第61話 労働力不足を感じる僕

 毎日午前中と午後にそれぞれ講義を入れ、空いた時間に試験を受ける。僕の学園生活は充実しているどころではなくかなり忙しく過ごしている。おかげで単位取得は順調に進み、入学して一か月程度で試験で採れそうな単位はあらかた取得してしまった。


 あとは講義での単位取得が予定どおり進めば目標どおり半年程度で卒業ができそうだ。


 シエルは治癒魔法院、クリスは魔道具開発が忙しいらしく二年程度での卒業を目指しているらしい。


「チェイス、今大丈夫? 頼まれていた冷蔵庫とクーラーの試作品ができたから見てもらっていいかい?」


(ついにできたか! 早速見せてもらうぞ!)


 僕よりオッ・サンが大はしゃぎだ。


「これが試作品だ。まずは冷蔵庫からだね」


 金属でできた箱の中に冷却機構が組み込まれているようで、ドアを開けると箱の中から冷たい空気があふれてくるのが分かる。


「おお! すごい! ちゃんと冷えてる! 本当にできるか半信半疑だったけど、さすがクリス!」


「ここのスイッチで回路に流れる魔力の量を調整して温度も調整することができるんだ!」


(それはすごいな! ほぼイメージ通りだが魔力の消費量がどのくらいになるのかが気になるな)


「魔力はどれくらい消費するの?」


「一般的な大きさの魔石一個で3日ってとこかな? 常用しようと思ったらだいぶ費用がかかるね」


 魔石一個の価格が大銅貨3枚程度で魔石一個あれば普通の家庭の一カ月分の光熱費が賄えることを考えると少し高いかもしれない。


(チェイス、冷蔵庫の側面を触ってもらっていいか?) 


 オッ・サンに言われたとおり触ってみると少し冷たい。


(やはり断熱が不十分だな。今から言うことをクリスに伝えてくれ)


 オッ・サンの理論では冷蔵庫の壁に熱を通しにくい断熱材を入れることで必要な魔力量を大きく削減できるとのことらしい。オッ・サンの言葉をそのままクリスに伝えた。


「なるほど。そこまで頭が回らなかったよ。断熱材か……それなら魔力を充填させた金属壁を間に入れるのが一番かな。ちょっと改良してみるからもう少し時間を貰っていいかい?」


(おお、魔力を断熱材にするとは思いつかなかったな! 確かに魔力は熱を全くとおさんから断熱材としては完璧だな)


「あとクーラーも見てもらっていいかい? これも冷蔵庫と同じくらい魔力を使うんだが改良するところはあるかな?」


 クリスの試作したクーラーからは冷たい風が流れだしていた。クーラーのおかげなのかこの部屋は真夏だというのにかなり涼しい。


(クーラーは完璧だな。すぐにでも売りに出せそうな性能だ。魔力代が高くつくのは仕方ない。贅沢品として貴族を中心に売りに出すのがいいかもな)


「クーラーは完璧だよ! すぐにでも売りに出せるんじゃないかな? 量産はできそう?」


「できないことはないけど僕はしたくないな。図面はあるから適当な工房で作って貰うのがいいんじゃない?」


「じゃあ、そのあたりはライスに任せようかな。冷蔵庫も改良が終わったら教えてよ」


 商人のライスは味噌の開発のための麹づくりを行っているが結果は思わしくないらしい。百個の樽に煮潰した大豆を詰め込み色々と条件を変え、発酵を促しているが今のところ腐るだけでうまく発酵できた樽はない。オッ・サンの話では一つでも成功すればそこから菌を培養して量産ができるようになるらしいが先は長そうだ。


「ライスさん、調子はどう?」


「なかなか成功しそうな気がしないだよぉ。これ本当に成功することがあるだかぁ? チェイスのやることだから間違いはないと思うだがぁ、ちょっと嫌になってきただぁ」


 失敗が続いてライスもだいぶ弱気になってきているみたいだ。元々商人志望のライスにこの作業を続けさせるのも酷かもしれない。


「いつかは成功するかもしれないんですが、それがいつかは分からないんですよね……今日は他の仕事を持ってきたので気晴らしにそっちをやってみませんか?」


 ライスにクーラーと冷蔵庫の説明をしたところライスの目が輝いてきた。


「絶対そっちの仕事がいいだぁ! 生産と販売ならおらぁに任せてくれ! すぐに生産と販売ができるように手を打つだぁ!」


「じゃあ、味噌の製造実験と並行してお願いしても大丈夫ですか?」


 冷蔵庫とクーラーの販売を軌道に乗せることも大事だが味噌の製造実験も大事なのだ。オッ・サンにとってだが。


「うーん……それは少し厳しいかもしれんだなぁ。おらぁとしてはできればそっちの冷蔵庫とクーラーの販売に力を入れたいところだなぁ」


 まあ、商人のライスとしてはそれが本音だろう。


「分かりました。ではライスさんは冷蔵庫とクーラーの生産販売に力を入れてください。冷蔵庫の改良品はもう少しでクリスが作り上げると思いますので出来次第併せてお願いしますね」


(冷蔵庫とクーラーの方はどうにかなりそうだが味噌づくりは先が見えないな……できれば誰かに研究開発を進めて欲しいところだがな……)


(どっか外の業者に委託してみるとかはどう?)


(できればある程度信用できる人に任せたいところだがな……チェイスやシエル、クリスにやらせるわけにもいかんしな……)


 オッ・サンと二人で悩んでいるとクリスが話しかけてきた。


「なにか悩んでいるみたいだけど、どうしたの」


「食品の製造実験をしたいんだけど人手がなくてどうすればいいかなって悩んでて……外に情報が漏れないように実験をしたいんだけど何か良い方法ある?」


「それなら奴隷を買うのが一番いいんじゃない? 優秀な奴隷は少し高くつくけど、何より信用できると思うよ」


「奴隷か……オルレアンでも売っているの?」


「普通に売っているよ。なんなら一緒に見に行ってみる?」


「そんなに普通に買えるものなの!? あんまりイメージ良くないけど見るだけ見てみようかな」


「お金さえ払えば誰でも買えるよ。確かにイメージは良くないけど、きちんと扱えば法にも触れないし大丈夫だよ」


 奴隷の売買や所有はユールシア連邦でもエイジア王国でも合法のようだ。ただ、暴力や過剰な搾取などは違法で一般人と同じように扱わなければならず、奴隷の所有はあまり外聞がよくないため表立って奴隷を所有する者はかなり少ないとのことだ。


(奴隷か……まあ見るだけ見てみるか。正直、奴隷はあまり良い印象がないんだがな……どうせ買うならお約束の美人のエルフの奴隷がいいな)


 オッ・サンの意向は無視してクリスと一緒に奴隷を買いに行くことになった。

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