それほど重くない星の死

@beavoice

第1話 僕と

帰りたいと思ったときには、既にそれはなくなっていて戻りたいと思ったときには、大抵手遅れだ。

 

僕の35年間もそのようにして過ぎていった。


自覚しながらまた同じ喪失を繰り返す。失ったものは元には戻らないと分かっていながら、ある日突然戻って来てくれるのではないかと思うことがある。だが、そんなはずもなく期待の後には喪失の他に感じるべきものは何一つもなかった。


「ねぇ僕達って将来どうなってると思う?」


ルイは部屋の隅にあるラベンダー色のサッカーゴールくらい大きなソファーに寝転んでいる。


「さぁね。」


そよ風が心地よい。僕達はその夏高校2年生であらゆる自信と生命力に満ちていた。スーパーヒーローにはなれないにしても大抵のことはできると信じていた。毎晩、朝から晩まで部活で体を酷使し、その後はボウリングやカラオケで深夜まで遊びほうけた。


「会社でも作ってるかもしれない」


「宇宙旅行してるかもな」


「女優連れて、遊ぶんだ」


「悪くないね」


ルイは、寝返りをうってテニスボールを天井に勢いよく投げつけた。ポカンと間抜けな音がした。

 

生き続けなければいけない現実こそ本当の地獄である。若くして性病で命を落とした哲学者の言葉だ。著書で、神経障害に悩まされた母親が発狂し死んでいった光景を子供時代のトラウマとして記していたが、自身も性病になり同じ道を辿ったのは皮肉なことだ。配偶者の顔ですら最後は分からなくなり暴言を吐き散らして死んでいったのだから、彼のことをよく言う人がいないのはなんとも切ない。彼が死んだ年、彼の一人息子は11歳で死を理解することはできたがその意味を理解することはできなかった。あるいは、理解することを拒んでいた。狂っていく父の姿に恐怖を覚え、まるで寝つけず、口数も減っていった。引きこもるようになり、年齢制限のかかったサバイバルゲームに時間をつぎ込んだ。

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