第二章 第一部 魔王の片鱗

第75話 魔剣に転生したおっさんと魔法が使える僕

 フレイス共和国にも春が来て雪解けの季節となった。草原には草木が生い茂り、森の木は葉や花を付け始め、森からは魔獣や獣があふれ出てくるようになる。


 昼間は開拓を行いながら畑を耕し、暇があれば狩りに出る。何もないし、誰もいない、僕だけがいるこの場所でのんびりとスローライフを送る。僕が望んでいたのはこのような生活なのかもしれない。


 周りは鬱蒼とした木々が覆っているが、土魔法で作った土壁の家には魔灯や冷蔵庫、クーラーも設置しており、快適すぎる生活を送れている。欲を言えばきちんとした風呂やトイレなども設置できると言うことはないのだが、それは徐々に整えて行けばいいだろう。


(今日の夕食はコカトリスのから揚げにするか。卵も取れれば親子煮にしてもよかったがそれは贅沢かな)


(ジャガイモも一緒に揚げようよ。本当に揚げ物は最高だよね)


 ここに来てから大量の魔獣が取れるため、魔獣の油を集めて揚げ物をしているのだ。油は利用方法が色々とあるため食事用に使うのはかなりの贅沢であるが、から揚げにポテトフライにカツレツにメンチカツにコロッケ、揚げ物の魅力に完全に取りつかれてしまって、揚げ物のない生活にはもう戻れそうにない。


 揚げ物の話はさておき、今僕はエリック樹海で開拓の仕事に従事している。


時は少しさかのぼり、予定通り入学後半年程度の時期には単位を取り終え学園を卒業した僕は、教皇に呼び出されてしまったのだ。






「久しぶりじゃのう。チェイス殿がオルレアンにきてからもう半年以上がすぎるが、いろいろと噂は聞こえておるぞ。魔吸鬼の討伐も見事な功績じゃし、王立学園を半年足らずで卒業する実力も素晴らしい。そういえばお主が開発した冷蔵庫とクーラーも使わせてもらっておるが素晴らしい発明じゃのう」


「ありがとうございます。教皇様にもいろいろと便宜を図っていただいているおかげです。ところで今日はどういった御用でお呼びでしょうか?」


「チェイス殿の洗礼式も終わったことじゃし、保留にしていた褒美を渡そうと思ってのう。今までの実績を考えれば男爵位くらい渡せるがどうするかのう?」


(ついにチェイスも貴族か……このまま出世街道を進んでゆくゆくは侯爵くらいにはなりたいものだな)


(えー、僕は貴族になりたくないんだけどな……もっと気ままに行きたいしこの話はなかったことにしよう!)


(待て、待て、待て! 勿体なさすぎるだろ! 邪魔にはならんから爵位は貰っておくぞ!)


(絶対嫌だ! 爵位なんかもらっちゃったらこの国にしばりつけられちゃうよ!)


「どうかしたかのう? 男爵位じゃ不満か?」


「いいえ、ありがたいお話ですが少し考えさせてもらってもよろしいですか?」


(とにかく! 僕は爵位なんかいらないからね!)


(わがままな奴だ……なら爵位はとりあえず置いといて、エリック樹海の開拓権を貰うのはどうだ? 開拓した土地はもちろんチェイスのものって条件でだ)


(それならいいかもね。でも土地の所有には爵位も付いてくる気がするんだけどな……)


(それは今後考えればいいじゃないか! とりあえずそれで交渉するぞ!)


「もしよろしければなのですが、爵位の代わりにエリック樹海の開拓権を貰うわけにはいきませんか?」

 

 何かオッ・サンに騙されているような気もしたがオッ・サンの言うとおりに交渉してみた。


「エリック樹海の開拓権のう……どうせ今のフレイス共和国の貴族にはエリック樹海を開拓できるだけの者はおらんからのう……文句は出らんと思うし、開拓が進めば共和国も潤うか……よし! いいじゃろう! その条件で議会と交渉してやろう。開拓した土地と物資の領有権をチェイス殿が所有するという条件で良いかのう? もちろん開拓した土地の大きさに応じて毎年税が発生するがそれでも構わんかのう?」


「ええ、その条件でお願いします。ただ、爵位については開拓が一段落するまで待っていただけますか? まだこの国に来て一年たっていない者がいきなり爵位をいただくと周囲のやっかみもすごいと思いますので……できれば開拓成功という実績を作ったあとに爵位を頂きたく思います」


「確かにそうじゃのう……よかろう。チェイス殿がワシの代官となってエリック樹海を開拓するということで進めよう。ある程度開拓が進んだところで改めてエリック樹海周辺を治める貴族として爵位を授けるということとしよう」


「それと教皇様申し訳ありませんが、婚約者のシエルに今のことを相談してきてよろしいでしょうか? 勝手にいろいろと決めちゃうと怒られちゃうもので……」


「既に尻に敷かれているようじゃのう……シエル殿の許可が出てからで構わんよ」





 うちに戻った後に早速シエル、クリス、エリーを集めて開拓の件について相談を行った。


「ということでエリック樹海の開拓をこれからの仕事にしたいと思っているんだ」


「チェイス君のやりたいことなら応援したいけど、それってどのくらいの時間がかかるの?」


「ある程度の規模の開拓が終わって、それなりの町ができるまでは短く見積もっても三年はかかりそうかな……その後はどこまで僕が開拓を進めて行くかは決めてないけど……」


「私は学園の授業もあるし治療師の免許も取らなくちゃいけないから、後一年ちょっとはオルレアンを離れられないんだよね……一年以上も会えなくなるのは寂しいけど……チェイス君のやりたいことのためだもんね! 我慢するよ!」


「僕も応援するよ。チェイスが一から町を作り上げるってことだろ? 僕も卒業したらそっちに行くから手伝わせてくれ!」


「私はどうすればよいでしょうか……できればご主人様に付いて行きたいですが……」


 三者三様の意見であるが、とりあえず僕が開拓の仕事を行うことには皆賛成してくれるようだ。


「迷惑をおかけしますがお願いします。シエルには治療魔法院を開いてもらいたいしシエルが治療師の免許を取るころまでには開拓地に治療院を作りたいな。開拓の他にもいろいろとやりたいことがあるからクリスは早く卒業して手伝ってもらえると助かるよ。エリーは申し訳ないけどこっちに残ってもらっていいかな?」


 シエルとクリスは納得したようだが、エリーだけが下を向いてしょぼくれている。


「エリーはお邪魔ですか?」


「エリック樹海は危険だし、開拓がある程度進むまではこっちでいろいろと勉強して欲しいんだ。エリーを守りながら開拓をする余裕はなさそうだからね。シエルとクリスには悪いけど時間があるときにエリーに剣や魔法を教えてあげて欲しいんだ」


「分かりました。ご主人様のお役にたてるようになるまでしっかりと勉強します……」


 エリーは今にも泣きだしそうな顔ではあるがなんとか納得はしてくれたようだ。


「教皇様から許可を貰ったらすぐに出発するつもりだから、後のことは頼んだよ」







 その後、教皇からの開拓許可はすぐに下りて、春先から開拓を始めて今に至ることになった。


 まだ開拓を始めて一か月程であるが、そろそろオルレアンからの応援が来るはずだ。今回の開拓は僕一人で行うのは無理なため、冒険者組合に支援を依頼したのだ。


 冒険者組合は開拓地に新しい冒険者ギルドを設立することを条件に人材を派遣してくれるとのことだ。まずは開拓地の新ギルド長とその補佐を派遣して、冒険者ギルドの設立準備を行い、準備が出来次第、冒険者が送られてくる手筈となっている。


 その他にも商業ギルドや建設ギルドからの支援も取り付けており、開拓の準備が整い次第、順次技術者や商人が派遣されてくる予定となっている。





 結局、当初予定していたように騎士団に入るわけでも冒険者として活動するわけでもなくなってしまったが、自由にできるこの仕事が一番僕に会っているかもしれない。目指すは美味しい物がたくさん食べられて楽しく生活ができる領土作りだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る