第105話 女性型アンドロイドを作る僕
「これは僕たち二人の名前が歴史に残ってしまうかもしれないね」
「うーん……それが名誉なことなのかどうかは分からないけど……とにかく大発明には間違いないよね」
女性型アンドロイド試作型1号がついに完成したのだ。
遺跡から持って帰った本を研究した結果、道具に大量の魔力を与えることで人工妖精を憑依させることができることが分かった。今は人工妖精を使った試作型1号の実験をしているところだ。
試作型1号は布に綿を詰め込んだだけの人形であるが人工精霊を憑依させているため自分で動くことや簡単な反応を返すことができる。
ちなみに遺跡から持ち帰った本には、自由に音声を創り出せる魔法陣もあったため、今回はそれを使い、エリーの声が出るように設計してある。
もちろんクリスの希望でだ。
「じゃあ魔石を装着させるよ」
人工精霊が活動するためには魔力が必要である。魔石を使わなくても人工精霊は空気中の魔力を溜めて動力とすることができるが、魔力が溜まるまではそれなりの時間がかかってしまうため今回は魔石を使うことにする。
クリスが魔石を人形の中に入れると人形は立ち上がり、右手をクリスの方に伸ばし『大好き』と言いながら頭をなでた。
「成功だ!」
クリスは締まりのない顔でニヤニヤしている。エリーの声で『大好き』と言われたのが余程うれしかったのだろう。
「僕たちは偉大なる一歩を踏み出したようだね」
(成功したのは間違いないがやっぱりこの人形気持ち悪いな……声はいいんだが、とにかく姿形が不細工すぎる。チェイスがこれほど不器用とは思わなかったぞ)
人形の制作は僕が担当しており、目鼻口は僕が書き入れたのだが、なかなか間抜けな顔をしている。
(試作品だしそのあたりは今後改良していくからいいんだよ!)
(まだ『へのへのもへじ』の方がましだぞ……しかし、これは夢が広がるな。今は頭をなでるくらいしかできんが、開発を進めればあんなことやこんなこともできるようになるかもな。あの人形師の志は確かに受け継いだな!)
(人形師の志はよく分からないけど……)
「後は、より複雑な動きにも対応できるように改良しなくちゃね」
「魔法陣での条件分岐がとにかく難しいからかなりの研究が必要だよ。とにかく一つずつバリエーションを増やしていこうと思うけどかなりの時間がかかると思うよ」
「人工妖精を憑依させているのに魔法陣が必要な理由がどうも腑に落ちないんだよね。自分で考えて動いてくれると思ったのに」
「僕も完全には納得がいってないんだけど、魔力は知識を蓄えることができるらしいんだ。そして長年使った道具には魔力と共に記憶が蓄えられる。例えば包丁なら食材を切る知識、剣なら人を切る知識って具合にね。人工妖精って言うのは、簡単に言えば物に蓄えられた知識の集まりのことみたいなんだよね。人工妖精がとりついた包丁は近くに食材があれば切り刻むし、剣なら人を切り殺すっていう動きをするようになるみたいだね」
ちなみに、人工妖精が憑依するまでは膨大な時間がかかるため、通常の魔力濃度の場所では数百年使い続けなければ人工妖精が憑依することはないらしい。
「そこまでは何となく理解できるけど、なんでそれと魔法陣の関係があるの?」
「例えば今回作った試作型1号は人の魔力を感知したときに頭を撫でて『大好き』って音が出るように魔法陣を組んでいるんだけどけど、要は近づいた人の頭を撫でてしゃべる道具だろ? それに人工妖精がとりついたらどうなると思う?」
「うーん……人の頭を撫でてしゃべる人工妖精になるのかな……?」
「不思議だけどそうなっちゃうんだよね。しかも人工妖精がとりついた後は、魔法陣を使って動いたり声を出しているわけでもないし、元々の人形になかった動きまでするのが不思議なところなんだよね。今回の試作型1号も立ち上がる機能とかはなかったはずなんだけど……しかも試作型1号の動きを見る限り完全に僕の姿を視認できていた気がするんだよね……」
技術担当のクリスも分からないことだらけのようでまだまだ研究が必要のようだ。
「よく分からないから僕は理解するのを諦めるよ! 人工妖精のことはクリスに任せて……外側、人形本体の精密化も進めなくちゃね。見た目もだけど肌や髪の毛の質感も研究しなきゃ。そのあたりはドワーフに協力をお願いしようかな」
「人工妖精も僕一人だと辛すぎるからドワーフとの共同研究にしてよ……」
理解できないことばかりなので仕方ないが、クリスが珍しく道具作りのことで弱音を吐いている。
「それならドワーフたちと共同研究ができるように研究所を作っちゃわない?」
今はクリスの家で研究をしているが、この場所ではいずれ誰かにばれる可能性もある。こんなものを作っていることがシエルにばれたら何と言われるか分かったものではない……
「場所も予算もないしさすがに難しいと思うけどな……こんなバカな計画エイブラム様も認めてくれないと思うし……」
「エイブラム様を通さずにエリーに決裁を貰ってくるから大丈夫! さすがのエイブラム様も予算の全てを把握はしていないでしょ」
「あの人なら把握しているような気もするけどな……あと、絶対エリーにもばれないように気を付けてよ!」
「そのあたりは曖昧に説明するので大丈夫!」
予算額金貨十万枚にも及ぶ研究所の設立稟議をエリーのところに持って行ったところ、中身を見ることも説明を聞くこともなく笑顔でサインをしてくれた。さすがエリーである。
こうしてひっそりとアンドロイド研究所がオリジンの町に設置されることになった。
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