第3話:あたくしの特殊スキルを、1回だけ解放しますわ!(その4)
「あれ? エレンくんは?」
「ポートエレンさんなら、宿に戻られましたよ。繁忙期ですからね。彼には仕事が沢山あるのですよ」
「ああ、そうなんだ。じゃあ、女の子になるのはやめたのかい?」
「いえ、服や装飾類はみつくろって、化粧もして、コンテストへのエントリーも終えました」
「ええ? じゃあ、エレンくんは今、どんな状態で仕事をしているんだい?」
「ゴブおじは相変わらずにぶいですわね。エレンちゃんは今、女の子の姿でお宿の仕事をしているんですわ」
「ラガヴーリンさんも驚かれると思いますが、ポートエレンさんは見違えるほど…その…可憐な少女に変身されましたよ」
「ああ…あとでエレンちゃんがあの姿で働いているところを見に行かなくちゃですわ…」
「それで、ラガヴーリンさんは、目当ての物を手に入れられたのですか?」
「うん、これ、みてくれよ。試してみたかったスパイスと、干した果物とナッツだよ。店主のレシピで挑戦したいのがあってね」
「ゴブおじ、試食ならいつでもお任せになって」
「そうこなくっちゃ。アイラちゃんには期待してるよ。ところで、コンテストまで、まだ少しだけ時間がありそうだけれど、どうするんだい?」
「それなんですが、ちょうど今の時間を使って、色々と情報を集めていたところです。共有したいですから、ラガヴーリンさんも腰かけてください。あそこに、ふるまい果実酒もあるようですので、よろしければ」
「酒は夜までとっておくよ。で、何か新しい情報はあったのかい?」
「『南のお告げ所』や『転生の能力者』に関する直接的な情報を得る事は、残念ながらできませんでした。ただ、そういった話を耳にした事がある、という方はいらっしゃいましたので、我々の旅が闇雲という事でもなくなってきたかと思います」
「じゃあ、とりあえずこのまま、南に向かって進み続ければいいのかな?」
「それなんですが、直接的な話がなかったかわりに、面白い情報を聞く事ができました」
「面白い情報?」
「ええ。占い師に関する情報です。私たちの行先に、示唆を与えてくれるかもしれません」
「占い師ねえ。オレはあまりそういうの信じないタチなんだよね」
「私もです。なにしろ、一度騙されていますからね。ところが、この情報は複数の方から得る事ができましたので、それなりに信憑性があると踏んでいます」
「どんな占い師の話なんだい?」
「ここから何日か南下したところに、大きな湖があるそうです。湖の周辺には集落が点在しているそうなのですが、そこの住人達が祀っている祠に、著名な占い師が住んでいるとか…。ラガヴーリンさんはご存知ですか?」
「いや、初めて聞いたよ。つまり、湖に行って、祠を見つけて、そこにいる占い師に行き先を占ってもらう、っていう事だよね」
「その通りです。明日、午前中のブドウ踏みを見たら、出発しましょう」
「そういえば…ですわ…」
「おや、どうされました? お嬢様」
「エレンちゃんも、転生の能力者を探している…って言っていましたわ」
「ポートエレンさんが…ですか? それはまた、何故でしょう。誰か転生させたい人でもいるのでしょうか」
「それが…あたくしが聞いた限りでは、エレンちゃん自身が転生したいって、言っていましたわ」
「ほう、なるほど…これは訳ありのようですね」
「まだ、あたくしたちが転生の能力者を探す旅をしている事をエレンちゃんにはお話していませんの。エレンちゃんも一緒に旅に連れ出した方がよろしいかしら…」
「ポートエレンさんの目的によりますが、あまり込み入った話の場合、立ち入りすぎると私たちが目的を見失う恐れがあります。彼はまだ少年ですから、長期間の旅であえて危険にさらすわけにもいかないでしょう。だからといって、私たちから転生したい理由を訊き出すのも無粋というものでしょうね」
「では、どうすればいいんですの?」
「ポートエレンさんが、自発的に転生について私たちに打ち明けたのなら、旅をご一緒する事を提案しましょう。もしその機会がなければ、彼には何も言わず、私たちはこのまま村を出て行く」
「ほらほら、エレンちゃん、お化粧を直してさしあげますわ。こっちにいらっしゃい」
「お姉さん、ありがとうございます。このかっこうで動き回っていたものですから…」
「カワイイ女の子が宿にいて、さぞ華やかだったでしょうね」
「実は、奥様からも、たまに女装をして仕事をして欲しい…とからかわれました」
「あらあら、公認になったのね。また泊まりにこなくちゃですわ」
「アイラちゃん、エレンくん、始まるよ。ほら、あっちに並んで。まずは容姿の審査からみたい」
「ゴクリ。は、はじまりますのね…」
「じゃ…じゃあ、行ってまいります」
「エレンちゃん、頑張ってね!」
「応援してますよ、ポートエレンさん」
「ふう…ですわ。こうしてみると、壮観ですわね…。全員が美女、とは申しませんけれど…結局、何人いるのかしら」
「さっき、係の人に聞いてきたんだけれど、審査は全て観客の投票で行うそうだよ。だから、オレたちも全員の顔をよく見比べて、投票しないと」
「投票…ですか。ラガヴーリンさん、どうやって投票をするんでしょう?」
「ほら、あれだよ。果実酒が入った木のカップが投票権になっているみたいだよ」
「それって…つまり、お酒を飲めば飲むほど、投票できる回数が増える、という事ですのね?」
「そうだね。10杯飲めば、一人で10票の投票ができる」
「やってやるわ! ですわ! エレンちゃんのためですもの」
「やれやれ…。私はお嬢様のお守をする自信を無くしてしまいましたよ。どなたか、酔いさましの特殊スキルをお持ちならよいのですが」
「アイラちゃん、いきなり飛ばしたね。エレンくんに何票入れたの」
「ま…まだ、たったの5票ですわ…。あぁ…でも、既に世界がくるくる回っていますのよ…。あら、ゴブおじが…」
「おおっ? オレがいい男に見えるかい」
「ゴブおじが、本物のゴブリンに見えますわ…。誰か、退治してくださる?」
「お嬢様、そんなに最初から頑張らずとも、ポートエレンさんの得票は上位のようですよ」
「聞いた話によると、この容姿の審査で半数以上が落とされるそうだよ。残り10人くらいになるんじゃないかな」
「10人ですか。であれば、この審査ではポートエレンさんの落選を心配する必要はなさそうですね。しかし、容姿の審査でいきなり落とされた少女たちは少し不憫ですね。参加賞でもあるといいのですが…」
「あ、ほら、ご覧になって! 結果が発表されますわよ」
「まあ、余裕みたいだね。エレンくんは顔がいいからな。オレと違って」
「おっ、どうやら、無事に一次審査は突破したようですね」
「エレンちゃん、やったわ! ですわ! あ、ほら、手を振ってますわ。照れちゃって、なんてカワイイんですの」
「アイラちゃん、そればっかだね…」
「さて、次は何の審査をするんでしょうか…」
「次は、ブドウ踏みだよ。残った女の子たちが、実際にブドウ踏みを披露するんだ」
「次の審査で、観客が最も重視するポイントは何でしょう?」
「さすがにそれはオレにも解らないよね。でも、ブドウ踏みってんだから、リズムとか体力とかを見るんじゃないのかな? まあ、オレは動作の可憐さを基準に投票するけどね」
「ほら、ブドウ踏みが始まりましたわ! ああ、エレンちゃん…スカートをつまんで持ち上げる姿がたまりませんわ…。エレンちゃん! 前をお向きになって! 笑顔、笑顔ですわよ!」
「まあ、ポートエレンさんは男性ですから、脚力、体力では分があるのは間違いないでしょうね…。他の少女と比較して、明らかに動きが鋭敏です」
「エレンちゃん! 抜群ですわよ!」
「顔が良くって体力もあるなんて、男の娘ってなんかズルいよな~」
「さあ、我々も投票をしましょう。お嬢様、くれぐれも飲み過ぎないでくださいよ」
「わ、わかってますわ!」
「うへぇ~、もう飲めませんわ~」
「バカだな~アイラちゃんは。計画的に投票しないと」
「ゴブおじ~、あとでオンブして欲しいですわ~」
「キルホーマン、あんたのお嬢様、どうすればいいかな?」
「…あとで少し吐かせた方がよさそうですね…。お酒が抜けたら、久々に叱ってさしあげるとしましょうか…」
「おっ! 結果が発表されるみたいだよ。まあ、大丈夫だよね。明らかにエレンくんのカップの数が多い」
「…なるほど、これで残り5人になるのですか。ポートエレンさんの優勝が現実的になってきました」
「そういえば、コンテストで優勝したら、何か賞品はでるのかな? 果実酒1年分とか?」
「えぇ~なんですの? 1年分のお酒がいただけるのなら、あたくしが出場しますわ」
「お嬢様は、しばらくアルコール類は禁止です」
「ひ…ひどいですわ~」
「お、どうやら最終審査は、観客の投票ではなく予め選ばれた審査員が決めるみたいだよ」
「なんですってぇ~。じゃあ、もう飲めないじゃないですのあたくし~」
「最終審査までしばらく休憩のようです。お嬢様、お水をのんで一旦落ち着きましょう」
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