第3話:あたくしの特殊スキルを、1回だけ解放しますわ!(その3)
「なんだって!? エレンくんをコンテストに出場させるっていうのかい?」
「お嬢様、ポートエレンさんは確かに容姿端麗ですが、それでも男性です。コンテストに出場できるのは、未成年の少女だけではなかったですか?」
「キルホーマン、言ったでしょう。ブドウ踏みの少女界には革命が起きているんですわよ。つまり…エレンちゃんを男の娘に仕立て上げるんですわ!」
「おとこのこ? 言われるまでもなく、エレンくんは男の子だろ?」
「ラガヴーリンさん、確かに紛らわしい言葉ですが、そういう意味ではないそうでしてね…」
「まったく、ゴブおじは流行に疎いんですのね! あたくしが言いたいのは、エレンちゃんに女の子の服をきせて、バッチリ化粧をして、女の子としてコンテストに参加してもらうんですの!」
「女の子のかっこうだって!? なるほど…。参加資格は、未成年であることと、少女である事だから…条件を満たすな…って思わず納得しそうだったけれど、女の子のかっこうをしたってエレンくんは男の子だよ!」
「お…お姉さん、ボクも、そのお話…今聞いたんですけれど…」
「だって、今言いましたもの」
「おやおや…お嬢様は…。いくらポートエレンさんに男の娘の資質があったとしても、ご本人にその気がなければ、参加は無理でしょう」
「ええ、そうね。で、どうなのかしら? エレンちゃんは、これからあたくしたちと市場に行く。あたくしは、あなたに素晴らしく似合う女の子の服を見つくろう。それからお化粧をして、コンテストに参加をするんですわ。いかがですの?」
「ぼ…ボク…」
「んもう! 優柔不断ですのね! いいですわ、エレンちゃん。女装してから、どうするか考えましょう。さあ、行きますわよ!」
「わ…わかりました。奥様に外出の許可を頂いてきますね」
「やれやれ…。ところで、ラガヴーリンさんはポートエレンさんの事を『エレンくん』と呼ばれるのですね」
「そうだよ。その方が言いやすいからね。アイラちゃんだって『エレンちゃん』って呼んでるだろ?」
「…私はキルホーマンで呼び捨てなのは、いささか…。ほ…ホーマンくん…」
「なんか言ったかい?」
「い…いえいえ、なんでもありませんよ。さあ、市場へ向かいましょう」
「わあ! 賑やかですのね。街でもここまで賑やかな市場は見た事がありませんわ」
「それは言い過ぎかもしれませんが、確かに賑わっていますね。街と比べて土地を広く使える分、屋台や露店を設置しやすいのでしょう」
「ねえねえ、オレはどうせ役に立たないと思うから、単独行動してもいいかな? ほら、あっちの方に、スパイスや果物の屋台が集中してるだろ」
「どうぞどうぞ、行ってきて下さいな。ゴブおじにエレンちゃんを美しくする事なんてできそうにありませんもの」
「だろ? 違いないね。じゃあ、行ってくる」
「…ラガヴーリンさんはああ見えて、自分の仕事に熱心ですね。転生願望は一時の迷いではなさそうでしたが…」
「さあ、エレンちゃん、キルホーマン、行きましょう。丁度広場の反対側に、服やアクセサリの屋台が集中していますわ」
「え…エレンちゃん…。なんてカワイイの…!」
「なるほど、確かに少年の面影はなくなりましたね。これは正直、驚きです」
「お、お姉さん…やっぱり恥ずかしいですよ…。このスカート、丈が短い気がしますし…なんだか変な感じがします。耳飾りや髪飾りも…なんか落ち着かなくって気になりますし…お化粧の香りも…」
「ほらほら、エレンちゃん、姿見鏡でみてごらんなさい。見ればきっと気が変わりましてよ?」
「う…うん…」
「ほら、いらっしゃいな」
「お嬢様、あんまりひっぱっては可哀想ですよ」
「あ…」
「ね!? どう? まるで、自分ではないみたいではなくって? ほら、髪の毛をくしけずってさしあげますわ」
「…ほあ…。これが…ボク…ですか…?」
「あたくしの言った通りでしょう? カワイイでしょう?」
「…う…うん…。びっくり…しました…」
「エレンちゃんたら、頬を染めちゃって…ますます愛くるしいですわ!」
「お嬢様、興奮しておられるところ申し訳ありませんが、ポートエレンさんの気持ちを無視してはなりませんよ。コンテストに出場するかを決めるのは、彼自身ですから」
「わかってますわよ。ああ、でも、あたくし、エレンちゃんのこの姿が見られただけでも大満足ですわ…!」
「ええ、それはよくわかりました。で、ポートエレンさんは、どうされるのですか?」
「…ボク…コンテストに、出場してみようと思います」
「エレンちゃん! ステキ! ですわ!」
「せっかく、お姉さんにキレイにしてもらいましたから…挑戦してみようと思います。コンテストでは、みんなの前で歌も歌えるんですよね!?」
「歌…ですか。さあ、それは、申請をしに行って確認してみないとわかりませんね」
「…その姿でエレンちゃんのボーイソプラノを聴いたら、あたくし、卒倒してしまいましてよ」
「はいよ、確かに申請を受け付けたからね」
「ありがとうですわ。ちなみに、今年は何人くらいがエントリーしているのかしら?」
「ええと…この娘で…30人くらいかな」
「そ…そんなに沢山? 競争倍率が高いですのね…」
「おやおや、お嬢様、いつから目的がポートエレンさんの優勝になったのですか?」
「う…うるさいですわね! ここまで仕立てたのだから、目指すは頂点ですわ。そ、それで、審査の内容は何があるんですの?」
「まずは容姿の評価だね。理屈では、美しい娘がブドウを踏んだ年はうまい果実酒ができる、って事になってるんだけれど、結局は美少女コンテストだからね。それから、ブドウ踏みのテスト。これは筋肉量が物を言うね。明日のブドウ踏みを休まずに続けられるだけの体力が重要。ここまででほとんどの女の子が落とされるよ。ああ、そうそう、あとは、処女である事」
「処女ですって!? そ、それは…どうやって調査するんですの?」
「ははは。昔は村のおばあちゃんたちが審査員として処女の検査をしていたそうだけれど、色々と問題があって、もうながらくやってないよ。処女だ、って言われたら、信じることになってる」
「な…なるほどですわ…」
(エレンちゃん、危なかったですわね)
(お姉さん…あくまで、ボクが男である事は隠し通すんですね…)
(もちろんですわ。ああ…口頭で処女だと信じていただけるのなら、あたくしも未成年を装って出場すればよかったかしら。あ、でも、それでエレンちゃんに負けたらショックですわ)
「そして、最終審査は歌だね。祭りだから、歌をキレイに歌った女の子を皆で投票して決めるのさ」
「エレンちゃん、歌ですって。歌ならいけるんじゃないですの?」
「いけるかどうかはわかりませんが…皆の前で歌うチャンスをもらえるのは、嬉しいです」
「さあさあ、お嬢様、ポートエレンさん、審査の開始は日没頃です。それまで祭りを楽しみましょう。情報収集もしたいですしね」
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