第125話 シエルと再会した僕

(しかし色々と新しい情報が出てきたな……走りながら少し整理するぞ)


 現在僕とモーリスは、シエルを探すために東の市民街に向かっているところだ。


(そうだね。精霊に厄災に神の島、そして僕の母親のこと……盛りだくさんだよね)


(本当に俺が精霊だったとはな……まあ前から感じるものはあったが……)


(それは一番どうでもいいところだけどね……精霊というよりはやっぱり悪魔だし……扱いを間違えれば心を蝕むって言ってたけど……)


(確かに俺の存在は普通じゃないからな……知らず知らずのうちにチェイスの心を蝕んでいるのかもしれないが……それより世界の神髄って言葉が俺は気になったぞ)


(どういうことなんだろうね……精霊付きだと世界の神髄に辿り着けるってことなのかな?)


(俺が思うところ、あのばあさんも精霊付きなんじゃないのか? 魔力は多くの情報を持っているって言っていただろ? その情報を読み解くために精霊の力が必要なんじゃないかと思ってな。ばあさんの言っていたことが本当なら、下手すれば魔力の中にこの世界が始まってからのすべての情報が含まれている可能性もあるからな)


(オッ・サンにそんなすごい力があるとは思えないけど……あとは厄災に神の島か……厄災の中心には僕がいるってことだったけど……)


(全く想像がつかんな。だが厄災については外れる可能性のある予言だと言っていたし……厄災についてはとにかく神の島ってキーワードを覚えておくしかないな)


(ユグドラシルの勇者の話を覚えてる? 魔人プオールを勇者ギルバートとその仲間が倒す話なんだけど、魔神プオールのことを人々は解き放たれた厄災って言ってたし、神の島は勇者ギルバートが聖剣を抜いた場所なんだよね……)


(そういえばそうだったな……偶然の一致なのかどうか……そしてチェイスの母親が厄災を払う助けになるかもしれないか……)


(僕の母親も僕がやったみたいに死んだふりをして姿を隠したってことだよね……会いたい気持ちもあるけど……)


(それも色々と解決した後だな。とにかく神の島にいるってことを覚えておくぞ)





「アル! そこから先が外環道だ! 速度を緩めて探すぞ! 特徴を教えてくれ」


 走るのを止めて息を整える。王都の大動脈だけあってかなり道幅の広い道路で人通りも多い。


「肩まである金髪で身長は僕より十センチ程低いです」


「分かった。あとは可愛くて巨乳な女の子を探せばいいんだな!」


「……まあそのとおりです」


 モーリスと外環道を見渡しながらゆっくりと南に向かって歩いていくが、とにかく通りに人が多く一人一人顔を見るだけでもかなり大変な作業だ。


「アル、あの子じゃないのか? 肩まである金髪に綺麗な顔立ち……そして巨乳だ!」


 モーリスが指さした方を見ると確かにシエルがいた。酒場からがっかりしたような顔で出てきているところだった。


「シエル!」


 シエルがこちらを向いた。


「チェイス君!」


 シエルのもとにかけよりシエルを抱きしめた。珍しくシエルも抱きしめ返してくれた。


「無事でよかった! 牢から逃げ出したって聞いて心配したよ」


「僕もラルクに連れていかれたって聞いて……心配したよ」


 久しぶりのシエルは柔らかくとても良い臭いがした。しばらくシエルに抱き着いたままシエルの感触や匂いを堪能しているとモーリスが話しかけてきた。


「お取込み中悪いが、俺のことも紹介してくれると助かるんだが……」


 気づくと僕らの周りからは通行人がいなくなりポッカリと空間ができてしまっていた。シエルから離れてモーリスを紹介する。


「すみません、あまりに嬉しくて。こちらがシエル、僕の婚約者です。そして、シエル、僕の父、モーリス・イースフィルだよ」

 突然の父親の登場にシエルはびっくりしているようだ。


「大変失礼しました。シエルと申します。挨拶もなしに勝手に婚約してしまい申し訳ありません」


 自分から紹介しろと言ったくせにモーリスはどう反応していいのか困っている様子だ。


「いや、こちらこそ……アルヴィンの父、アルヴィン・イースフィルだ。アルが婚約したことには驚いたが、いい子を見つけたようで安心したよ」


 二人のあいさつが終わったとき、僕たちの周りの人だかりが更になくなったことに気が付いた。


「感動の再開を邪魔して悪いが、二人はもう一度分かれることになる。二人を守ってやれない神を恨むんだな」


 そこには騎士団長のラルクが立っていた。他の騎士団員によって外環道の交通が制限されたせいで人だかりがなくなったようだ。


「シエルを泳がせとけば、必ずお前に行きつくと思ったよ。しかし魔法も使えなかったはずなのにあの牢からどうやって逃げ出したんだい?」


 どうやらシエルの後を付けられていたようだ。バカだと思っていたが思ったより頭が働くらしい。


「チェイス君ごめんなさい……全然気が付かなかったよ……」


 訓練された一流の騎士たちなので尾行に気が付かないのも仕方がない。今回もこの間と同じでラルクに二人の騎士がついている。


「チェイス君……これ」


 シエルが僕の魔道具が入った袋を渡してくれた。魔道具を使えば五分五分で戦えるかもしれないが……問題はラルク以外に騎士が二人いることと、ここが王都の真ん中であることだろう。仮にラルクと騎士二人を倒したとしても次々と騎士が集まってくる危険がある。


「さあ、かかってくるがいい。何回逃げようとも無駄だということを教えてやろう」


 ラルクが剣を抜いた。


だが、今僕にできることは逃げることだけだ! 


「父様! 三秒ラルクの相手を頼みます!」


「任せろ!」


 モーリスは既にミスリルの棒を抜いている。剣程自由に扱うことはできないだろうが贅沢を言っても仕方がない時だ。


 モーリスがラルクに向かって上段切りを仕掛ける。その隙に僕は地面に向かって極大の土魔法を放った。


 モーリスの攻撃をラルクが受け止めた瞬間、地面に激突した岩の塊は地面に大穴を開け、土ぼこりを巻き上げた。


「父様! こちらに!」


 モーリスがラルクから離れた瞬間に二人の間に魔障壁を展開する。ラルクは魔障壁で行く手を阻まれ、なんとか二人の間に距離を作ることができた。


「父様下水道を逃げます! 着いてきてください!」


 大声でモーリスに告げる! 土魔法は地面をえぐり、下水道がむき出しになっている。中からは凄まじい悪臭と共に青デブネズミやピンクローチがどんどん外に出てきている。


 青デブネズミやピンクローチは武器さえあれば一般人でも充分に倒すことができる程弱いが、そんなことを知っている者は極少数である。爆音と一メートル先が見えないほど巻き上がった土煙、突然現れた魔獣に領民たちはパニックを起こし逃げ回っている。


「逃がすか! ギャリー、ニステル! お前らも来い!」


 ラルクとギャリー、ニステルが下水道に入っていくのを探査魔法で確認した。

 

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