第81話 ドラゴンの巣の調査に行く僕

「チェイス! 大変だ! とんでもない物が見つかったぞ!」


 新しく完成した僕の執務室で作業をしているとアーロンが血相を変えて飛び込んできた。


「盗賊団のアジトでも見つかりましたか?」


「違う違う! 見つかったのはレッドドラゴンの巣だ! 報告によると数十匹はいるようだ!」


「なんですって!? 金のなる木じゃないですか! すぐに討伐に行きましょう!」


「お、おう、すぐに討伐に出るのは賛成だが……金になるからじゃなく危険だから討伐したいんだけどな……とりあえず調査隊から詳しい話を聞くから一緒に来てくれ」


 ギルド長のアーロンに同行して冒険者ギルドに向かった。新しく作られた冒険者ギルドは木造の仮設ギルドであるが、それなりに広く、朝から晩まで冒険者たちでにぎわっている。


「こいつらが今回調査に向かわせたパーティーだ。そしてこいつがリーダーのガゼル、C級冒険者だ」


 ガゼルたちは三人のパーティーで他二人が女性だ。


「ガゼルだ。早速ドラゴンの巣について報告するぞ。巣があったのはお前らが穴堀りをしているところの北西側だ。すぐに逃げてきたから詳細は分からんが少なくともレッドドラゴンが十匹以上はいたな。ちょうど窪地になっているところに穴を掘って巣を作っているようだ。かなりの数の穴が空いているのが確認できたから実際にはもっとたくさんのレッドドラゴンがいる可能性があるな」


「まずは正確な数が知りたいな。よし、ガゼル、すまんがチェイスと一緒にもう一度調査に行ってくれ。言っておくがこれはギルド長命令だぞ」


 ガゼルが嫌そうな顔をしたのを見てか、アーロンはギルド長としての命令を下した。


「勘弁してくれよ! いくら魔王様と一緒でもドラゴンがうじゃうじゃいるところに行くなんて命がいくつあっても足りねえよ」


 僕のことを魔王とみんなが言っているような気がするが……完全に噂レベルの話ではなく、僕=魔王というのが定着してしまっている気がする。


「俊足のガゼルならどんな状況でも逃げ出せるだろ。それにチェイスはレッドドラゴン程度なら余裕で倒せるから大丈夫だ」


 どうやらガゼルは俊足のガゼルと言われているらしい。なかなかかっこいい二つ名だ。


(僕もかっこいい二つ名が欲しいな)


(魔王チェイスって立派な二つ名があるじゃないか。なかなかかっこいいと思うぞ)


(それ怖がられているだけじゃないのかな……)


 最後まで抵抗していたガゼルであったが最終的には折れて僕と一緒に調査に向かうことになった。


「俺も新ギルドのナンバーワン冒険者の自覚があるから調査を受けたが、死なないようにしっかり守ってくれ」


「ナンバーワン冒険者ですか……とにかくよろしく頼みます」


 今回調査に向かうのは僕とガゼルの二人だけだ。ガゼルのパーティーメンバーは危険なために残るようだ。


 数日かけてドラゴンの巣があるという場所まで向かったが、さすがに自分でナンバーワン冒険者というだけあって、ガゼルはそれなりの剣の腕をしていた。アーロンギルド長程ではないにしろ、Dランク魔獣程度であれば問題なく一人で討伐できる実力があるようだ。


「魔王様、あそこだ。今日もうじゃうじゃいやがるな……」


 目視できるだけでもレッドドラゴンが十二匹、ガゼルの報告どおり巣穴がいくつもあるところを見るにまだまだ数はいそうである。


 以前倒した竜は茶色い体のアースドラゴンだったが目の前にいるレッドドラゴンの体は炎のように真っ赤である。


「やっぱりレッドドラゴンと言うくらいなので火を吐くのですかね?」


「ドラゴンだから火くらい吐くに決まっているだろ。あいつらは体が赤いからレッドドラゴンと呼ばれているだけだぞ」


「そうなんですか? でも以前倒したアースドラゴンは岩石のブレスを使っていましたよ」


「アースドラゴンは体内に砂袋を持っているから岩石も吐き出すぞ。だからアースドラゴンって言う名前なんだ。レッドドラゴンはこれといった特徴のないドラゴンだから体の色で名前が決められたんだろう」


 そういえば魔獣の名称は頭の悪い冒険者でも覚えられるように体の特徴を名前に入れることが多いと聞いたことがある。


「そういえばアースドラゴンは名前に体の特徴が入っていませんよね」


「アースといえば茶色だし間違っていないだろ? 茶色いだけじゃなく岩石も吐くからブラウンドラゴンよりアースドラゴンの方が覚えやすいと思うぞ」


(言われてみると確かにそうだな。アースドラゴンの名前で茶色と岩石を連想するから覚えやすいな)


(魔獣の名前を考えるのも大変だよね。それより、オッ・サン、巣穴の中まで探れそう?)


(少し距離がありすぎるな……巣穴の長さ次第だが、今レッドドラゴンがうじゃうじゃいるところまで近づかんと詳細は分からんぞ)


 ここしばらくオッ・サンも探知能力を鍛えているようで、以前より探知できる距離が広がっている。今はエリック樹海レベルの魔力濃度の場所でもかなりの距離を探知できるようだ。


「もう少し近づかないと詳細が分かりませんね。巣穴の上のところまで近づきましょう」


 ガゼルは非常に嫌そうであったが、何とか説得して巣穴の近くまで近寄った。


(巣穴の中に十五匹いるな。全部成体のレッドドラゴンっぽいな)


(卵とかはないの? ドラゴンの卵食べてみたいけどな)


(卵どころか子どものドラゴンもいなさそうだぞ。ドラゴンの繁殖能力はかなり低いんじゃないのか?)


「おい、もういいだろ? さっさと戻ろう」


 ガゼルが後ろにさがろうと動いたときに誤って蹴った石が音を立てて崖下に転がり落ちていってしまった。レッドドラゴンたちの視線がこちらに注がれている、完全に気づかれたようだ。


「うわぁー!」


 ガゼルは大声を上げて一人で逃げて行ってしまった……


(とんでもない逃げ足だな……さすが俊足のガゼル……今度から逃げ足のガゼルと呼んでやろう)


(いやいや、のんびりしている場合じゃないし僕たちも逃げなきゃ!)


 レッドドラゴンは大きな体に似合わない小さな羽を広げて既に飛び上がっている。


(あんな小さな羽で飛べるのかよ……せっかくのドラゴンだから無駄に殺したくないしな……雷魔法で痺れさせてその隙に逃げるぞ)


 レッドドラゴンたちに向かって最大出力で雷魔法を食らわせる。


 空気がはじけるような音を轟かせ、雷魔法の雷弾はレッドドラゴンたちに命中した。


(お、ドラゴンにも雷魔法は効くようだな。今のうちに逃げるぞ)


 レッドドラゴンたちは雷魔法でしびれたのか地面のうえで痙攣しているが死んではいないようだ。僕は後ろを振り返り全速力でその場を逃げ出した。


 その後しばらく周辺を捜したがガゼルは見つからなかったため諦めて開拓基地に戻ることにした。







 開拓基地に戻った後、今回の件を報告すべく冒険者ギルドに入るとガゼルいた。ガゼルはドラゴンについて他の冒険者たちに話しているようだ。アーロンも一緒に話を聞いているところを見るとガゼルもついさっき戻ったのだろう。


「何十匹とドラゴンがいてな。偵察だけのつもりだったんだが、つい冒険者としての血が騒いじまって攻撃を仕掛けたんだ。さすがにドラゴンは強くてな……チェイスの奴は最後まで勇敢に戦っていたが恐らくダメだろうな……惜しいやつを亡くしたよ」


「ガゼルさんもドラゴンに攻撃したんですか?」


 後ろからこっそりガゼルに話しかけてみた。


「ああ、チェイスを守ろうと何度か攻撃したがさすがにドラゴンの鱗は固くてな……」


「そうなんですか! ドラゴンに気付かれたガゼルさんが必死に逃げだしたところまでしか見ていませんでしたけど、さすがナンバーワン冒険者のガゼルさんですね!」


「お、チェイスやっぱり無事だったか」

 アーロンや他の冒険者たちは僕に気付いて声をかけてくれた。


 ガゼルは恐る恐るといった感じで後ろを振り向いた。ガゼルの顔が真っ青なのは気のせいだろうか。


「お、おーチェイス! 無事だったか! さ、さすが魔王チェイスだな!」


「ガゼルさんも無事で良かったです。すごい逃げ足だったので途中で転んでケガをしていないか心配していたんですよ」


 他の冒険者たちが冷めた目でガゼルを見ている。さすがに居たたまれなくなってガゼルは冒険者ギルドから逃げ出してしまった。


(さすが逃げ足のガゼル! 逃げることに関しては一流だな!)


「それでどうだったんだ? レッドドラゴンの数は分かったか?」


「ええ、全部で二十七匹ですね。素材の回収を考えると作戦を考えないといけませんね」


「ちなみに素材の回収を考えなかったら作戦を立てる必要はないのか?」


「討伐するだけなら大規模魔法を打って一発ですけど、それだと素材がほとんど残らない気がするんですよね……」


「そうか……少し頭が痛くなってきたから後はチェイスに任せるぞ……」


 そう言ってアーロンも冒険者ギルドを後にした。

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