第8話 7-エグザイルマジシャン

「クー数はどのくらい? 」


マノーリアが若干焦りのある声音で尋ねる。


「見えるだけで、150いや200はいる! ユキをそのまま王都へ向かわせるから! マニー! アリスの速度早めて! 街に着いても、時間が足りない! 」

「わかったわ! 」

「何故? こんなところに魔族が…… 結界の中でそんな大群が? 」

「ホールがある可能性が考えられるわ? 」

「ホール…… 穴? 」

「結界と結界の間に歪みがあって、そこを狙われて魔族が入り込んだ可能性が……… 」

「スカルナイト…… 50! 厄介なヤツがいる! 」

「スカルナイトは強いの? 」

「いいえ、スカルナイトは、それほど強くないわ、スカルナイトは必ずそれを操る術者がいるの、術者を倒さないと何度でも甦るし、術者なら結界を破壊できる、街を襲われるとその後が悪夢よ、人々が襲われれば、魔族にとりこまれたら、アンデッドならまだしも、オーガとかになったら街を捨てなければならなくなるわ! 」

「葵くんが発見された時に、結界壊されていたのも同じヤツかも? ゴブリンの数がおかしかったし、結界も破壊されていた。魔族もどこを襲うか探っていたのかも? 」

「街には、騎士団はいないの? 」

「王国の騎士団が小隊規模はいると思うわ、兵士が中隊規模合わせても30くらい、民兵募る時間もないだろうし、動ける人は総動員して、街の防衛を手伝ってもらうことになると思う。後は、滞在中の冒険者が何人いるか…… クー他の魔物は? 」

「ゴブリン50! オーク50! ヘルハウンド20! オーガ10! 隊列中央にスカルホースに乗るローブがいる! アイツが術者! 」

「ゴブリンとヘルハウンドがいるならホールの可能性が高いわ! 」

「何か理由が? 」

「オークはもとはこの星の生き物なの、それにオーガは人間よ! 」


マノーリアの言うとおり、オークは豚を獣人化させたモンスターで、邪神襲来した際にとりこまれた。オーガは人間の欲を操られ鬼になった者である。オーガに噛まれた人間は、オーガになってしまうと言われている。


「ユキがうちの騎士団を呼んで来るまでが勝負だよ! 街の門が見えてきた! 」

「わたしは、ロスビナス皇国騎士団騎士長の如月マノーリアです! 領主か騎士団の幹部に早急の要件がある! 御目通り願いたい! 」


マノーリアがいつもとは違う武人のような口調で告げる。すぐさま。この街の文官と騎士小隊長が召集され状況説明し、街中から戦える者が総動員され防衛戦の準備が整えられていった。


「小隊長さん! この街にいる、地竜と飛竜を集めてもらえますか!あたしテイマーなんで、竜達に援護の高魔法かけて、彼らのチカラもかります」

「梔子隊長承知しました。かき集めます! 」


梔子の為に、地竜10匹と飛竜5匹がかき集められた。梔子はサラマンダーナパームを地竜5匹に、残り5匹にサラマンダーウォーターショットガンの魔法をかける、これは梔子のモンスターテイマー技能により、風魔法資質の梔子でも、炎系水系の魔法をモンスターに一定時間与えられる技能によるもの。飛竜には梔子の資質の風魔法を使い、サイクロンエッジをモンスターテイマーの技能で貸出す。


「じゃあみんな頼むよ~! 地竜くん達は門で、ゴブリンとオークを、飛竜くんは上空から、スカルナイトを近付けさせないようにして! 」


竜達は梔子の指示に動き出す。すると門の上にある物見台の兵士が叫ぶ。


「魔物達が見えた! 距離2キロ! 」

「西門以外の橋を跳ね上げー! 堀に油流せぇ! 」


この街の周りには堀があり、橋はすべて跳ね橋となっている。小隊長の号令で西門以外の跳ね橋は門を開かずの扉とする。堀は15メートルほどあり、飛び越える事は、今回の魔族の種類ではいない、堀にも油を流し込み火をつける。


「ゴブリンとオークとスカルナイトは、他の人たちでも大丈夫! あたし達は、オーガとヘルハウンドを、できればあのローブを! 堀の外の物見塔で横合いから攻撃しよう! 」


堀の外の物見塔と橋の周辺にバリケードをはり籠城を決め込む。バリケードは、先陣のゴブリン・オーク・スカルナイトを誘導するようにはり、一般の兵士と地竜・飛竜で橋の前で迎え撃つ。一方、皇国斥候隊と王国騎士小隊とベテラン冒険者総勢25名で、オーガとヘルハウンド、そして今回の魔族を率いるローブを攻撃する。


「この柵を越えられたら、全員退却後、跳ね橋をあげてください! 」

「承知致しました。如月騎士長! 」

「クー! あなたとわたしで先陣きるわよ! 咲・花は、物見塔から弓で援護! 葵くんはわたし達と来て、遊撃担当してもらえる? 無理はしないで! 厳しければすぐに後ろに下がって! 」

「どこまでやれるか…… 役に立つか…… わからないけどやれるだけやるよ! 」

「絶対に無理はしないでね…… 」


マノーリアは、拳を葵の胸にあて健闘の祈りを捧げる。葵が質問する


「こんな時に聞くことじゃないんだけど…… 女性騎士に対しては、どう祈りを捧げれば良いかな? 」

「バカ…… わたしには同じようにしてもらっても…… 葵くんなら…… 」

「ちゃんと作法があるなら、先生に聞いておこうかと思って…… 」


マノーリアは、頬赤く染めながら呟く、女性騎士に対しては、肩かもしくは鎖骨あたりに拳をあてるか、別隊や他国の相手であれば、ふれないのが作法である。葵はマノーリアが、同じでいいといっていたが、さすがに気が引けるので、鎖骨あたりにあて健闘の祈りを捧げる。梔子・咲・花にも同様に健闘を祈る。その時物見塔の兵士が叫ぶ。


「敵先陣突入! 」

「堀全面守備隊構え用意! 」

「中衛後衛魔法放て! 敵陣形を崩せ! 」


敵突入とともに各隊が指示を出す。


「地竜隊行け~! 」


地竜達がサラマンダーナパーム・サラマンダーウォーターショットガンを放つ。上空からは、飛竜がサイクロンエッジを放つ、魔族の隊列の至るところで、火柱が立ち、水の散弾で蜂の巣になる敵や、強風によって切り刻まれたり、ゴブリン・オーク達が絶命していく。その屍を踏みつけて、スカルナイトが前衛に入れ替わる。スカルナイトの隙間をヘルハウンドが走る。


「咲・花! 援護よろしく! マニー・葵行くよ! ヘルハウンドは、彼らには無理! 」

「葵! ヘルハウンドは炎魔法はきかないからね! 」

「了解! マニー! 」

「ライトニングアロー! ウィンドウクロウ! サンドブラスト! 」


葵は、光魔法の稲妻で貫く、ライトニングアローを放ち、連続して風魔法のウィンドウクロウで爪でかき斬られたように敵が倒れる。土魔法の砂の散弾のサンドブラストで、周りのスカルナイトを一掃する。門に向かっていたヘルハウンドがこちらを敵と認識する。


「サンキュー! 葵! 次はあたしの番! ウィンドウォール! 」


梔子は風の壁を踏み台に跳び跳ねる。


「かまいたち!! 」


梔子は5匹のヘルハウンドをかまいたちという剣技で、一気に切り刻む。更にマノーリアが梔子の反対側で、薙刀をかまえ、まるで踊るようにヘルハウンドを5匹切り刻む。


「乱舞! 花吹雪! 」


ヘルハウンドだけでなく、近くにいたスカルナイトも一掃する。後方から矢が雨のように休みなく降り注ぐ、咲・花と弓騎士が一斉に矢を放っている。特に咲と花は、急所を貫いて絶命させたり、一本の矢で2匹を1度に貫いたりし、能力の高さを証明している。物見塔の兵士が叫ぶ


「オーガが来たぞ! 」

「魔法をオーガに集中させろ! 」


騎士団がオーガに向かって魔法を放つ。一体は沈黙する。オーガの群れは津波のよう向かって来る。人間だったとは思えないほどに、その体躯はまったく別の生き物といえる。身長も2メートル以上あるものばかり、筋肉の鎧で覆われた、その体は矢を跳ね返す。


「プロテクション! ディフェンス! 」

「レンジプロテクション! 」


葵、マノーリア、梔子は各自自身へ防御魔法をかけ、マノーリアは更に範囲防御魔法をかけ、攻撃に転じる。梔子もオーガめがけ走り出す。


「乱舞! 五月雨! 」

「疾風斬! 」


ふたりがオーガを1体ずつ倒す。オーガは後7体。マノーリアと梔子がオーガに攻撃しやすいように、葵がヘルハウンドを相手にする。


「ライトニングアロー! 」


葵の稲妻が、ヘルハウンド2体を貫く、倒しきれないが動きを止める。葵はブロードソードでヘルハウンドの額を突き、もう一体をダガーを取り出し喉元をかき斬る。


「葵! 敵を一掃するわ! 門側の敵を魔法でできるだけ減らして!その後、密集陣形をとるわよ! 」

「了解! マニー! 」


葵はマノーリアの指示通り、門側のスカルナイトの群れに範囲魔法放つ。


「フレイムサークル! 」


炎の輪がスカルナイトを囲み焼き払い灰にする。マノーリアと梔子が、葵に近づき、お互いに背中合わせに密集する。マノーリアが土魔法の高魔法を放つ。


「ボトムレススワンプ! 」


マノーリアを中心に、半径50メートルに底なし沼が現れる。底なし沼に、はまるのは、敵と認識した魔物達が足をとられもがいている。オーガの1体が、近くにいたオーガの足をつかみ道連れにする。オーガは残り5体。


「すごい…… 最初からこれ使うとかダメなの? 」

「高魔法だからね、結構、魔力消費するのよ! 避けられたり、思った以上に一掃できなかったら、まずいでしょう。不意討ちとか今回のように籠城戦の時に使うのが、意味があるのよ! ひとまず15分ほどは一息入れられるわ」


梔子が咲と花に声をかける。


「咲~! 花~! お疲れ~! そっちは大丈夫? 」

「大丈夫でーす! 」

「隊長こそ大丈夫ですか~? 」

「こっちも大丈夫! 今のうちに補給してね~! 」

「了解でーす! 」


各々息を整え、ポーションで体力と魔力を回復させる。


「なんとかなりそうかな? 」

「気は抜けないけど行ける! 」

「葵くん、魔法合格よ! 使うタイミングも選ぶ魔法も問題ないわ! 」

「お褒めいただき光栄です。騎士長殿! 」

「その感じならまだまだ行けそうね! 」

「過信はしないけど…… やれてる自信はあるよ! 」

「じゃあ~ もう一がんばり行きますか! 」


3人が休憩を終えて、再度戦いに挑もうと、気持ちを入れかえた時に!ローブの男が現れ高々と叫ぶ


「はっはっはっ! 面白い面白いよ~ 君たち! わたしの力に抗うとはぁ~ どこの誰だか知らないけどさぁ~! 邪魔をするな~ら~! 殺す! わたしの力をお~も~い~しれ~!! 」


ローブのフードをとり顔を現した男の瞳は白目が黒く濁り、角膜は金色に怪しげに光っており、瞳孔は立てに裂かれたように、人間の瞳とは思えないほどに変わっている。その男が両手を広げ何か呟く。すると倒したはずの魔物達の一部が蘇る。さすがに沼に呑み込まれた魔物や、倒して時間が経過した魔物は、魔力が届かないのか蘇る事はなかった。


「アイツ人間? 」

「エグザイルマジシャン…… 」

「推測だけど、追放された魔術師よ! 禁忌にふれたか、違法行為で追放されつまはじきにあい、自分過ちを悔いいることなく、恨みと憎しみをたぎらせ、悪魔に魂を売ったのだと思うわ…… 悪魔の絶大な力を手に入れた代償は、満たされない欲をほっして、死んでいくか、悪魔になるか…… 」


禁忌魔法を、顕現させてみたいという欲求にかられる魔術師は少なくない、しかし顕現させた末路も想像が容易い、なので多くのものは、そこで欲求を納めるのだが、自身を律する事のできない者が禁忌を侵してしまう。律する事のできない者は強欲の持ち主だ。悪魔の囁きにも負ける。


「振り出しだ、門側の敵は数が少ない。一掃して合流しよう! 」

「わかった! 飛竜くんサポートお願い! 」


その時ローブの男が叫ぶ。


「ド~ラゴンの~ 出来損ないがぁ~ 鬱陶し! しねぇ~!」


男が手をかざすと、黒い炎で飛竜達が消し炭になる。


「こ~れ~で~! 空からの攻撃なくなった。ヒヒヒヒヒヒイ」


ローブの男が自分の魔法に酔い、醜い笑い声をあげる。


「アイツ! 絶対に許さない! 」


梔子がローブの男睨む。ローブの男がさらに叫ぶ


「ヒヒヒヒヒヒ!! わたしの力にひれ伏す時がきた! わたしを否定したバカどもに後悔させてやる! 圧倒的な力にひれ伏せぇぇ~! 」


ローブの男が魔法を顕現させると、オーガの体躯が倍になり、咆哮をあげ見境なく暴れ始める。


「ライトニングアロー! フレイムサークル! 」

「乱舞! 月光! 」

「ダブルエッジ! 」


3人は魔法、剣技でしのぐが、オーガに手傷を負わせるも、致命傷に至らな「スカルナイトとヘルハウンドを倒すが数が多く囲まれる。


「花! 隊長達が囲まれ始めた! 弓技と魔法で援護して! 隊長達の退路作るよ! 」

「わかった! フレイムリバー」

「花! わたし加勢する! 」

「咲ちゃん! 危険だよ! 隊長達のところにたどりつけるかだって! 」

「花! 大丈夫! わたし斥候隊前衛! 文月梔子のバディだよ! 援護続けてね! 」

「咲ちゃん! おねーちゃん!」


咲は花の静止を無視し3人の元に駆け出す。


「ウォーターショットガン! ビッグウェーブ! 」


咲は水魔法をに連続で放ち道を作る。


「咲のバカ! フレイムウォール! 」


花が咲を援護するように炎魔法で炎壁を作る。


「サンキュー! 花! 隊長~! 加勢にきました! 」

「咲! あんたなにやってんの! バカ! 」

「いや~ バディがいないと、本気出せないかなぁ~って! 」

「無理して! ケガない? ありがとう。咲! 元気なら行くよ! 」

「はい! 隊長! 」

「マニー・葵! 咲が来たから、わたしは咲と連携するから! 」

「わかったわ! 」

「行くよ! 咲! ハリケーン! 」

「タイフーン! 」


梔子は、風魔法のハリケーン、咲は水魔法のタイフーンを放ち敵を一掃する。巨大化したオーガは、ダメージは受けているが倒れない。数の暴力に防戦一方で戦局は厳しい。


「オーガを倒さないと! 」

「でも、攻撃がきかない! 」

「フードの男~! 」

「足止めだけでも! 」


オーガが迫って来る。一体のオーガが花のいる物見塔に迫る。


「周辺の敵を一掃するから! 物見塔近くのオーガに集中攻撃して」

「ボトムレススワンプ! 」


マノーリアが再度底なし沼の魔法を使い周りのスカルナイトを一掃する。2体のオーガは沼に沈んだ。


「魔力がキレたわ! ポーション使うけど、少しの間魔法が使えない!」


物見塔近くのオーガに攻撃を集中させるが、オーガは倒れない。そのオーガが物見塔に触れる。花が弓と魔法で、オーガに攻撃するがきかない。


「花! 」

「花! 逃げて~! 」

「逃げろ! 花! 」

「早く! 逃げて! 花! 」


花は、物見塔の屋根にのぼり跳躍したが、オーガが手を伸ばし花の足をつかみ囚われる。


「花~! 」


咲の妹を思う叫びはオーガの咆哮に霧散するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る