第9話 8-LINK
咲は目の前の光景に我を忘れて走り出す。
「花ー!はなー!す、すぐに助けるから…!」
「咲!まてっ!落ち着け!」
咲は妹の花が、オーガに囚われた状況に救いに行こうとするが、梔子に制止される。
「隊長!い、行かせて下さい!花ー!」
「バカ!咲までつかまったらどーするの!冷静になれ!」
花もただ囚われているだけでなく、抵抗を続けているが、花の攻撃ではオーガは、ダメージを負っていない。オーガは花の攻撃が煩わしいのか、つかんだ腕を振り、花の攻撃を妨げる。花は投げつけられてもいいように、防御魔法を二重でかけ、さらにヒールもかけ、致命傷を負わないように防御する。
「花!ビッグウェーブ!タイフーン!」
咲は、梔子の腕を振りほどき、花のところへ走り出す。走りながらオーガへ向け、魔法を連発する。オーガが怒りに、花を物見塔の壁に叩きつける。
「花~!オーガ!おまえの相手は!わたしだぁー!」
咲は跳躍し、オーガの肩にのり、ショートソードで顔を斬りつける。片目に一撃入り、オーガが痛みに暴れ、花を投げつけ、咲を鷲掴みにし、恨みがましく咆哮をあげる。
「おねーちゃん!」
花は投げつけられたが、マノーリアが受けとめ、致命傷を免れた。
「妹の代わりに自分がつかまるとか…バカ!」
ローブの男が、さらに狂喜に満ちながら叫ぶ!
「フフフ!おま~えら~!オーガに苦戦しているところ悪いが、私は悪夢が見たいのだよ~!圧倒的な暴力に、心の折れたおまえらの顔を、私は~みたい!みたい!ヒヒヒヒヒヒ」
ローブの男がスカルナイトに命じると、スカルナイトは次々と底なし沼に入って行くが、持っている盾を上にし道を作る。その道をオーガが走り抜け、こちら側に渡りきる。
「このままだと他のオーガも渡ってくる!わたしは足止めするわ!クー、葵!咲をお願い!」
「マニー!まだ魔法が使えないんだろ!」
「わたしは!魔術師じゃないわ!騎士よ!葵くんお願いね…」
マノーリアも不安はあるのだろう。しかし彼女の騎士長としてのプライドが、これ以上の加勢はさせないと、強い意志が彼女を突き動かした。渡りきった、オーガが待ちかまえていた、騎士や冒険者を容赦なく殺して行く。
「ダメだ!彼らじゃ相手にならない。アイツは…あたしが…く…あたしが相手をしないと、被害が大きくなる…葵!花!ごめん…咲をふたりに頼むしかないみたい…」
梔子は自分で、咲を救出したいのをこらえ葵と花に託す。
「わかった…花!行くぞ!咲を助けるぞ!」
「はっ…はい!」
「いいぞ!冷静だな!」
「おねーちゃんは、オーガを倒せないから、自分が身代りになるつもりで、しがみついたんだと思うんです!だから助けて、お説教しなきゃ行けないんです!」
花は泣きながら葵に言う。葵は何も言わず、笑顔で答えた。しかし葵はどうすれば、オーガから咲を救出できるか、なんの策もない、自分では倒せない事は理解している。どうすればいいか、思いつくことは、全てやる事を決意した。
「花!アイツは目までは強化できていない、咲が片目を潰している、矢で射れるか?」
「できなくても、やるだけです!葵さん!」
「俺が気を引くから!頼むぞ!」
葵がオーガへ走り出す。
「咲ー!聞こえるか!防御・回復魔法はしっかりかけておけよ!」
「うっー!グッ…はい…」
咲は、オーガに振り回されたり、壁にあてられたりを防御魔法でしのぐ、葵は、オーガが咲に直接手を出せなくする為に、近接戦に挑む、ターゲットを自分に向かうようにする為だ。近距離から魔法を放ち、どうにか咲を手放させようと試みる。特に顔には、咲が負わせた傷があるので、可能な限り、顔に攻撃を集中させる。避けきれない攻撃が来た時は、回避魔法のエスケープを使い、敵の攻撃範囲から離脱する。花も矢を放ちつつ、魔法で攻撃を続ける。その時最悪事態がおきる。マノーリアのかけた、ボトムレススワンプの魔法の効力が切れ、底なし沼が姿を消す。残りのオーガとスカルナイトが押し寄せる。
「魔法がきれるわ!みんな!警戒して!」
周りの騎士や冒険者から落胆の声が聞こえる
「あきらめないで!攻撃を続けて!戦えない人は後方に下がりなさい!」
マノーリアが檄をとばすが、雰囲気は改善されない。門側の敵が減ってきたのか、門の隊からも魔法援護が入るものの、おされている状況は、一変しない。その時街の方からペガサスが現れる。
「アリス!戦ってくれるの…ありがとう…」
マノーリアの本心は心が折れそうだったのか、支獣のアリスが来たことで、少し自分をとりもどせたようだ。マノーリアの支獣のアリスは、街の戦えない者達が、平常でいられるように、闇魔法の精神安定を維持する魔法をかけていた。マノーリアの分身である為、魔法は、マノーリア同様のものが使用可能であり、マノーリアでも、オーガを倒せないので、アリスの攻撃も同様かもしれないが、足止めは可能だ。マノーリアとアリスで、複数のオーガを接近させないように、足止めをする。スカルナイトを騎士や冒険者が、応戦するが、戦局は平行線のまま、被害が最小限に抑えているだけましだ。さらに葵には苦難が続いた。
「葵さん…魔力が尽きちゃいました…ハハハ…今の防御魔法の効果が、キレたら…後は…わたしの体力勝負です!無理しないで下さいね。あきらめないでくれてありが…うっ!」
「咲ー!」
「おねーちゃん!」
「花!大好きだよー!グッ~うっ~!」
花がとびだそうとした瞬間に葵が制止し花に声をかける。
「それは、アーチャーの仕事じゃない!前衛の仕事だ!」
「葵さーん!」
万策尽きた葵は考えるのをやめた。力のない自分が情けない。女の子ひとり救えない。悲しみにと悲愴に覆われた姉妹に、葵は自分の妹のアヤメとユリが重なる。葵は叫びながら、覚悟を決めた一撃を放つ。
「うぉー!ライトニングアロー!フレイムサークル!ウィンドウクロウ!これでもくらいやがれー!!」
葵は魔法3連続で放ち、ブロードソードとダガー突き立て、捨て身でオーガの懐に入り、オーガの左胸に突き刺す。その傷へ攻撃魔法全てをブレスレットの魔力が尽きるまでうち尽くした。 オーガは相当のダメージなのか、今までにない叫びをあげて、咲を放り投げ、葵をつかみ、壁に叩きつけ、次は葵を振りかぶり地面に叩きつけ、投げ飛ばす。葵は防御魔法は既に切れており、ぼろ雑巾のように地面に叩きつけられた。
「葵ー!」
「葵!いやぁー!」
アリスがボトムレススワンプを放ち、周りのスケルナイトが一掃する。オーガは反対岸に逃げ延びた。葵が捨て身で、攻撃したオーガは葵を投げ飛ばした後に、倒れて糸が切れた。葵の覚悟の攻撃は、なんとか相討ちとなった。倒れた葵に咲と花が駆け寄る。そこに聞き覚えのある鳴き声が響く。
「キー!」
梔子の支獣の大きなはやぶさのユキが、戻ってきた。ユキとアリスが加勢したことで、マノーリアと梔子が葵のところに駆け寄る。
「葵さんが~!」
「葵くん…」
「葵ー!葵ー!!起きて!」
「葵さーん!」
マノーリアが、葵にヒールをかけるが、目を覚まさない。
「もう少しで、先にびゃく兄が来るって…遅いよ…遅いよ!!」
梔子がユキの意識から、白檀が近くまで向かっている事を告げたが、葵は既に意識を失ってい、致命傷を負っていた。
―――――――――
葵は、遠ざかる意識の中、悔しさだけが漂っている。こうしている間にあの姉妹はどうなったのか?マノーリアと梔子は大丈夫なのかと…しかし、もう何もできない…どうすることもできなかった。不条理な暴力に自分は抗う事ができなかった……………意識がなくなる瞬間に、リンクという言葉が、イメージされる。リンクリンクリンク何を考えても、リンクしか出てこない。葵はリンクと口ずさむ。
―――――――
葵は目を覚ます。しかし今いる場所に、心当たりがない。森のようなところ、霧なのか周りはもやがかっている。
「どこだここ…あの世か?」
葵は、現状を把握できずに、体を起こし、その場で座り込む。葵の少し先が淡く光り人のシルエットが浮かび上がる。その瞬間に、脳に直接語りかけるように、少女の声が聞こえる。
「再接続完了…セキュリティチェック完了…認証」
その声は抑揚がなく単調で機械的な印象を受けた。
「青星ブループラネットの民、神無月葵さん、こんにちは、わたしの名はデイト・ア・ボットです。この星の民の言い方をすれば、最高神女神アマテウスの眷属のひとりです。」
「青星…?眷属って眷属神…神様のひとりって、あなたが、俺をこの世界に?」
「いえ、わたしではありません。時が経ちすぎて、過去データに一部欠損があり、正確な事情は記憶がありませんが、ホールが塞ぎきれなかったのでしょう。」
「ホール?」
「はい、青星と緑星グリーンプラネットを繋ぐ試験的運用を過去していたホールです。そちらを完全に塞ぐ事ができなかったのでしょう。青星の民が転移した場合は、保護するように、最高神は述べていました。」
「転移したことが、事故って事ですか?」
「いえ、事故とも言えません。最高神は青星の民が転移するのであれば、依頼があるようです。そちらもわたしは、過去データが欠損しており、説明ができません。わたしは、最高神の思いを叶えるため、眷属のなかで唯一、あなた達と接続が可能だった為、実行しておりました。しかし、接続できる青星の民が現れず、時が経ってしまいました。」
「リンクって魔法が、あなたと繋ぐ魔法だったって事ですよね?俺、あちらの世界に帰れるんですか?」
「はい、帰る事は可能ですが、あちらの世界で、あなたがどのような状況かは、わかりません。転移の状況は睡眠状態か瀕死状態だったと推測されます。覚醒状態に戻るか死亡するか、いずれかになります。」
「どうなるか、わからない…」
「はい、最高神でなければ、お答えできません。あちらの星に戻らず、最高神の依頼を受けるのであれば、違った選択肢が生まれるかもしれません。わたしができるのは、最高神の依頼達成に、わたしは助力できればと考えています。」
「女神に会えるんですか?」
「最高神と会うためには、神無月葵さんは力が足りません。会うためにまずは、この星で生き抜く為に、わたしの加護を与えます。最高神と会えるように助力しますが、あまり時間もありません。この星を滅ぼす敵が、最高神よりも先に目覚めた場合は、滅びます。わたし以外の眷属にも、会うことを推奨致します。」
「そ、そうだ…今彼女達は無事なんですか?」
「はい、まだ無事ですが…危険な状況です。鳳凰の加護を得たものが、向かっているようですが、間に合うでしょうか…」
「鳳凰の加護…団長。女神と会うのは、正直…二の次です。俺は彼女達を救いたい…元の世界に戻るのが、夢オチか死亡なんて…ふざけている。デイト・ア・ボットさん、俺に力を貸してください!」
「承知いたしました。では、わたしの加護を与えますが、本来は直接会うか我々眷属の意志が宿る物が必要ですので、今回は力の一部となります。近いうちにお会いできる事を願っております。現在のわたしはあなたに接続し意識に語りかけております。この姿も本来の姿でなくアバターとなります。」
「わかりました!お願いします!」
「では、加護の力は、目が覚めたら、自然とどうすれば良いか、理解できるようになります。ご健闘をお祈り致します。」
神無月葵は、最高神女神アマテウスの眷属神、大地創成の神、デイト・ア・ボットの加護を受けることとなった。
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