第106話 他国遠征に協力したい僕
ユートピアの開発は順調に進んでおり、魔金属の製造販売の増加により財政的にも健全性を保てるレベルにまで安定してきた。またユートピアは魔力濃度が他に比べても高く、他の領地に比べて数倍の量の農作物を生産できるため、既に自給率は百パーセントを超え、他領に輸出できる状況にまでなっている。
各地から優秀な兵士のスカウトも行っており、先日組織した近衛騎士団の練度も日増しに仕上がってきている。オリハルコンの武器や建設中の強大な城壁のおかげもあり、軍事力は相当なレベルになっているとエイブラムが自負している。
農業、経済、生産、軍事ともにほんの数年でフレイス共和国内でも既にトップレベルに発展してきているため、他領からのやっかみも相当あるらしいが、そこはエイブラムが色々な手段を用いて黙らせているようだ。
エイブラムが言うには領地を治める上での義務はいくつかあり、代表的な二つが納税と徴兵の義務だ。ユートピア領については開拓特例で納税は三年間免除されているが、徴兵については有事の際は必ず派兵が必要となる。最近は大国間の大戦もないため、派兵が求められることは当面の間はないだろうと思っていたが、この度、国から派兵依頼がユートピアに来たようだ。
「非常に面倒な話だが、ユールシア連邦から兵の派遣依頼がフレイス共和国をとおして来ている。ユートピア領の兵士は個人の実力は確かだが、まだまだ練度的に実戦投入できるレベルではない。二百人出せとの要望だがどうするかを検討するぞ」
「派兵が必要というのはどういう状況なのですか?」
「アメリア帝国がエイジア王国への侵攻を開始したようだ。既にユルッキャ王国は陥落し、エイジア王国内にアメリア帝国軍が侵攻している。ユールシア連邦としてはエイジア王国を守る義理はないが万が一にでも帝国がエイジア王国を支配してしまうと今後厳しい状況になるために派兵を決定したようだ」
ユルッキャ王国はエイジア王国の隣にある小国でここが既に陥落したとなるとエイジア王国としてはかなり厳しい状況だろう。
「しかし二百人は厳しいですね……兵糧などもこちらの負担でしょう?」
「派兵にかかる費用はすべて領地負担となる。エイジア王国まで向かうだけで相当な日数がかかるだろうし、領地にかかる負担は大きいな」
(今兵士を消耗すると今後厳しくなるからな……チェイス一人の派兵で勘弁してくれないかな?)
(うーん提案だけはしてみるけど……)
「兵士二百人の変わりに僕一人が派兵されるわけにはいきませんかね? 僕一人ならかなり短い日数でエイジア王国まで辿りつけますし、今のユートピア領兵二百人よりは戦力になると思いますよ」
「確かにそうだが……万が一を考えるとチェイスを出すのは……」
「ご主人様を戦地に出すのは反対です。いくらご主人様が強いと言っても危険な場所に行かせたくありません」
珍しくエリーが意見をした。いつもならご主人様のすることでしたら応援しますといってなんでも言うとおりにしてくれるのだが今日は違う。
「エイジア王国は一応僕の母国だしね……大変な状況であれば知り合いも派兵されるかもしれないし、助けてあげたいんだ」
もしかしたら父のモーリスも派兵されているかもしれないし、その気持ちに嘘はない。
「でしたら私もご主人様と一緒に行きます!」
「確かにチェイス君一人だと不安だし、私も一緒に行こうかな」
「それなら僕も行くよ。これだけ戦力がそろえば怖いものなしだね」
エリーもシエルもクリスも僕と一緒に行く気満々のようだ。
「ダメだ! ダメだ! ダメだ! まず領主を他国同士の戦争に派遣するなどありえん! それにシエルが抜けるとオリジンの医療が滞るし、クリスまで抜けるとさらに開発が滞る! チェイス一人ならまだしも三人が付いて行くことは認めん!」
エイブラムの意見はもっともである。四人で行って万が一にも四人とも死んでしまうとユートピア壊滅の可能性さえある。
「ならやっぱり僕一人で行くしかありませんね。移動にあまり時間をかけたくないので『リンドブルム』を使いたいですが構いませんか?」
「そうだな……首都オルレアンまでは俺も同行する。チェイスの単独派兵と『リンドブルム』での移動が認められ次第、目的地に向かってくれ」
シエルとクリスは早めに諦めてくれたが、エリーは最後まで自分も行くと聞かなかった。なんとか納得させたものの、こんなにわがままを言うエリーを久しぶりに見た。
その後すぐに首都オルレアンに向かい、無事にエイブラムが議会の説得をしてくれたため、すぐに目的地に出発できることになった。目的地はエイジア王国グレンヴィル侯爵領で、グレンヴィル侯爵の指示に従い帝国軍の侵略を食い止めろとのことだ。
(こんなにはやく初陣を迎えるとはな……ここで戦果を上げればユートピアの地位も急上昇だな。うまくすれば昇爵もありえるぞ)
(これ以上の地位は必要ないんだけどね……帝国の優秀な騎士や魔法使いも出てくるだろうし不安でいっぱいだよ)
(まあ、たしかにそうだな。とにかく死なないことが一番の目標だな)
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