第7話:ドーナッツの一番美味しいところは、真ん中の『穴』ですのよ?(その6)

「さて…。どうする? ゴブリンよ」

「う~ん、どうしよう。どうすればいいんだろう」

「前にも言ったが、俺は別に構わん。お前がどうするか、の問題だ」

「そうだよなあ…。どうしようかなあ…」

「おやおや、お二人とも、何を悩んでらっしゃるのですか?」

「あ、キルホーマン、ちょうどいいところに来てくれた」

「キルホーマンよ、勘違いするな。悩んでいるのはゴブリンだけだ。俺は違う」

「いや、でもさ、俺の決断次第で、ラフロイグちゃんの行く末だって変わるかもしれないんだぜ?」

「それはありえん。と否定したいところだが、まさかお前と組んでこれだけ売り上げるとは、俺も想定外だった」

「ええと…何のお話をされているんでしょうか?」

「3日間のお菓子コンテストで、オレたちがダントツで優勝したのはいいんだけれど…主催者である街の役員たちがさ、オレたちに、どうしてもこの街に残って、開業して欲しいっていうんだよね…」

「なるほど。コンテストの商品は、開業資金の援助でしたね」

「そうなんだよね。確かに、いつか自分の店を出すのがオレの夢ではあったんだけどさ…」

「ラガヴーリンさんは、転生について悩まれているのですか?」

「う~ん。実は、そうなんだよね…」

「私はてっきり、ラガヴーリンさんは、転生をする理由がなくなったものだと思っていましたが…。なにしろ、お菓子づくりに関わるスキルがあったのですから。それに、スイーツが名物の街で援助を受けながら開店できるチャンスなんて、そうそうないでしょう」

「いやいや、オレの転生に対する情熱は、それだけじゃないよ。もっと深刻なのは、この顔さ」

「顔…ですか」

「知ってるだろ? 会う人会う人、みんなオレの事をゴブリンっていうんだよね。そりゃ、もう子供のころから言われてるから慣れてるよ? でもそれはオレが努力して気にしない様に訓練したり、笑いに変えたりしてるから耐えられているだけなんだ、ってことも、本当はわかってほしいんだよな。だいたい、ゴブリンにも失礼ってものだよ」

「人生とは、なかなか難しいものですね…。私のような特徴のない人間からすると、ラガヴーリンさんがその容姿のおかげで多くの人に愛されている事が、うらやましいと思う事が少なくないのですが…」

「キルホーマンよ、それは違う。確かにゴブリンの容姿は、その大きな要素なのは間違いないだろう。だが、もしゴブリンが人に愛されている事をやむを得ず前提として認めるとして、その最大要因は、ゴブリンの性格によるものが大きい」

「まさかラフロイグちゃんになぐさめられるとは思わなかったよ。でもさ、オレは一生結婚なんてできないよ…」

「ほう、意外だ。お前に結婚願望があったとはな」

「な、なんだよ…。あっちゃ悪いのかよ」

「お前の容姿から生まれてくる子供の未来を思うと不憫だ。人類のためにならんから、本物のゴブリンと結婚しろ」

「ち、チクショウ! 結局ラフロイグちゃんも容姿じゃないかよ!

「そうか。では、ついでに俺が、お前の転生願望を粉々に打ち砕いてやろう」

「ん? オレの結婚願望じゃなくって? 転生願望を? どういう事?」

「ラ、ラフロイグさん…それは…まさか…」

「鈍いお前には理解できんか。だが、俺には重要な事をあえてストレートに言う趣味はない」

「キルホーマン、ラフロイグちゃんは、何が言いたいのかな?」

「ラ、ラガヴーリンさん…。ええと…。つまり…私の解釈が間違っていなければ、ラフロイグさんは、ラガヴーリンさんにプロポーズをされたのではないか…と」

「は?」



「ゴブおじは転生をやめるんですの?」

「うん。これには、深い事情があって…」

「深い事情…ですの?

「俺とゴブリンが結婚をする事にしたからだ」

「「「えええええええええ!?」」」

「ラフロイグさんとラガヴーリンさんが結婚ですって!?」

「姉キ…正気かよ…」

「ボ、ボクも正直びっくりですが…。おじさん、よかったですね…!」

「ラ、ラフロイグちゃん、ストレートには言わないんじゃなかったのかよ…」

「お前達によく言っておく。勘違いするな。結婚とは契約にすぎん。現時点において、俺とゴブリンが一緒になった方があらゆる観点から合理的と判断しただけだ。店も出すしな。それに、ゴブリンの容姿と俺の容姿の遺伝子を組み合わせる事は、この世界の美的感覚を維持する観点から価値がある事だ」

「なになに? 姉キ、それって、子供を作る予定があるってこと?」

「ラフロイグさん…意外とデリケートな事をはっきりと言われるのですね…。いや、ストレートに言っているわけではないですか…」

「でも『南のお告げ所』まではオレたちも一緒についていこうと思うよ。旅のケジメはちゃんとつけたいしね」

「となると、結局、転生をしたいのはあたくしだけ、という事になるのかしら…。エレンちゃんは病気が治ったし、ラフロイグさんは自分の体を取り戻しましたし、ゴブおじはラフロイグさんと結婚しますし、カリラちゃんはお母様の足跡をたどりたい、という目的ですし…」

「さあ、みなさん、いよいよ次の目的地は『南のお告げ所』です。出発しましょう!」

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