第一章 入梅
岩室先生の集計も終わり、いよいよ体育祭応援団幹部が発表される。
おそらく、旧岩室クラスの三人は幹部になれるだろう。
強いていうなら、陽葵の最後のが投票にどう影響するかが一抹の不安ではあるがこの三人は固いと新太は踏んでいる。
問題は残りの一枠であるが、その残り一枠も大体予想がつく。
もう一人は、関谷紫音、彼女になるだろう。
一年次の彼女らの元隣のクラスでの立ち位置を考えると見当がつく。
できれば外れてほしいと思うばかりであるが……。
「それでは、今年の幹部を発表する。まず男子はさっき決まった通り、灰鹿・桐原・曽根・寺尾の四名。女子は、青山・内野・白山・関谷の四名」
やっぱりというか、がっかりというか、新太の予想通りの四名になった。
「では、次は他の役職について決める。幹部は別室でリーダーを男女で一人ずつ決めてもらう」
新太たちは岩室先生に指示された通り別室に向かった。
「じゃあ、まず聞くけど立候補者とかいる?」
梗平が周りに聞く。
だが、見回すが特に誰も反応を示さない。
ということは――
「いない、か。となると――」
そう、当然立候補者がいなければ推薦という形をとらざるを得ない。
だが、新太にとってこれは好機であった。
幹部リーダーなんて勿論ごめんである。だからこそ、推薦・投票にさえ持ち込むことができれば新太がリーダーになることはない。
女子から人気の高い梗平を推薦すればまず間違いなくリーダーになるだろう。
先手必勝、くたばれ梗平!
「俺は――」「えっと――」
全く同じタイミングで声を上げた人物がいた。
声の方向に目を遣ると紫音もこちらを見ていた。
このタイミングでの発言ということは、もしかしたら立候補かもしれない。
「先どうぞ」「先いいよ」
なんとなく気まずい空気になってしまう。だが、今の新太に遠慮の二文字はない。
先に何かを言われてごたつく前に先手を打たせてもらおう。
「それじゃ、お先に‥‥‥。幹部リーダーは梗平が良いと思います」
決まった。
新太は心の中でつぶやいた。
そして、何故か紫音はこちらに向かって「よくやった」みたいな顔をしていた。
どうやら、梗平目当てで幹部リーダーに立候補したらしい。
そのアホ面はムカつくがまあいい。今新太と紫音は利害が完全に一致していている。いわば協力関係である。
謎の共同戦線をはったところで梗平の面でも拝ませてもらおうかな。
新太は完全に勝ちを確信していたが梗平の顔は予想を反し、いたって普通であった。
「何言ってんだよ新太。幹部リーダーはお前だろ?」
「は?」
いやいや、何を言ってるんだこいつは。立候補がいないから推薦でってなったはずだ。
「おい、どういうことだよ?いつ俺が幹部リーダーやることになったんだよ」
「まあ、男子幹部で立候補お前だけなんだからお前がリーダーになって然るべきだろ?」
確かに理屈は通っているが……。しかし周りが納得しないだろ。第一なんでこいつはこんなに余裕そうな顔をしているんだ?
「おいおい新太。一体いつからお前が幹部リーダーじゃないと錯覚していた?」
「大輝?お前何を――まさか!」
こいつ等、はなから手を組んで――いや、もしかして……!?
「桐原、君‥‥‥?」
桐原がそっと新太から目を逸らす。
クソッ!ハメられた。まさか桐原君にまで手をまわしているなんて。
「おい、お前ら!俺が地獄にいる間に何てことを!?」
「おいおい、因果応報、だろ?」
「チクショオオォォ」
新太は奇声を上げながら地に付した。
「なにやってんの、アンタら‥‥‥」
「ていうか今地獄って言ってなかった?何て呼び方してんのよ」
「あはは‥‥‥」
女子たちが引きながら新太のことを見ている。見ないで!汚れたアタシを!
「そういえば、関谷さんも何か言おうとしてたね。どうぞ」
「えーと‥‥‥私は、その、幹部リーダーは雪奈さんがいいなと、思います」
え?この人幹部リーダーが新太と分かるや否や立候補取り下げたんだけど?
「という推薦が出たんだけど青山はどうだ?」
そう言われ雪奈は新太を見る。
「私、幹部のリーダーなんてやる気ないんだけど‥‥‥」
お前もか!?お前も俺がリーダーだからやりたくないのか?なんか泣きたくなってくるんですけど‥‥‥。
「新太‥‥‥あんた何で泣いてんの」
というかもう既に泣いてました。
「雪奈ちゃんがリーダーかぁ。うん、すごくいいと思う!」
陽葵ちゃんあのね、あの子のアレはね、当てつけって言うのよ。
陽葵が純度100%で言う。
「そうね、リーダーは雪奈が適任かも」
うーん、美月さんのそれは嫌味ですねぇ。不純度100%!
二人に賛同され雪奈は少し戸惑っているように見えた。
「……ねぇ、アンタはどう思うの?男子幹部リーダー」
雪奈は他の誰でもなく新太に是非をたずねた。
「俺?まあ、お前がリーダーなら頼もしい、かな?ぶっちゃけお前だけでもいい気がするけど‥‥‥」
「……そう」
さっきまで怪訝そうな表情してたのにと疑問を抱いたが、まあ紫音よりかは断然マシだろう。
それぞれの思いを抱え、交錯し、それぞれの結末を迎えた体育祭幹部リーダー選出。窓の外では、雲は怪しくうねり、空は灰色に覆われていた。おそらく、もうすぐ梅雨に入るであろう。
そんな夏を目前にして、彼らの体育祭が幕を開ける――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます