第5話:キルホーマン…あなたには、そんな過去がありましたのね…。(その7)
「カスクバレルさん、あなたが本当にしたいことは、キルホーマンさんを死なせる事ではないでしょう? カリラさんの命を助ける事じゃないんですか!?」
「…ほう。まさか、坊ちゃんが止めに入ってくるとはな…。悪いが、これは子供の世界の話ではないんだ。ワシにとって、カリラの命を救う事と同じくらい、先代の仇討ちをする事は重要なことなのさ。おい、使用人、坊ちゃんを部屋の外へ連れていけ」
「はい、わかりました。さあ、ポートエレンさん、ここから先は、あなたの目には刺激が強すぎると思います。わたしと一緒に市場でも見に行きませんか? 今日は安息日ですから、夜には大道芸人も登場すると思いますよ」
「じゃあ! ボク、決めました。カスクバレルさんがキルホーマンさんを殺すと言うのなら、ボクもカリラさんの命を助ける事をやめます」
「はははっ! そう来たか。確かに、ワシは坊ちゃんの歌でカリラが少しでも良くなれば、と考えている。これは間違いのない事実だ。でもな、坊ちゃんの歌で目を覚ます保証があるなんて考えちゃいない。さすがにそこまでワシも夢見がちじゃない」
「…歌ではありません」
「ん? なんだって?」
「ボクがカリラさんを救うのは、歌で、ではありません!」
「歌ではない…? だと? 面白い。じゃあ、どうやってカリラを目覚めさせてくれるんだ? まさかキスをするなんていうんじゃないだろうな。まあ、坊ちゃんみたいな端麗な王子様なら、それはそれで一興だがな。ははは」
「ポートエレンさん、もうおやめなさい。私の命ひとつで充分です。あなたの命が脅かされるとなっては、私は安心して死ぬことができません。あなたが交渉してかなう相手ではありませんよ」
「キルホーマンさん、ご心配ありがとうございます。でも、安心してください。ボクと、お姉さんのスキルがあれば、カリラさんを目覚めさせる事ができます」
「あたくしの…スキルで、ですの? 言ったではありません? カリラちゃんの夢の中に入る事はできなかった…と」
「ええ。お姉さんはそうおっしゃいました。でも、カリラさんが『夢を見られる状態』になれば、話は違いますよね?」
「そ…それはそうですけど…。でも、どうやってカリラちゃんに夢を見させるんですの? だって、カリラちゃんは、もう…」
「ええ…。ですので、ボクのスキルを、カリラさんに使います」
「エレンちゃんのスキル…ですの? そう言えば、秘密のスキルがある…っておっしゃってましたわね…。エレンちゃんのスキルは、どういう事ができるんですの?」
「ボクのスキルは『ボクの残りの寿命の半分を、誰かに分け与える事ができる』です」
「な、なんですって!? それって、つまり…」
「…ええ、お嬢様。もしポートエレンさんのお話が事実であれば、ポートエレンさんは自分の命を分け与える事で、誰かをその分、長生きさせる事ができるスキル、という事になります」
「自分の寿命と引き換え…。そんな! だって、エレンちゃんの残りの寿命は…」
「お嬢様、それ以上はやめておきましょう。私は、ポートエレンさんに何も伝えていませんから」
「えへ…。ご心配ありがとうございます。でも、大丈夫です。ボクは、ボクの残りの命がどのくらいかなんて、だいたいわかっていますから。それに、ボクの寿命を半分分けたとしても、その残りの時間で転生スキルの能力者のところに行くことができれば、いいわけですよね?」
「…なるほど。そうですか。ポートエレンさんがその覚悟であるのであれば、私はこれ以上、何も言いますまい。でも、転生のスキル者に必ず会える、という保証もないんですよ?」
「ええ、それも理解していますから。ご心配なく、キルホーマンさん」
「で、でも、エレンちゃん。エレンちゃんのスキルでカリラちゃんに命を分け与えても、目を覚ます事はできないのではないかしら…それは別の要因でしょうから…」
「ボクもそう思います。だから、お姉さんのスキルが必要になってくるんです」
「あたくしの…ああ! そういう事ですの? エレンちゃんが命を分け与えてカリラちゃんが夢を見られる状態にする。そこで、あたくしがカリラちゃんの夢の中に入って目を覚ますように説得すればいいんですのね?」
「はい! その通りです」
「…ワシには何の事か、まだよく理解できていないんだが…。今の話から察するに、もしかして、カリラを目覚めさせる事が、本当にできるの…かい?」
「ええ、カスクバレルさん。その可能性が高いと見て頂いて問題ないでしょうね」
「カスクバレルさん、もし、ボクとお姉さんとで、カリラさんを目覚めさせる事ができたら、キルホーマンさんを助けてくれる、という約束をしていただけますか」
「あ…ああ…。もし、本当にカリラが助かるなら、キルホーマンの野郎を見逃してやる」
「カスクバレルさん、ついでに占い師のギルド長への圧力もお願いできると助かるのですが…」
「へっ。キルホーマンよ、お前が言えた立場かよ。ああ、わかった。その願いも叶えてやる。ただし、カリラが本当に目を覚ましたら、だ」
「はい、わかりました。じゃあ、さっそくとりかかりましょう。お姉さん、準備は大丈夫ですか?」
「あたくしはいつでも大丈夫ですわ。エレンちゃん」
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