第3話:あたくしの特殊スキルを、1回だけ解放しますわ!(その6)
「ここは…。あたくし、眠ってしまっていたんですの? いえ、そうだ…ここはエレンちゃんの夢の中…。あたくしは、ここでエレンちゃんを見つけて、目を覚まさせなくてはいけなくってよ…。それにしても…暑いですわね…。空が突き抜ける様に蒼いですわ…大きな白い雲…若草のむせる匂い…。ここがエレンちゃんの精神世界ですの…? あら…何か聞こえてきますわね…これは…これは歌声ですわ! なんてステキな声なのかしら…。ああ…これはきっと、エレンちゃんの歌声ですのね…。夢の中でも歌っているだなんて…エレンちゃんにとって、歌とはそんなに大切なものなのですわね…。とにかく、あたくしはここから立ち上がって、エレンちゃんの歌声の方に向かわなくては、ですわ。…この地平線まで続く広い草原で、こんなにも歌声が響き渡るなんて…。エレンちゃん…エレンちゃんは…どこですの…。人影が…遠くに見えますわね…。行ってみましょう…。それにしても、暑いですわね…」
「エレンちゃん! エレンちゃん! あたくしですわ! あたくしの声が聞こえて?」
「あ、お姉さん…」
「キレイな歌声を遮ってしまいましたわ。ごめんなさいね。でも、あたくし、エレンちゃんに会いに来ましたのよ」
「ボク…。ボク、どうしてこんなところにいるんだろう…。ええっと…思い出せないや。でも…きっと、ボクは死んでしまったのでしょうね…いつかそうなると、覚悟をしていましたから…」
「バカをおっしゃらないでくださる? エレンちゃんは生きていますの。ただ、ちょっと疲れて、眠ってしまっただけなのですわ…」
「え…? じゃあ、ここは…」
「そうよ、エレンちゃんの夢の中」
「ボク、お姉さんが出てくる夢を見ているんですね…」
「いいえ、違いますの。あたくしが、エレンちゃんの夢の中にお邪魔しているんですわ」
「ボクの夢の中に…お姉さんが…? それって…お姉さんが秘密にしていた…」
「そうですわ。あたくしの特殊スキルを使っていますの。スキルで、エレンちゃんの夢の中に入ってきましたのよ」
「それは…ボクを、呼び起こすため…?」
「それ以外に目的がありまして? だって、キルホーマンが、このままエレンちゃんが目を覚まさないかもしれない、なんて言うんですもの…。エレンちゃんには、転生をするっていう目標があるんでしょう?」
「転生…。そうですね…。そうでした…」
「よかったですわ…生きる希望を失っていませんのね。ねえ、キルホーマンからは禁止されていたのですけれど、この際、お話しますわ」
「お話…ですか?」
「ええ。本当を言うとね、あたくしたちもエレンちゃんと同じ目的で旅をしているんですの」
「同じ…。それは、つまり…」
「そうですの。転生スキルを持った能力者を探して、旅をしていましてよ。ね? だから、早く目を覚まして、あたくしたちと一緒に旅をしませんこと?」
「お姉さん…ボク、目を覚ます事ができるでしょうか?」
「ええ、もちろんですわ。あたくしに任せて。さあ、あたくしの手をとって、目を閉じて、じっとして…」
「えへ…ボク、お姉さんの秘密のスキルを知っちゃいましたね。…だから、いつか、ボクの秘密のスキルを、お姉さんのために使ってあげますね」
「…じょうさま、お嬢様、お嬢様…!」
「アイラちゃん、起きなよ! エレンくんが目を覚ましたよ!」
「お嬢様は、なかなか起きませんね…」
「アイラちゃんは寝起きが悪いタイプなのかな?」
「いい方ではありませんねえ…。お嬢様、お嬢様! これは、頬を叩いてしまうしかなさそうですね。そ~れ!」
「お…お待ちになって! あたくし、もう目が覚めていますから…」
「お嬢様、おはようございます」
「お…おはようじゃなくってよ。もう少しでキルホーマンに殴られるところでしたわ…」
「殴るだなんて、人聞きが悪いですよ、お嬢さま」
「それよりも、ほら、エレンくんが目を覚ましたんだよ。アイラちゃんのおかげだね」
「え…エレンちゃん…! 無事に目を覚ましましたのね…! よかった~…」
「お姉さん、ご心配をおかけしました。夢の中では…ありがとうございました」
「ほう、夢の中の事を覚えていらっしゃるのですね」
「あ…!」
「おや、お嬢様、どうされました?」
(あたくし、夢の中で、エレンちゃんに、あたくしたちが転生スキルを持った能力者を探している事を話してしまいましたわ)
(やれやれ。それは、お嬢様からお話になったのですか? ポートエレンさんから自発的にお話があったのですか?)
(あ…あたくしからお話しましたわ。だって、そうでもしないと目を覚まさないと思いましたから…)
(仕方ありませんね。そうとなっては、ポートエレンさんを連れて行かない訳にはいかないでしょう)
「ポートエレンさん、あなたは夢の中で、お嬢様から、私たちが転生スキルの能力者を探して旅をしている、という話をお聞きになりましたね?」
「え、ええ…」
「なるほど。あなたは未成年で、もっと言うと少年です。ですが、あなたが背負っている運命は、恐らく私たちが思っている以上に重いものでしょう…。ですので、あなたに判断を委ねます。もし、あなたが私たちと一緒に旅をしたい、と言うのであれば、私たちはそれを心から歓迎しますよ」
「ボク…一緒に、行きたいです。ボク…。奥様、申し訳ありませんが…ボク、お姉さんたちと一緒に旅をしたいです」
「ポートエレン、あなたの代わりの従業員は、そうすぐには見つからないんですよ…。でも…あなたの人生だものね。あなたの思う様になさい」
「ねえ、キルホーマン。エレンちゃんの残りの寿命は、どのくらいだったんですの?」
「おや、お嬢様、それを私にきいてしまいますか?」
「だって、エレンちゃんは、命にかかわる病ではないんですのよね? だったら…」
「いえ、そう判断するのは、いささか早いのです」
「え…? それって…」
「率直に言いますと、彼の寿命はあと1年です」
「1年…! ですの? たったの…。そう…。だから、転生スキル者を探したかったんですのね」
「もちろん、ポートエレンさんは、私のように具体的な残りの寿命を確認する術や機会を持たないでしょう。彼の体調については、彼自身がいちばんわかっている、という事なのでしょうね」
「1年…。それまでに一緒に旅をして、転生スキルの能力者を見つけ出せるといいですけど…」
「で! なぜ! あたくしが! エレンちゃんの代わりにブドウ踏みを披露しなければならないんですの!?」
「仕方ないじゃない。エレンくんはあの状態だし、男の子だってばれちゃったし。ここは保護者であるアイラちゃんがブドウ踏みを披露するのが筋ってものだよ」
「何を言ってやがりますの!? 2位や3位の娘さんがいらっしゃるでしょう! それに保護者ならお宿の奥様がいらっしゃいますわ! …あ、あたくし、成人していますのよ? 誰でしたっけ? あたくしを厚化粧と罵ったのは」
「オ…オレじゃないよ! の、罵っただなんて…」
「まあまあお嬢様。これは名誉な事なのですから。ほらほら、せっかく、村長が用意してくださったブドウ踏みの衣装に着替えたのですから、台に上がってください。皆さん、お待ちかねですよ」
「お姉さん、その姿、とってもよく似合っていますよ」
「そ…そうかしら? エレンちゃんにそう言われると、まんざらでもありませんわ…」
「さあ、盛り上げるよ! それ、わっしょい、わっしょい!」
「ゴブおじ、その掛け声、本当にあっていますの? なんだか違う気がしますわ…。まあ、この際いいですわ。さあ、始めますわよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます