序章 花占い
「あの、なにか用ですか」
「私は占いのようなことをしていていてね。もしよかったら二人のことを占ってあげようと思ってね」
年は新太達と変わらないくらいの、若い女性という印象を受けた。
「あ、結構です。間に合ってます」
どう考えても怪しいだろ。断るに決まっている。
「いや、まってまってまって。え?タダでいいからさ」
「いや、大丈夫ですって、おみくじも引いたし……」
「え、本当に待って?怪しくないよ?名前とか住所とかも聞かないし」
「必死すぎるだろ!大体怪しい人は基本、自分の事怪しい者じゃないって言うんだよ」
なんなんだ?この人。怪しすぎる。それに新太は占いなど、一番信じていない。
「でも、お二人は今とても悩んでいるのにそれをお互い誰にも打ち明けられずにいる。違うのかい?」
「!?」
確かにそうだ。新太は人には言えないような悩みを抱えている。でも、陽葵も?
それならばぜひ聞きたい。いやでも、そんなのは占いとかの上等句だ。適当に言っても当たるだろ。
「……そんなの何処の占い師も言ってることだろ。とにかく遠慮しときます」
危うくだまされるところだった。占いコワイ。
「新太君、やってみない?」
「え、陽葵さん?」
「タダなんだし、一度占いとか経験してみたかったし、この人も必死そうだし」
「うーん、まあ、陽葵がそこまで言うんなら……」
「良かった、受けてもらえるんだね」
そんなこんなで、俺たちはこの胡散臭い自称占い師の占いを受けることになった。
「お二人は付き合いたてですよね?」
「えぇ、まあそうですけど」
むう、当たってやがるな。さては、ストーカーか?
「あ、ちなみにストーカーじゃないですよ~」
占いじゃなくてエスパーなのかよ!?新太は考えていたことを当てられ驚愕する。
「それではさっそく占っていきたいと思います。」
そういうと謎の女はカードを取り出した。
「お二人とも、このカードの中から好きなカードを一つ選んで私に渡してください」
どうやら形式はタロット占いのようだ。二人は、言われるがままカードを選びそのまま謎の女にそのカードを渡した。
「ありがとうございます。それでは少しお待ちください」
そう言うと、謎の女は目を瞑りしばらくした後に口を開いた。
「それでは占い結果の方を彼氏さんの方から。あなたは今何か困難に遭遇していますね。それは、解決できないくらいに険しいものだ。そんなあなたに助言が掲示されています。それは、ブレるな、自分を信じて突き進めというものです」
「はあ」
具体的なことは何一つ言われてないが妙に説得力がある。うっかり信じてしまいそうなくらいに。
「じゃ次に、隣の彼女さんだね。あなたは、自分一人で背負おうとする癖があるみたいだね。今もそうなのかな。そんなあなたへの助言は、抱えきれなくなってしまう前に差し伸べられた手は素直に借りよう。です」
「うーん、なんだか難しいなぁ‥‥‥」
新太も陽葵も初めての占いだったが、良くわからなかったな。
そして、謎の女は見透かすように優しい口調で続けた。
「そしてこれは、二人への啓示」
「「二人に?」」
「うん、二人に。五か月後だ、そこが二人にとっての一番の壁となるでしょう」
「はあ……」
まあ、占いなんて所詮はこんなものか、無料でよかった。
「まあ、いつか分かる日が来るってことか‥‥‥、じゃあ陽葵そろそろ行くか」
「うん、ありがとうございました。あの、本当にお金って――」
「いいのいいの、私が好きでやってるんだから」
新太が警戒しすぎただけで実はいい人だったのかもしれない。
「ありがとうございました。それじゃ――」
「ああ、ちょっと待って」
「「はい?」」
呼び止められて、二人は立ち止まる。
「灰鹿新太君、君の選択は間違ってないよ。だから『君自身を諦めるな』」
新太への忠告を最後に告げられた。
「あ、あと正門からは行かないほうが良いかもね」
「……はあ」
「それでは」
もう一度だけお礼を告げ新太と陽葵は占い師の下を後にした。
なんだか、最後の方にいろいろ言われたな。
「貴重な経験だったね?新太君」
「そうだな、なんか胡散臭かったけど」
「あはは、ひどいね。私はなんかパワーを感じたけどなぁ」
「パワーねぇ」
そういえば最後の「自分自身を諦めるな」とはどういう意味だったのだろうか。
最後の言葉だけは声色が違かったような気がする。
あと、やけに具体的だった五か月という数字。それと、一つだけ妙に直近の予言だった「正門にはいかないほうが良い」。
新太は、この三つの言葉が気になっていた。
「陽葵は思い当たる節でもあったのか?」
「私のは難しくて良くわからなかったな、新太君は?」
「ま、俺のはなんか誰に言っても当たりそうなことだったしなー」
「それじゃ、そのまま屋台の方へいこっか」
「まあ、それもそうだな」
そうだ、あんな良くわからない占い師の言った言葉を考えるのは時間の無駄だ。
今は、陽葵を楽しませることに集中しよう。
「私、クリームたい焼きが食べたい!」
「なんだそりゃ」
「えー知らないの?それはね――」
あれ?そういえば俺あの占い師に名前言ったっけ?
クリームたい焼きなるものを熱弁している陽葵を横に新太は疑問に思った。
まあ、知らない内に言ってたのかもしれないか。
「……聞いてるの?新太君」
「ああ、じゃあそのクリームたい焼きを買いに行こう」
二人はクリームたい焼き屋に到着し、お目当ての商品を手に入れた。
「それじゃあ、そろそろ出ますか、まだ行きたい所もあるし」
「そうなの?ふぅ‥‥‥」
「おう、えーと‥‥‥」
ここからだと正門から出て駅に向かうのが一番近いが、先ほど占い師に忠告された手前、正門は使いづらい。遠回りになるが西から出るのが次に近いルートか。
そう思い陽葵の様子を伺う。
陽葵は汗をかき、少々息が荒い。おそらく人混みと暑さで疲れてしまったのだろう。
仕方ないあの占い師には悪いが忠告を無視させてもらおう。
「じゃあ、駅の方に向かうから」
「分かったよ」
二人は正門から向かうことにした。
新太は陽葵の手を握り、はぐれないようにして正門に向かった。
正門の付近は人が多く賑わっていた。
「うわあ、この辺人ヤバくない?」
「そうですね~、はぐれちゃわないか心配です」
「えへへ、千種ちゃんの手は私が握ってあげるからねぇ」
「ちょっと美月、自重しなさい?」
聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
それは本来、聞こえるはずのない声だ。
何故なら、新太は『それ』を避けてここを選んだからだ。
だから今、この時間、この場所で遭遇するわけがないはずだった。
でも、今の声と内容は確かに見知った人物らによるものだった。
そして今、目と鼻の先にいる。
まずい、このまま行くと遭遇してしまう。クソッ、占いもあてになるじゃないか。
「ちょっ、新太君?」
新太は焦り、陽葵の手を引くが、時は既に遅かった。
「あれ?灰鹿じゃん、奇遇ー。それと――」
美月が視線をずらす。そしてその先にいるのは新太と手を繫いでいる陽葵の姿があった。
「ねぇ、灰鹿。ちょっと今から時間ある?」
美月がすっごい笑顔で聞いてくる。
「あ、ハイ」
あ、完全に詰みですね。コレ。
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