん!」


 葵は、また前に手をかざすと、地面から大きな岩の壁がそびえ立つ、黒い炎は葵に届く前に霧散する。


「だから、言ってるじゃん!勝てないよって!自分のやってる事をわかってんの?何が目的なんだよ!この街の人たち恨みがあるわけでもないんだろ!」

「私の可能性に嫉妬した哀れなものが、邪魔をするから、それを理解させるために、犠にするだけだ!そんな事もわからんのか?」

「それは、ただ、あんたのわがままだ。それで無差別殺人とか、バカじゃないの?そんなに認めてもらいたいなら、評価してもらえるまで、実績積み上げるしかないだろ!」

「お前も奴らと一緒だなぁ~、痛い目に合うしか、私の力が理解できないだろ!」

「そのまま、のしつけて御返しします。評価してもらえないから、痛い目合わすとか、子供かっ!そもそもあんたの力でもないだろ?それがあんたの意志でいいんだな?」

「お前などと、話す口は持たぬ!私が正しい!私を否定するもの全てが悪だ!」

「わかった!じゃあ俺はあんたを斬る!」


 葵は、フードの男にグラヴィティコントロールをかけ、さらに自分にもグラヴィティコントロールをかける。葵自身には重力をゼロにし、地面をおもいきり蹴りあげ、高く浮き上がり、ブロードソードにかかる重力を倍にして、フードの男めがけて落ちていく。


「ランドスライド!!」


 葵は、フードの男の左肩から右脇腹まで斬りつける。


「グッはっ!!ゴミの分際で私にたてつきおって~!」

「人のことゴミゴミ言いやがって!あんたは何様だ!対して変わらんだろ!俺はあんたを知らん!」

「許さん!許さん!許さん!私を認めろ!崇め!称えろ!おまえらが私と同じ目線でいることすら、許さん!」

「だから、あんた誰なんだよ!勘違いするなって!英雄願望でも歪んだのか?自意識過剰ですね!身動きもできてないでしょ!」

「おのれ~道連れにしてやる!あの世で私を崇拝するが良い!」


 フードの男は、黒い炎に自身を包み、自爆しようする


「はぁ~めんどくさい!」


 葵はめんどくさそうにため息をつき、フードの男が爆発する前に、また加護の剣技で斬りつける


「クイックレイヤ!」


 葵のブロードソードは左右に首、胸、腹、もも、膝を水平に斬りつける。


「クラッシュロック!」


 さらに周りにあった、無数の岩が矢じり型となり、フードの男に突き刺さる。


「ゴミの…ぶん…ざ…い…で…グッふ…わ…わた…が…た…だ…グッはっ」


 フードの男は、何かを言いかけて、糸が切れる。スカルナイトは、その場で崩れ、今まで襲ってきていたとは、思えないほどに呆気なくいきたえる。葵は残りのオーガに対して、ブロードソードで斬りつけ簡単に倒し、今まで苦戦していたのが嘘のようだ。


「これで、終わりかな?」

「なんか、スゲーなお前、本当に葵か?」

「団長!来てたんですね!」

「急いで、来たのに来たら、なんか葵が強くなってて、俺の出番なかったな」

「団長、俺も仮ですが加護持ちになったみたいです。」


 唖然としている白檀の周りには、マスコットになったフクロウがパタパタと飛んでいる。白檀の支獣はフクロウのようだ。


「やっぱ、お前おもしれー!これでやっと手合わせを本気でやれるヤツができたな!」

「さすがにそれはないですよ」

「まあ、この街の、後処理終わらせたらだな」

「葵くん、ありがとう!犠牲になられた方には申し訳ないけど…みんな無事で…良かった!」

「みんな、騎士や冒険者になった時点で、覚悟してるから!気にすんな!マニー」

「白檀お兄様…それでもです。私たちの命は誰かの犠牲があってだから…私たちは魔族に負けずに生き続けなければ…犠牲になられた方の勇姿を皆に語る義務があると思います。」

「そうだな!」


 マノーリアの名も知らない犠牲者に追悼する姿に、皆同じように祈りを捧げる。そこに、騎士が白檀のそばまで来て敬礼する。


「白檀団長!騎士団到着しました」

「よし!じゃあ後処理手伝ってやれ!この国の騎士団が到着するまで、駐留する。周辺警らも、この街の騎士団達と連携してくれ!」

「了解!」


 白檀が命令を下すと騎士はすぐに騎士団の元へ戻る。


「とりあえず、飯だな!街は無事だし、お前らは良く戦った。」

「咲は、反省するところあるけどね~」

「隊長~それは団長の前で言わなくても…」

「まあ、妹が心配だった気持ちわかるけどさ、無茶は無茶だよな…人には無茶するなって言ってたクセに!」

「葵さんまで~!」

「俺も、策がなくて突っ込んだから人のこと言えないけど、加護なけりゃ死んでたかも…」

「でも、お姉ちゃん助けにいく時の葵さんかっこ良かったです!」

「葵くん、あたしからもお礼を言わせて!うちの部下を助けてくれてありがとう!」

「隊長…」

「本当に心配だったんからね!大切なバディと大切な隊の耳がいなくなったらどうするつもりだったの…」

「ごめんなさい…」

「ごめんなさい…隊長」


 梔子は葵に頭を下げた後で、咲と花を抱き寄せ涙する。咲と花もつられてもらい泣きしている。


「でも、咲と花がいなかったら、俺も覚悟はできなかったと思う、加護を得られたのは、ふたりがお互いを思う気持ちに、俺も突き動かされたんだと思う。だから、礼を言われることないよ!強いていえば、団長の訓練に付き合わされそうなのがビミョーくらいかな!」

「俺と手合わせできる相手なんて、ほとんどいないんだぜ!むしろ喜べ!」

「本当に、葵くんには驚かせられてばかりね。何があったか話が聞きたいわ」

「まぁ~それは、食事の後にでも、さすがに腹減った~」

「あたしは、お風呂に入りたい…マニー、咲、花!お風呂いこー!」

「じゃあ!ひとっぷろ、はりいに行くか葵!さっぱりしてから飯だな!」

「団長は風呂入らなくて良くないですか?」

「つれないこと言うなよぉ~葵ひとりじゃさみしいだろ?加護持ち同士仲良くしようぜ~、裸の付き合い大事だろ~?」

「別に、風呂以外でも良いですよね?」

「まっ、そいうこと言うなって!」

「わかりましたよ!」


 葵達は、互いを労いながら、街の門をくぐる、すると街の至るところから喝采と感謝の声が浴びせられる。


「我らの英雄が戻って来たぞ!」

「神無月様ありがとう!~」

「葵様~!ありがとうございます!」

「ロスビナス皇国騎士団万歳!!」

「マノーリア騎士長~ありがとうございます!」

「梔子隊長!万歳!!」

「ロスビナス皇国騎士団斥候隊ばんざーい!!」

「咲ちゃん!花ちゃん!ありがとう!」


 街の人だけでなく、一緒に戦ったはずの、王国騎士団や兵士達と冒険者も門の脇に花道を作り、最前線でオーガを食い止め、倒した、葵達を称えている。戦った者だからわかるのであろう、葵達がいなければ、自分達の命は、今頃は尽きていたことを、だからこそ、その感謝を彼らは、言わずにはいられない、死を覚悟しても、生き延びた喜びと感謝は、何よりも幸福であると。


「ここまでされると、逆に引くなぁ~…」

「葵くんは、英雄には変わりないんだから、彼らの感謝を受け止めるのも勝者の義務よ、せっかくわたしが剣術教えようと思っていたのに、わたしより強くなるなんて!」

「俺が強くなった訳じゃない、借り物の力だよ!これからもご指導お願い致します!マノーリア騎士長せんせい!」

「これからは、もっと厳しくしないといけないわね~!」

「そこは、頑張らなくて良いよ…」

「加護持ちの英雄の教育係なんて名誉な事ですもの!頑張る以外に選択肢なんてないわよ」


 勝利に高揚しているのか、マノーリアには珍しい、イタズラな笑顔で葵に微笑む。


「団長!加護持ちって公表しなきゃいけないですか?できればちゃんと働きますけど、俺、目立ちたくないんですけど…」

「あ、お、い!慣れだよ!なーれ!そのうちに感謝されることに、生き甲斐を感じるようになるさ!」

「そんなもんですかね~、日本人ってだけで好機な目にさらされるのに…その上、加護持ちとか騒がれるのやだなぁ~」

「葵くんは、正義の為にとか英雄になりたいとかないの?」

「クー、俺にはほぼ無いぞ~!人助けはしても良いけど、それを称えてほしいとかはないな、多少のお礼は期待するけど。」


葵は軽くため息をついてクーに答え肩をすくめる。


「お礼ってどんなのを期待するの?」


 マノーリアが葵に質問する。葵はイタズラ心に火が着き、マノーリアをからかおうと、指でアゴをかき、考えるふりをしながら答える。


「窮地から救出した。美少女からの熱い…抱擁?」


 期待どおり、4人の少女は頬を赤く染めている。当たり前だ、この4人も窮地から葵の手によって救出された。葵は冗談で済ませようと、言葉をつけたそうとした瞬間に、マノーリアが葵の前に出て、優しいキスをする。


「葵、助けてくれてありがとう。今じゃなきゃこんなことできないんだからねっ…後じゃ恥ずかしいから…こ、今回だけたからね!わたしの初めてなんだからっ!もう…バカ…」


 マノーリアは、少し口を尖らせ上目遣いで葵に囁いた。キスをされた葵と他の面々は、マノーリアとは思えない大胆な行動に驚愕する。街の群衆の前で、絶世の美少女が、本日の英雄に口づけをしたわけだから、喝采と称賛のボルテージは、一気に最高潮まで達した。


「ここまでの喝采はなかなかだな!」

「ベルガモットお兄様!」

「マノーリア無事でなによりだ!」


 王国騎士団が到着し、団長のベルガモットが形式的な礼を白檀にし、白檀も答えた。その後、ベルガモットが葵の前に来て礼の言葉を口にする。


「葵、街を救ってくれて感謝する!事情は聞いている。まさかキミが加護を得るとは…」

「自分でもビックリです!ベルガモット団長にいただいた、このブロードソードが頑張ってくれました。」

「その剣も、キミが使ってくれて本望だろう、私も誇りに思う!」

「ありがとうございます!」

「さぁ!皆のもの!もう悪の驚異は去った!今は皇国、王国の両騎士団もおり安全だ!今日の英雄を称えようではないか!宴の準備をしたまえ!」


 ベルガモットの掛け声に宴の準備が始まる。葵の意志とは逆行し英雄として称えられ、その宴は夜更けまで行われたのであった。その夜の深夜に地響きと共に大地が揺れる。


「地震?!」

「けっこう大きな!」

「みんな外に避難しろ!」


 揺れはおさまり、街が静けさに包まれる。


「街の破損・被害状況を報告せよ!」

「王国斥候隊!周辺状況確認急げ!」


  王国の騎士団と兵士達が状況確認の為に指示が飛び交う。深夜に地震に街道要所の街は、朝まで眠りにつかなかったが、昨日の英雄は、地震にも気がつかずに眠りにつくのであった。翌朝マノーリアが地震の事を聞くと。


「確かに揺れていたけど、震度4くらいだったから、また寝た」


  この大陸では、地震事態が珍しいが、地震大国日本に慣れた葵は防災意識が薄れていたのであった。

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