第77話 悶々とする僕
(昨日はやばかったな……ドラゴンの肉には絶対媚薬的な成分が含まれているぞ……)
(リラがギリギリ理性を保ってくれたからどうにかなったけど、あのままだと絶対間違いが起こったと思うよ……)
(今後ドラゴン肉を食べるときは気を付けないとな。間違って野営中にでも食ってしまったら命がなさそうだ)
アーロンは既に起きて庭で素振りをしているようだ。ドラゴン肉のせいで体力が有り余って仕方ないのであろう。
既に昼に近い時間帯になっており、リラを起こすために部屋のドアをノックした。いくらノックしてもリラの名前を呼んでも出てこないため、ドアを開けて入ることにした。
ドアを開けた瞬間、女性特有の甘い匂いが僕の鼻をくすぐる。視界をベッドに移すと、そこには天使がいた。
一糸纏わぬ姿で僕のベッドに横たわるリラの姿は天使と言っても過言ではないだろう。胸は小ぶりであるが、細く引き締まった腰やおしりのラインはとても素晴らしく……ここまで考えたところで正気に戻ってしまった。
部屋に入ったことでさすがにリラも起きたらしく、今現在目が合ってしまっている。
リラは毛布で肌を隠すと杖を持って詠唱を始めた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! すぐ出て行きますから!」
急いでドアを閉めて外に出た。念のため魔障壁を張ったが魔法は飛んでこなかった。
しばらくした後に真っ赤な顔をしたリラが部屋から出てきた。
「すまない。チェイスの部屋だったな。だけど部屋に入るときはノックくらいして欲しい」
「何度もノックして名前も呼んだのですけど……」
「そうだったのか……すまない……」
二人の間に気まずい空気が流れる。
「とにかく朝食は食堂においてありますから食べてくださいね。もうすぐお昼ですけど、仕事もしないといけないですから」
「食べたら行く。先に始めておいてくれ」
リラが食堂に向かったのを確認して、僕は外に出て仕事を始めた。
冒険者ギルドや宿を立てる場所を決めたり、魔獣の侵入を防ぐための堀を掘ったり外壁を作ったり、切った木の加工をするなどやることは山のようにあるのだ。
「アーロンさん、とりあえず冒険者ギルドと宿を立てる場所を決めましょうよ。それに合わせて堀や外壁を作りますので」
「どうせそのうち壊すんだから適当でいいんじゃないか?」
確かにアーロンの言うとおり、現在の開拓基地は開拓が終わり町の設計が終わった後に全て壊して再建設をすることになるのだが、それは早くとも数年後の話だ。数年の間暮らす場所になるのだからそれなりには考えて作りたい。
「ダメです。僕の計画では南北に走る大きな道を作って、樹海に近い南側から建物を建てようと思っています。今開拓しているところが南端になりますのでそこに堀を掘って外壁を立てて、外壁のすぐ横に道路を挟んで冒険者ギルドと商業ギルドを建てようと思いますがどうでしょう?」
指さしながらだいたいの位置をアーロンに伝えるが全く興味がなさそうだ。
「その計画最高だな! それで行くぞ! 準備は頼んだから何か助けがいるようなら呼んでくれ。俺は体が高ぶって仕方ないから狩りに行ってくる」
冒険者としての実力はあるかもしれないが、ギルド長としては使えそうにない男だ……
(もう勝手にやっていくぞ。あれこれ指示されるより好き勝手できた方が楽だからな。とりあえず堀を作って適当な橋でもかけとくか)
(今開拓した範囲くらいを堀で囲めばいいかな? 幅と深さが三メートルくらいでいい?)
(魔獣の大きさを考えると念のため幅と深さは五メートルくらいにしておこう。アーロンだけ狩りに行ってむかつくから、帰って来るまでに堀で囲んで入れないようにしてやろうぜ)
(それ最高だね! ちょっとは反省させなくちゃね)
魔法で土を掘り起こす作業を延々と繰り返し、三時間ほどで一キロ四方の空間を堀で囲ってしまった。
「やっぱりチェイスは人間じゃない……魔力量が魔王のよう……」
いつの間にかリラも外に出ていたみたいで呆然とした顔でつぶやいている。
「どうですか? これなら簡単に魔獣も侵入できないでしょう!」
「堀の出来はすごいが、このくらいだったら簡単に超えてくる。まだ魔力に余裕があるのなら余った土で壁を作るともっと安心」
(それはいいかもな。正式に城壁を作る時に壊せばいいし簡易的な外壁と思って作るか)
なんとかアーロンが戻って来るまでに土の壁を作り上げることができた。厚さ一メートル近くある石のように固く圧縮した土壁ははちょっとやそっとでは壊れないだろう。
「完璧な出来。チェイスはまだ魔力に余裕がある?」
「さすがにもうそろそろ限界ですね。あ、うっかりしていましたけど、アーロンさんが帰って来ても入れてやることができないですね」
少し反省したら入れてやるつもりであったが、残りの魔力から考えるとちょっと難しいかもしれないから今日は外で一夜を過ごしてもらおう。アーロンさんの実力なら死ぬことはないだろう。実はまだ魔力に余裕があるのは内緒だ。
「ということは、今夜は二人きりか……」
リラが頬を赤らめながらもじもじとしている。まだドラゴン肉の媚薬作用は完全に消えていないのだろうか?
「僕はドラゴン肉さえ食べなければ紳士なので安心してください!」
リラを安心させるために言い放った。
「そ、そうか……私はチェイスさえよければ……いや、なんでもない」
(なんかフラグをぶち壊したような気もするが……)
(多分まだドラゴン肉の効果が残っていて訳が分からなくなっているんだよ。今日は二人きりだから絶対ドラゴン肉は食べられないね!)
(脱童のチャンスだと思うがな……)
オッ・サンの言うことは無視して、もう日も暮れて来たので夕食にすることにした。さすがにリラと二人っきりのなかドラゴン肉を食べるわけにはいかないので、残っていたコカトリスの肉でから揚げを作ることにした。
「昨日のドラゴン肉もおいしかったがこれもおいしい。チェイスは料理上手」
料理の出来にリラも満足してくれたようだ。土壁の外からはわめくような男の声が聞こえるがどうしようもないので聞こえなかったことにしよう。
「リラさんの家はとりあえず土魔法で作っていますんでそこに今日から寝てくださいね。雨さえ降らなければ壊れたりはしないと思いますので」
僕が作った土の家はそれなりの強度があるが、水にぬれると少しずつ溶けてしまうため長期使用には適さない。あくまで建設ギルドが来て家を建ててくれるまでのつなぎの家だ。
夜はやることもないので食事後はすぐに解散し部屋に戻って眠ることにした。
(リラの甘い匂いが部屋にまだ残っている……このベッドの染みって……)
(チェイス、何も考えるな。男として何も見なかったことにしてやろう)
ベッドに残るリラの甘い残り香に悶々としてしまい、その夜はなかなか寝付くことができなかった。
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