第一章 代表選出Ⅱ
「てか、新太。なんで幹部に立候補してんのよ」
雪奈が新太に問う。
「陽葵の希望だから」とは言わないことにした。
「え、まあやってみたかったからかな」
新太は適当な返事を返す。
それにしても雪奈の機嫌が悪い。まあ、女の子にはいろいろあるらしいから言及はしないが。だが、雪奈が新太への当たりがキツイのは今に始まったことではなかった。
少なくとも、一年の途中まではそんなでもなかったはず――。
「俺としては、陽葵が立候補したことの方が意外だよ」
「……そうね」
そうこうしているうちに新太と立候補者らは用意された部屋に到着する。
話をしろと言われたが、正直何を話すのかさっぱりわからない。
「えーと、一応聞きますが、気が変わったとかいう人って‥‥‥いないですよね」
新太は周りを見渡してみる。もちろん誰もそんな人物はいなかった。
立候補者6人の配分は3人が元岩室クラス、そしてもう半分が違うクラスである。
これはもう実質クラス対抗といっても遜色ない。
「これって、話し合いの意味なくない?」
「だよねー」
元隣クラスの女子が角のある言葉を発する。これに美月と雪奈が反応する。
「確かに話し合いの余地ないよね、これ」
「そうね、誰も譲る気なさそうだし」
やだなー、怖いなー。女子同士争いってホントに怖いワ。新太はびくびくしていたが、その隣にいた陽葵もなんかオロオロしていた。
「このままだと投票って形になると思うけど‥‥‥」
一応、司会として話を切り出す。
「だってみんなやめる気ないでしょ?」
元隣クラスのリーダー的女子が全員に問う。
「陽葵、本当にいいの?」
新太の中では勝手に3対3を想像していたため、新太は雪奈が陽葵に示唆している姿を意外そうに見る。
「うん。私のことを向いてるって、できるって後押ししてくれる人がいるから」
「……そう」
なんだか雪奈と陽葵から視線を感じた気がした。
これは投票に移りそうだと新太は思った。だが、最後に新太はもう一度釘をさす。
「本当にこのまま投票に行ってもいいんだな?」
元隣のクラスの女子は気づいていないみたいだが、投票に持ち込まれたら十中八九勝ち目はない。理由は二つある。一つはうちのクラスは旧岩室クラスの人物が多いということ。そして二つ目は、立候補者のメンツだ。うちのクラスでも特に好感度の高い三人である。どれほど自信があるかは知らないが新参者ではまず勝ち目は薄い。
別に味方をするわけではない。ただ、公平に審査されるべきではある。
周りを見るが反対する者はいなかった。
「じゃあ、多分なんか話さなくちゃいけないと思うから――」
新太は話し合いの結果を伝えるべく教室に戻ろうとした。というかこの場から逃げ出そうと試みた。
が、雪奈に襟をつかまれてしまう。
「グエェ」
「ちょっと、新太」
「いや、苦しっ、ちょっ」
「ちょっと静かにしなさいよ」
「分かった静かにするから首離して!お願いだから!」
「あ、ごめん」
「で、なんだよ」
「なんだよじゃないでしょ、あんたどういうつもり?」
おそらく雪奈が言わんとしているのは先ほどの話のことだろうか。
「どういうって?」
「とぼけないでよ。あの言い方は向こうが不利だってわかっている言い方だった。何で?私たち‥‥‥陽葵が幹部になることに不満でもあるの?」
全部わかっているようだった。なら隠していても仕方ない。
「なんだ、気付いてたのか。でも不満とかじゃないよ。投票にもつれ込んだらお前らはまず間違いなく勝つと思う。でも、それはフェアじゃない。別に向こうの味方をするとかじゃないけど、あんなでも幹部やりたいっていう気持ちは嘘偽りないと思ったから」
雪奈があまりに真剣に聞くので、新太も真面目に答えた。
「まあ、向こうが汲み取ってくれなかったから意味なかったけど」
「っ……」
雪奈は何故かこちらをにらんでいた。
「な、なんだよ」
「別に!」
なんだ急にプリプリしちゃって。やっぱりそういう日なのだろうか。
「あんまり簡単に間違いなく勝つとか言わないでよ。バカ」
雪奈は消え入りそうな声でつぶやく。
何か変なことを言ってしまったのだろうかと新太は思った。
教室の方から岩室先生がやってきた。
「おい、男子の方は決まったが女子はどうだ?」
「はあ、決まると思いますか?」
「なるほどな、投票かぁ。あんまり気が進まないな」
いつもなら賭博とか勝負とか大好物な岩室先生にしては珍しい。
「実は何年か前も投票があったんだが、負けた生徒が泣き出してしまってな‥‥‥というか今お前失礼なこと考えなかったか?」
「いえ、全然全く?コレッポチモ。まあ、そりゃあ大変ですね‥‥‥」
「ああ、じゃあ教室にいったら簡単な決意表明してもらうからな」
教師という立場も大変だな。今後はもっと労ろう。
岩室先生を労いながら、新太たちは自教室へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます