第3話:あたくしの特殊スキルを、1回だけ解放しますわ!(その2)

「う~ん…おいしいですわ、この村の果実酒。ゴブおじの言った通りですのね」

「でしょ? 当たり年のボトルだよ。ビターなチョコレートケーキと合わせると最高だよ、きっと」

「ケーキと? それはいいアイデアですのね。食後のデザートで出ないかしら」

「お嬢様、ご自分の限度を過ごされませんよう、お願いしますよ」

「大丈夫ですの~だ!」

「キルホーマン、ちょいとアドバイスするのが遅かったかもしれないよ」

「…ええ、そのようですね…」

「あ! ゴブおじ、ご覧になって! エレンちゃんが来ましたわ」

「おやおや。宿主の奥様も続いてらっしゃいますね。何か催しでもあるんでしょうか」

「あ、歌うんだよ、きっと。ほら、奥さん、弦楽器を持ってるよ。リュートかな? ブズーキかな?」

「えっ!? エレンちゃんが歌うんですの?」

「そのようですね。ほら、始まりますよ。おしゃべりはやめて、拍手をしましょう」

「そうね。 パチパチパチ」

「よし、盛り上げよう。 パチパチパチ」

(…エレンちゃん…ステキですわ…。なんてキレイな歌声なの…)

(いわゆるボーイソプラノですね。ポートエレンさんは声変わり前ですから。…これは異国の言葉の歌のようですね)

(奥さん、妖艶だなあ…)

(え? ゴブおじはそっちですの?)

(ほらほら、静かに耳を傾けましょう)

(…目を閉じて聴くと、まるで女の子の歌声ですのね…。お酒が進みますわ…)

「おや、終わったみたいですね」

「アンコール! アンコール!」

「ゴブおじ、恥ずかしいからおやめになってくださる?」

「ええ? じゃあ、おひねりでも投げるかい?」

「ふふ。それは宿代に含まれているでしょうから、止しとしましょう。あとで個別にお会いしたら、労いの言葉でもかけてあげてください」

「ゴブおじは、まったく…ですわ」



「ボクもご一緒しちゃって、よかったんですか? お姉さんひとりで部屋を使っていただいて、よかったんですが…。ベッドだって、一人用がひとつしかないですし…」

「いいんですの。だってあなたみたいな、か細い男の子を追い出すなんて、できませんわ。それに、心配しないで。あたくし、エレンちゃんを夜這いするほど飢えていなくってよ」

「よばい…? それはなんですか?」

「な…なんでもありませんわ」

「部屋着はベッドの上に置いてありますから、自由に使ってくださいね。服は洗濯が必要でしたら、あとでボクが預かります。体や顔を拭かれるのであれば、テーブルの上に置いてある水差しと桶を使ってください。では、ボクはいったん部屋から出て行きますから、頃合いをみてノックしますね」

(こ…こんなショタに、あたくしの下着まで託してしまってよいのかしら…///)

「…どうか…されましたか?」

「あ…いえ…そんな目で見つめられると…。ううん。着替えますから、出て行ってくださる?」

「はい、わかりました!」

「ああ…その笑顔…反則ですわ…」



「服は、明日の朝までには乾くと思います。その他のことは、大丈夫ですか?」

「え…ええ。大丈夫ですわ。ほら、エレンちゃんもお仕事終わりでしょう? 早く着替えて、ベッドに入ってはいかがですの?」

「はい、じゃあ、着替えます…ね」

「あ…ああ、あたくし、反対を向いておりますから、気にしないで着替えてくださって結構ですわ」

「お気遣いありがとうございます」

「エレンちゃんは、歌が上手ですのね。とってもステキな歌声でしたわ」

「えへ…。気に入ってもらえて、うれしいです」

「歌は、エレンちゃんの特殊スキルなのかしら? 歌で人を感動させられるスキル…とか?」

「スキルですか…。歌は特殊スキルではありません。はい、着替え終わりましたので、姿勢を崩していただいて大丈夫ですよ」

(金紅色の肩まである髪の毛…ゆったりとした部屋着…華奢な体系…。こうしてみると、本当に女の子みたいですのね…)

「どうか…されました?」

「う…ううん。 ほら、もう寝なければ、ですわ。テーブルのランプを消したら、こちらにいらっしゃいな」

「いえ、ボクは床で寝ますから、ベッドはお姉さんがひとりで使ってください」

「な、なにをおっしゃいますの!? それでは、わざわざ一緒の部屋にした意味がないではないですの。ほらほら、こちらにいらっしゃい。お布団をかけてさしあげますわ」

「え…ええ。では…お邪魔します」

(あ、あら…エレンちゃん、赤くなっていますわ…。声変わりはしていなくっても、ちゃんと男の子なんですのね…)

「お姉さん…暖かくて…いい匂い…。誰かと一緒に寝るなんて、久しぶりだな…」

「…エレンちゃんは、独り身ですの…?」

「ええ…。今はこの宿で働いていますけれど…」

「その年で…なんて健気なんですの…。宿で働いている理由は、なんですの?」

「この村の宿なら、お姉さんたちみたいに、いろいろな地域から人がやってきますから…情報を集められると思って…」

「情報? なにか、訳ありですの? 生き別れたご両親や兄弟をさがしている…とか?」

「いえいえ。ボクは、ある特別なスキルを持った人を探しているんです」

「特別な…ですの? それは、どんなスキルなのかしら?」

「わ…笑わないで聞いてくれますか?」

「笑うだなんて…。そんな無粋な事はしませんわ」

「…ありがとう、お姉さん。ボクが探しているのは『人を転生させるスキルをもった能力者』なんです…」

「な、なんですって!? 転生って…。い、一体、どなたを転生させたいんですの? まさか、エレンちゃん自身ではないですわよね?」

「…ボク…自身を、と思っているんですけれど…」

「そんな…。なぜですの? エレンちゃんはまだ若いし、恵まれた容姿ですのに…」

「……」

「ご…ごめんなさい…ですわ…。誰にも、言いたくないことはありますものね…。そりゃあ…あたくしにだって…」

「お姉さんも…?」 

「は…話をかえましょう。エレンちゃんの歌声は、スキルではない、と言ったわね? エレンちゃんは、何か特殊スキルを持っているのかしら?」

「ボクの特殊スキル…ですか」

「ええ、もし、スキルをお持ちであれば」

「…お姉さんは、特殊スキルを持っているんですか?」

「あたくし…ですか? あたくしは…。ええ、特殊スキルを持っていますわ…」

「お姉さんが教えてくれたら…ボクも話そう…かな…」

「あたくしのスキルを聞きたいんですの…? でも、もう何年もスキルを封印していますから…。ごめんなさい、それは秘密ですわ…」

「秘密…。きっと、すごいスキルなんですね…」

「エレンちゃんのスキルは?」

「えへ…。ボクも、秘密です…」

「…お互いに、秘密って事ですわね」

「お姉さん…ボク…もう眠くなってきました…」

「あら…ごめんなさい、ですわ…。ええ、お休みなさい…」

「お休み…なさい…。…お姉さんは、化粧をしたまま、寝るんですか…?」

「あなたが眠ったら、化粧を落としますわ…」

「そう…ですか…。よかった…」

「…眠ってしまいましたわね…。どんな夢を見ているのかしら…。ちょっと、のぞいてみようかしら…。いや、やめておきましょう。それにしても…本当に女の子みたいな顔立ちですわね…。女の子みたいな…。そうですわ…!」

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