第43話 初めてときめいた僕

 女の子の声を聴くと同時に、魔石から黒い手が生え、僕の体に向かって手を伸ばすのが目に入った。


 咄嗟に運動エネルギーを自身の体に当て、後方に自分の体を吹き飛ばした。デモンの手に掴まれることは阻止できたが、数メートル後ろに飛ばされ、運動エネルギーを与えた胸に鈍い痛みが走った。動くことはもちろん息をするのも苦しい。


(チェイス……かなり痛いぞ……肋骨が折れているんじゃないのか……)


 痛みで動くのもつらい状況であるにもかかわらず、デモンがどんどん再生していくのが目に入る。


(走って逃げるのは難しそうだね……どれだけ再生できるか分からないけど攻撃し続けるしかないかな?)


(全身を再生するためには膨大な魔力を使うはずだ。奴も無限には再生などできない。魔力が続く限り攻撃するぞ! さっきのインフェルノならあと何発程度いけそうだ?)


(十発くらいはいけると思うけど……)


(充分すぎる! 再生できなくなるまで打ち続けるぞ!)



 先ほどと同じようにデモンの周辺を魔障壁で囲み、魔障壁内に熱を発生させようとしたが、魔障壁がデモンの魔法によって破られた。



(くそ! やられた! デモンは相当頭もいいぞ。並大抵の魔法で破られないように魔障壁を厚くするしかないな! できるか!?)


(相当魔力は使うけど問題ないよ。どっちみちやるしかないしね!)


 デモンの攻撃にも耐えられるように魔障壁に魔力を充填させデモンを囲み、魔障壁を即座に熱エネルギーを魔障壁内に発生させた。デモンの魔法で何発かは魔障壁に攻撃をされたようだが、たっぷりと魔力を注いだ魔障壁はびくともしない。


 再び火魔法のインフェルノを使う。抵抗するすべのないデモンは魔障壁内で再び燃え尽き魔石のみになってしまった。


(魔石内の魔力の減り具合から見て、後一回消滅させれば倒せそうだぞ! 次は再生した瞬間に燃やし尽くせ!)



 再び魔石から再生したところを狙いインフェルノを使う。デモンは今までにない断末魔のような叫びをあげ燃え尽きていった。



(さっきの再生で魔力が尽きたようだな。完全再生を二回もできるとはな……これは剣士では歯が立たんはずだ)


 今度こそ空になった魔石を拾い上げて眺めているとロックがやってきて、乱暴に頭を撫でまわした。


「一人でデモンをやっちまうなんて大したやつだ! それなりに魔法が使えるとは思っていたが、あれほどのレベルとは予想外だったぞ!」


「かなり危なかったですけどね。あ、魔法が使えることは秘密ですよ?」


 人前で魔法を使うつもりはなかったが、命には代えられないし、ばれてしまったものは仕方がない。もうすぐユールシア連邦に入るのでさほどの問題はない……と信じたい。


「それよりロックさんが助けた二人は大丈夫なのですか? 男性の方は頭から血を流していたみたいですけど」


「ああ、女の子が治療魔法師みたいで、今治療をしているようだ。傷は大したことなかったし問題はないだろう」


 転倒した馬車の近くで女の子が男性の頭に手を当てて治療をしているようだ。しばらくたって治療が終わったのか二人が立ち上がってこちらに向かってきた。


「危ないところを助けていただきましてありがとうございました。デモンが出た時は助かるのは無理だと諦めていましたが……私はイリス教司教のメルビルと申します。こちらは娘のシエルです。ほらシエルもお礼を言いなさい」


「治療師見習いのシエルです。助けていただきましてありがとうございました」


 メルビルは三十才程の年齢でいかにも真面目そうな顔をしている。綺麗に整えられた黒髪を真ん中で二つに分けた髪形と司祭服のおかげでより真面目そうに見えるのかもしれない。


 シエルは肩まである綺麗な金髪に目鼻がくっきりしており、幼いながらも既に美貌と色気を備えているように思える。


 言われなければこの二人が親子だとはだれも思わないだろう。それくらいこの二人は似ていない。


「僕は冒険者のチェイスです。こっちが同じく冒険者のロックさんとあっちにいるのが商人のライスさんです」


「本当になんとお礼を言っていいか……助けていただいたうえに大変申し訳ありませんがお願いがありまして……私どもの馬車も護衛もやられてしまったのでユールシア連邦側の麓の町まで送って行っていただけないでしょうか? もちろん到着しましたら目一杯お礼はさせていただきます」


「そのくらいなら構わんぞ! どうせ俺たちも麓の町には立ち寄る予定だしな! 幸い魔獣が全く出なかったことで馬車には余裕が沢山あるしな! とりあえずあっちの馬車から必要な物を運んで今日はここで野営するぞ!」


「もしまだ魔力が残っていたら僕の治療をしてもらえると助かるのですが……あばらが折れているようで立っていられないぐらい痛いです……」


 シエルが胸に手を当て笑いながら治療をしてくれた。シエルから香る甘い匂いに思わずときめいてしまった。

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