第一章 決意表明
教室に戻るとそこには男子応援団がそろっていた。
結局、梗平と大輝は幹部になっていた。もう一人は元隣クラスの人物だった。
幹部には投票権がなく、スピーチを聞く意味はあまりなかった。
「おい、新太。何てことしてくれるんだ?」
「そりゃあお前、因果応報だろ」
「なんだとこのクズ野郎」
「そりゃあてめえのことだクズ野郎。裏切りやがって」
「何してんだお前ら‥‥‥」
珍しく大輝が突っ込みに回っている。こいつが真面目ポジションなのは癪だな。
「そういや何でクズ野郎どもは立候補を辞めたんだよ」
「おい、ケンカ売ってんのか?」
「やめとけよお前ら‥‥‥俺らが辞めたのは幹部やることになったら勉強する暇が無くなるからよ」
ああ、この時期の補習者って確か――。
「ああ、なるほどな。お前らバカだもんな」
「おい――」
梗平が何かを言おうとした瞬間、横から怒号が聞こえてきた。
「何だと!?表出やがれ!」
「「いや、お前がキレるんかい。」」
やけに冷静だなと思って見直しかけていたが、やはり人は簡単には変わらない。
そんなやりとりの合間に女子は淡々とスピーチをしていく。
「では、次は関谷。君の番だ」
「はい」
関谷紫音。彼女は元隣のクラスの人物の中でもリーダー的存在である。
「皆さんご存知の通り、私はこのクラスの人とはまだまだ付き合いが浅いかもしれません。なのでこの体育祭、幹部を通して皆さんと打ち解けることができたらなと思っています。もちろん、今までの体育祭でも幹部を経験してきたので幹部としての実力にも自信があります。どうかよろしくお願いします」
新太の予想に反し、紫音のスピーチは上等な出来栄えであった。
紫音はスピーチを終えた後、どこかを向いて微笑んだ。
新太はその仕草を不思議に思い、目線を追うとその先には雪奈がいた。
雪奈は紫音の微笑みに微笑みで返していた。
うん。本当に怖いね!
「なあ、新太。俺幹部辞めたい‥‥‥」
どうやら、大輝もその様子を見ていたようでビビり散らかしていた。
正直、新太も辞めたくなってきた。そもそもこの投票、元岩室クラスから3人、元隣のクラスから3人立候補している時点で、一人は必ず元々違うクラスであった人物が幹部になるのである。なんて恐ろしい。
「では、次は内野」
「はい」
ようやく見知った人物が出てきた。
「私はよくうるさいって言われるくらい声が大きいです。なので応援はぜひ私に任せてください!よろしくお願いします!」
短くシンプルにまとめられたスピーチであったが、とても頼もしく美月らしいスピーチである。
「次、青山」
「はい」
雪奈が先ってことは陽葵がラストってことか?大丈夫かよ……。
「他の人の立派なスピーチを聞いていてみんなすごいなって思いました。でも、幹部になりたい気持ちはだれにも負けていません。皆さんと一緒に思い出に残る体育祭にしていきたいと考えています。皆さん、よろしくお願いします」
新太が想像していたよりもずっと良いスピーチだった。
「ん?」
新太が染み入っていると雪奈はどこかを向けて微笑んでいた。
まさかとは思うが—―。新太は嫌な予感を抱きながらその微笑みの宛先を探る。
宛先は関谷紫音さんでした。ハイ、返して?俺の関心。
ていうか、むっちゃ笑顔なんですけどこの二人。怖いなー怖いなー。
「じゃあ、最後に白山」
「へ、ひゃい!」
陽葵は何故かすごく緊張していた。おいおい本当に大丈夫かよ……。
陽葵はちらちらと雪奈と紫音の方を見ている。
あー、そういうこと。これは緊張じゃなくて二人に怖気づいてるパターンですね。
「なあ、大丈夫か?白山。めちゃくちゃ緊張してんじゃん」
梗平が心配になって新太に声をかける。
まあ、確かに心配になるのは分かる。実際、陽葵と仲の良い人物も心配そうに陽葵を見守っていた。
けれど、新太だけは安心して陽葵の姿を見守っていた。
「――大丈夫だろ」
大丈夫。陽葵の顔を見れば不思議とそう思えた。
「私は他の人と比べると幹部としての経験は少ないかもしれません。でも、そんな未熟な自分だからこそ皆さんの立場に寄り添うことができると思います。そして、皆さんと一緒に最高の体育祭にしていきたいです」
新太の予感は的中し、陽葵らしい良いスピーチを発表していた。
「な?」
「ああ、なんか緊張してるように見えたから不安になったけど杞憂だったな」
「えっと、それじゃあ最後に‥‥‥」
綺麗にまとまっていたようだが、最後にまだ何かあるらしい。
「皆しゃん!頑張りましょう、エイエイオー!」
しーん――。
「え、アレ?」
うん。駄目かもわからん。
皆が顔覆いながら頭を下げ、心の中で「余計なことを」を呟いた。
「ブヒャヒャ」
日奈子だけが大爆笑していた。ていうか、ちょっと品が無さすぎない?笑い方。
「大丈夫、なんだよな?」
もう本当にうちの子が申し訳ありません!かっこつけた手前、新太を羞恥が襲う。
しかも肝心のところを噛んだことに本人は気づいていない。
「じゃあ、以上で立候補者のスピーチを終える。投票用紙に四人名前を書いて投票してくれ」
「アレ、何で!?」
陽葵の叫びも虚しく、投票はつつがなく執り行われた。
そして、投票用紙の回収も終わり集計が執り行われる。
そう、今年の体育祭幹部が決まる――。
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