第1話:あたくし、男の娘になりたいんですの!(その3)
「よくぞいらっしゃました、我々のギルドへ」
(なんか変な匂いがしますわ、この建物の中。怪しげなお鍋が沢山転がっていますし…)
(これは期待ができそうですね。そしてお嬢様も…まだアルコール臭いですね…)
「なかなか活気のあるギルドですね。皆さん、秘薬でも調合されているのかな? 女性の方も多くいらっしゃるようだ」
「おかげ様で活況です。みんな、できるだけいい物を作ろうと必死ですよ」
「それは結構なことです。スキル者も多くいらっしゃるのでしょうな…」
「それがうちのギルドの自慢ですよ。さて、準備が整っておりますよ。さあ、上の階へどうぞ」
「そうですか。ではお邪魔させて頂くとしますか…」
「おっと、キルホーマンさんはこちらでお待ち下さい」
「なんでですの? あたくし一人だけで行けというんですの?」
「性別を転換するというデリケートな作業ですからね。皆さん、そうされていますよ」
「むう…」
「…仕方がないですね。私はここで待機しております。くれぐれも酔った勢いで、ご自分をお忘れにならないように」
「わ、わかったわ…。い、いってきます」
「それでは、始めていきますよ」
「お…お願いしますわ。つ、ついにあたくし、男の娘になれますのね…。ところで、その鍋で煮えている物は何ですの?」
「肉体形成に必要な材料です。もう頃合いですよ。まずは、これからいきましょうか」
「な、なんだか変な匂いがしますわ…! 大丈夫なんですの…?」
「これをアイラさんの肉体になじませていく必要があります。まずは、握ってみてください」
「に…握ればいいのね…。 ぷに!」
「結構ですよ。では次に、それをゆっくりとなめてください」
「な、なんですって!?」
「あなたの体と一体化する為です」
「…性転換のスキルって言うから、もっと魔法系のスキルみたいに一瞬で終わるかと思いましたのに…。存外に儀式的ですわね…」
「さあ、お躊躇いなく」
「こ…こんなに太くて固いモノを…なめろと言うんですの…?」
「おやおや、男の娘になりたいのではなかったのですかな?」
「くッ…。し、しかたないですわね…! ペ…ペロ!」
「おおお! いいですぞいいですぞ! さあ、どうですか?」
「どう…って…。なんか、少ししょっぱいですわね…」
「さあ、次は唾液を溜めて、口に含んで! さあ!」
「お嬢様! その男から離れてください!」
「キ、キルホーマン…! 来てくれたんですの!」
「私のスキルで確認しましたが、その男が今までに性別転換させた人数は0人です!」
「なんですって? それって、つまり…」
「ええ、その男は詐欺師です。おそらくお嬢様の体が目当て! ここはひとつ、私の爆炎スキルでこのギルド施設ごと焼き尽くしてしまいましょう!」
「や、焼き尽くす!? そんな! それだけはやめてください。我々が長年苦労してお金を溜めて完成させた拠点なのですから…。そ、そんなに偉い魔法使い様だったなんて…し、知らなかったんです」
「なかなかしおらしいお人ですね。解って頂けたのならよろしいのですが、お嬢様を手籠めにしようとした罰は与えなければなりません」
「ご、ごめんなさい! だ、騙すつもりはなかったんです。ただ、この新作のソーセージを試食して欲しくって」
「試食…ですか?」
「ちょっとお! あなたがた、占い師のギルドじゃないんですの!? なんですの? 試食だなんて」
「え…? 占い師のギルド?」
「おやおや、ルイーダさんからはそう伺っておりますけれど…。どうやら違ったみたいですね」
「我々は全員、料理人です。ここは『お料理ギルド』ですよ」
「お料理ギルドですって!?」
「やれやれ…。とんだ無駄骨でしたね…」
「酒場の店主には、ソーセージの試食に協力してくれそうな方がいたら紹介をして貰えるようにお願いしてあったんです。旅の人たちなら、多少騙しても後腐れがないだろうって…」
「あのオバサン、なかなかのやり手でしたのね…」
「ただ、ご期待に沿えるか解りませんが、『人を転生させる事のできる特殊能力者』の話なら聞いた事があります」
「ほう…。それは興味深いですね」
「我々は各地の新しい食材を探し歩いたりするので、下手なギルドよりも広い情報網を持っておりますからね。転生スキルなら、男だろうが女だろうが、人間だろうがゴブリンだろうが、好きな体で生まれ変わる事ができますよ。きっと」
「それで、その能力者の居場所というのは」
「南です。『南のお告げ所』へお行きなさい。そこが、転生能力者の拠点だと聞いております」
「南のお告げ所…ですか。その場所の事を私は知りませんが、それはつまり南に向かって旅を進めて行けばよいのでしょうかね」
「その通りです。でも、かなり遠いですよ。とにかく南に進み、途中の町々で情報を集められるのがよろしいかと。どこかで瞬間移動のスキル者を見つけられるといいんですがね」
「なるほど…。それは良い事を聞きました」
(ねえ、キルホーマン、この方の言葉を信じても大丈夫ですの?)
(まあ、嘘だとしても、旅の途中に情報収集をするうちに真偽は判明するでしょう)
「アイラさん、それで、どうでしたか?」
「どう…って、何がですの?」
「ですから、我々が作った新作ソーセージのお味ですよ」
「お味…と言ったって、あたくし、なめさせられただけで試食していなくってよ」
「ああ、そうでしたか。では、どうぞ、これを。ささ、キルホーマンさんも」
「「パリッ」」
「どうです? どうですか?」
「「モグモグ」」
「どうなんですか?」
「う~ん…。…イマイチ…ですわね」
「ええ? イマイチ…ですか…」
「かなりクセが強いようですね。ハーブの選定に問題があるのでしょう。あと塩。どこの塩か解りませんが、こちらも特徴的な香りがあるようです。ハーブを燻して燻製しているのかな? でも、腸の弾け方は他にはないほど快感でしたし、クセの強い食べ物が好きな方にはたまらないソーセージでしょうね」
「ありがとうございます。そうなんですよ、うちには『料理の食感を良くする特殊スキル』を持った料理人がいるんです」
「そ、そんなスキルを持った方もいるんですのね…。『料理の味を良くする特殊スキル』を持った方がいらっしゃらないのはお悔やみ申し上げますわ」
「やれやれ…でしたね。でも、まあ、次の行先が判明しただけでも良しとしましょう」
「ところで、キルホーマン。あなたに爆炎スキルがあるなんて知りませんでしたわ。隠していたんですの?」
「爆炎スキル? いえいえ、あれはブラフですよ。そうでもしないと、お嬢様を助けられなかったでしょう?」
「ええ…!? でも、よくあの状態で、堂々と嘘なんてつけましたわね…」
「そのおかげで助かったでしょう? 結果オーライですよ」
「う…うん。ありがとう。助けてくれて」
「では、もう一度酒場に足を運んで、一番近い南の街について尋ねるとしましょう。ルイーダさんにお礼も言いたいですしね」
「ええ? あたくしたち、あの方にはめられたんですのに?」
「常連客や地元のギルドを大切にする、いい方ではありませんか」
「南の街…そうさねえ…っていうか、あんたたちそんな事も知らないのかい?」
「お恥ずかしながら、旅人の身の上でしてね…」
(そういえば、お父様には街を出ない様に指示されていたのではなかったかしら?)
(おやおや? 勘当された身で、そんな事を気にされるのですか?)
「一番近いところでも徒歩だと数日はかかるね。まあ途中に村が点々としているから、そこを経由していくといいよ。地図を貸しな。印をしてあげるよ」
「重ね重ね、お礼を申し上げますよ、ルイーダさん」
「どうも。まあ、あたしはルイーダってんじゃないけどね」
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