第8話:あなたは、今までに転生させてきた人数を覚えていやがりますの?(その1)
「え~!? ここまでに来たのに、中に入れないの!? あたし、早くおフロに入りたいのに…」
「とは言え、まず『南のお告げ所』が実在した事を喜びましょう。それだけでも、今まで旅をしてきた意味はあります。中に入れる、入れないの判断については、その次です」
「キルホーマン、なんで入れないんだい? 入口で何て言われたの?」
「認められたメンバーまたは、そのメンバーから紹介を受けた人物しか中には入れないそうです。どうやら『南のお告げ所』とは、様々なスキルについて研究を行い、再現性を高めたり、効果を高めたり、管理したりする機関であり、国家機密となっているようです。だから、このような人里離れた場所に存在しており、かつ、一部の占い師のような人たちを除いて、情報を持っている人が少なかったのでしょう」
「スキルをか。この比較的平和な時代において、戦争のためなのか、自衛のためなのか。いずれにしろ、俺の爆炎スキルで受付を脅す手もある」
「いえ、それは無意味でしょう。間違いなく『南のお告げ所』の内部では、あらゆるスキルが封じられている筈です。カスクバレルさんのお屋敷で、あの使用人さんがされていたように。それに、国家機関であれば、ラフロイグさんのスキルでは太刀打ちができないようなスキル者も多く在籍している可能性があります。なるほど、転生スキルの能力者がいる、という情報の信ぴょう性も低くはないでしょう」
「じゃあ、どうすればいいんだい? ここまで来て、あきらめて帰る、というのもなあ…」
「とりあえず、我々のスキルについて申告をするように言われましたので、みなさんで受付まで行きましょう。我々の持つスキルのうち、『南のお告げ所』で研究するに値するものがあれば、あるいは中に入るチャンスもあるやもしれません」
「人数は…6人でよろしいですか?」
「ええ、6人で全員です、受付のお嬢さん」
「長旅をしてここまできましたのに、入れないとしたら、あまりにも残念ですわ…」
「心中お察しします。しかしながら、私共からすれば、突然の訪問者の都合をひとつずつ考慮する余地はございませんので、ご理解ください」
「もちろん、それは承知しておりますよ。では、私たちのスキルについてお話させて頂きますが…。その前に、ひとつお伺いさせてください。自分のスキルを人に伝える、という事は、場合によって大きなリスクを伴います。そのスキルを持っている事が弱点となって、命にかかわるような事件に巻き込まれる可能性だってありますからね。ですから、私たちはスキルをお伝えしますが、その見返りを所望したく思います」
「そうですか。では、残念ですがお引き取り下さい。私共には、そのような取引をしてまで部外者を迎え入れる意味がありませんので」
「やれやれ、やはりそうですか。では、更問です。もし、私たちのスキルの中に、こちらで研究して頂くに値するものがあれば、私たちは中に入れて頂けますでしょうか?」
「約束はできませんが、その前例がある事はお伝えできます」
「なるほど…。であれば、私たちにもリスクを冒す価値があるというものです。では、ひとりずつスキルをお伝えします。まず私から。私のスキルは『あらゆるパラメータを数値化して確認できる』です。では、みなさんもお願いします」
「あたくしのスキルは『人の夢の中に入り込んで、干渉できる』ですわ」
「ボクのスキルは『自分の残りの寿命の半分を、他の人に分けてあげられる』です」
「俺のスキルは、主に『爆炎』と『氷結』だが、攻撃系の魔法スキルは一通り使える」
「オレのスキルは『食べ物や飲み物の香りを、よりかぐわしくできる』だよ。なんかラフロイグちゃんの後に言うのは恥ずかしいな…」
「あたしのスキルは『自分の精神状態とひきかえに、他人の病気を治療できる』だよ」
「さあ受付のお嬢さん、全員のスキルを申し上げました。いかがでしょうか?」
「…ええと…少々お待ちください。『南のお告げ所』のデータベースと照合します」
「そうか、それはめでたい。つまり、俺たちのスキルが『南のお告げ所』にとって既知のものであれば、俺たちは無価値というわけだ」
「その通りです」
「…歯に衣着せぬ物言いは嫌いではない…」
「で、いかがですの? あたくしたちのスキルは」
「…残念ながら、いずれのスキルも『南のお告げ所』に登録されています。つまり、過去、または現在、同じスキルをもった能力者が在籍しているか、あるいはそのスキルが既に研究対象になっているという事です。恐れ入りますが、お引き取り願います」
「…そうですか。仕方がありませんね。ちなみにお伺いしたいのですが、現在『南のお告げ所』で探しているスキルなどはあるのでしょうか? 教えて頂けるのであれば、そのスキルを持った能力者をお連れできるよう努力しようと思いますが…」
「それはお伝えできません。『南のお告げ所』にとって、何のスキルが既知で、何のスキルが未知であるかは機密情報です」
「やはり、そうですか。『何が未知のスキルか』の情報が外部に漏れれば、そのスキルを使って『南のお告げ所』を攻める事が可能ですからね」
「理由についてはお伝えできません。お引き取り願います」
「…承知しましたよ」
「キルホーマン、あたくしたち、ここまできましたのに、帰るしかないんですの? あ、あたくしの転生の夢が…」
「なあキルホーマン、オレはアイラちゃんとキルホーマンとずっと一緒だったから、アイラちゃん以外のメンバーが転生しない判断をしたからといって、アイラちゃんだけを見捨てる事はできないな…」
「ゴブおじ…」
「ラガヴーリンさん、そのお気持ちには本当に感謝申し上げますよ。現状では、これ以上の情報が得られませんから、ここにいても意味がありません。ただ、受付のお嬢さんがおっしゃったとおり、入るための条件は明示されているのです。ここは一旦、退却しましょう」
「そ、そうか…。そうだよね…」
「あたしたち、また野宿しながら街までもどるのか~…。ちえっ!」
「…みなさま、少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか? あなたがたのスキルの中に、既知ではあるものの、申し送り事項が示されているものがあるようです…」
「申し送り事項…ですか。つまり、そのスキルについて、なんらかのメモが残されている、という事ですね」
「ほう、面白い。女、そのスキルについて話してもらおう。どのスキルが気になった?」
「『自分の精神状態とひきかえに、他人の病気を治療できる』スキルですね」
「あっ、それって、あたしのスキルだよ。でも、なんで?」
「…お待ちください…。確認しています…。なるほど…」
「な、なんだよ…。あたし、気になっちゃうじゃない…」
「みなさま、大変失礼いたしました。どうぞ、お入りください。『南のお告げ所』は、あなたがたを歓迎いたします」
「はあ!? なんで? あたしのスキルの何がきっかけで、手のひらを返したのさ?」
「当該スキルは、先代の副所長のみが体得していたスキルだったからです」
「副所長…ですか。つまり、『南のお告げ所』のナンバー2という事ですね」
「はい、その通りです。一代前の副所長となります」
「その感じですと、その方は、あたくしたちのお知り合いなのではありません? そのナンバー2というのは、どなたでしたの?」
「カリラさんのお母様です」
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