序章 よりよい未来へⅡ

結局、新太の必死の懇願により反省文5枚で手を打ってもらった。

今は、既に家に帰り夕飯を済ませて、風呂に入っていた。


「ぶはー」

 

思えばこうしてゆっくり風呂につかるのは久しぶりな気がする。

忙しくてシャワーしか入っていなかったし、三日前以前は風呂にすら入ろうとも思っていなかったから。

新太は湯舟につかりながら週末のデートの事を考える。

このまま思いつかないなら前回と同じでもいいかなと新太は考える。

陽葵が見たがっていた映画でもあったし――。

いや、待て待て待て。

新太は思い出した。一年前のデートの際に新太と陽葵はクラスメイトと不幸にも遭遇していたということを。そして、新太はこっぴどく尋問されたことを。 

危ない。あやうく同じ過ちを犯すところだった。

変更するにしてもどこに行く?

背伸びして陽葵の負担になるのは避けたい、が、少しは見栄を張りたい。

何よりも、陽葵に喜んでもらいたい。

まだ自殺の理由は何もつかめていないけれど、この日が少しでも結末を変えるためのきっかけになってほしい――。

うむ、全く思いつかん。そもそも初デートに映画とか行く男にそんなエモいデート考え付くわけがない。

気付くと一時間ほどたってしまった。指がふやふやだよ。

 

「ふぅ」

 

新太はようやく風呂から上がり一息ついていた。

やはり、何かが胸につかえて取れないでいた。

だが、新太には一つだけその何かに心当たりがあった。それは、今日見た夢である。

何か女の子がいたような気がするが、そのくらいしか覚えていない。

何度か思い出そうとしてみるも思い出せない。何か大切な記憶のような気がするが。

どうやら、これ以上考えても出てこなそうだ。

新太はそう思ったところで思い出すのをあきらめた。

 

「はあー、まあそれにしても、慣れていく自分が怖いな……」

 

まだたった二日しか経っていないというのに。

いや、正確に言えば慣れたというよりも深く考えることをあきらめたという方が近い。

結局のところ、すべて納得することなんてできるわけがないし、第一これが夢であろうとなかろうとここにいること、今考えていることだけは確かなのだ。

今日は意識が錯乱して集中できそうにない新太は、明日に後回しにすることにして寝る準備を始めた。が、

 

「いや、その前に‥‥‥」

 

新太は鍵穴のついたペンダントがないか部屋を一通り探した。



まあ、当然だが見つかるわけがなかった。

今は火曜日の昼休みである。

 

「はぁ」

 

新太はため息をこぼす。

 

「どうした?ここ連日」

 

梗平が声をかけてきた。

 

「なぁ、梗平」

「んー、なんだ?」

「デートの場所ってどこが良いんだ?」

「ケンカ売ってんのか、自分で考えろよ」

「寺えもーん」

 

梗平がダルそうに新太の方を見てくる。

 

「ていうか、そんな悩むもんか?適当に映画とかなら相手も気負わないでいいんじゃないか」

「映画か‥‥‥なんていうか最初はさ、『これでいいんじゃないかな』みたいな妥協で決めたくないんだよ。上手く言えないけど大切にしたいっつうか」

「だったら、なおさら俺に聞くなよ。まあでもお前自身の意思とかを大切にしてみたらいいんじゃないのか?白山はきっとお前の選ぶところならどこでも喜ぶと思うぞ」

 

なるほ…ん?それっぽいこと言ってるが、コイツ実は何も答えてないじゃないんか?

 

「はぁ、俺自身ね‥‥‥」



「ほふぇー」


水曜日の昼休み。

 

「なあ、梗平~」

「なんだ大輝」

「新太ラリってね?」

「お前それ、今のご時世不謹慎だからやめとけ?」

「どしたのアレ」

「わからんけどほっといておこうや。めんどそうだし」

「それもそだな」

 

二人の会話が聞こえていないわけではないが、話に参加することはしない。

 

「アレ?時間おかしくない?」と思ったそこのあなた。

 

そう、結局あれから新太は家に帰った後も何も思いつかなかったのだった。

 

「はあー」

 

梗平が小さくため息をこぼす。どうしたんだろう?

 

「なあ、大輝は初めてのデートってどこに行く?」

「なんだよ急に、まさか!お前彼女を作る気に?」

「んーまぁ、彼女いる奴の話聞いてたら、羨ましくなって?な」

 

梗平は新太の様子に見かねて助け舟を出してくれたようだ。

新太は藁にも縋る思いで聞き耳を立てる。

 

「うーん、俺はまず、カラオケに行って部屋を暗くして密室でムードを―」

「あ、まきひなは初めてのデートはどんな感じが良いとかあるのか?」

 

梗平は自分の性癖をさらしている大輝をガン無視して日奈子に聞く。

 

「え?なに、恋愛トーク?そうだね、私はあんまり背伸びした感じじゃない方がいいなあ~、例えば買い物一緒にとかでもいいな」

「へー、なるほど」

「どうしたの?梗平もしかして彼女つくるの?」

「いや、そうじゃないけど、てか何でみんな俺がこの話するとおんなじ質問すんの?」

 

日奈子と梗平が話しているのを聞いて美月と千種も来た。

 

「内野‥‥‥はいいや」

「なんでよ」

「いや、なんかロクな返答じゃない気がするし……」

 

美月は腐属性だからなぁー。参考にならないだろう。

そういえば、陽葵と雪奈の姿が見えない。あの二人の意見を一番聞きたかったが、贅沢は言っていられない。

 

「…吉田さんは?」

「私ですか?うーん良くわからないけれど、何か二人の思い出に残るものが良いと、思います。」

 

吉田さんが頬を染めながら答える。

わあー、心が浄化されるなー。なるほど吉田さんがクラスで人気の理由が良くわかる。

 

「そうね。まあ、普通にってのもいいけど何かスピリチュアル的な意味があったりす

るとロマンチックだな~」

 

日奈子が羨望の眼で語る。

コイツ、スピリチュアルの意味わかって使ってないだろう。どっから宗教・礼拝が歩いてきたんですかね。

話が切りあがりそうであるが、結局参考にするにはどれも厳しい。

新太はこぼれそうになるため息を飲み込んだ。

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