第44話 初めて恋をしたかもしれない僕

 シエルが僕の治療をしている間にロックとライスが亡くなった三人の護衛の遺体を土に埋め、二人の馬車から貴重品や食料などを運びだしライスの馬車に詰め替えた。


 既にあたりが真っ暗になっていたので火を起こした。通常は魔獣を呼び寄せてしまう可能性があるため日が落ちてから火を起こすことはほとんどないが、起きている間であればオッ・サンが周りを警戒していてくれるので問題はない。万が一魔獣が集まってきても僕とロックがいれば問題なく肉にできてしまうので多少魔獣が集まってもらった方がありがたいかもしれない。


 メルビルとシエルは夕食がまだであり、食料には余裕があるとのことなので僕たちにも夕食をふるまってもらうことになった。パンは黒パンだったが、スープにお肉もあるようだ。シエルは僕の治療が終わってから食べると食事には手をつけなかった。


「助かったぞ! 黒パンだけの食事が後数日続くなんて耐えられなかったからな! 久しぶりの肉だな!」


「魔獣どころか普通の動物も出ませんでしたからね。今思えばデモンがいたから逃げていたのでしょうね」


(でもあれだけ魔獣を探していたのにオッ・サンのレーダーに引っかからなかったってのも不思議だよね)


(恐らくだがデモンは魔石以外は体の形や大きさを自由に変えられるんじゃないか? それか霧状になれるとかな。あれだけの再生能力があるんだからそのくらいできても不思議じゃないだろ? 俺の探査魔法もある程度の大きさがないと発見するのは難しいからな)


(あれだけ強いのに近づいてくるのが分からないってなると対策の立てようがないよね。ルタにデモンを操られたら手の打ちようがないんじゃないの?)


(ルタがデモンを操ることができるかどうかは分からんが、できるとしたら厄介だな。対策はおいおい考えるか)


「チェイス様はおいくつになるんですか? 見たところうちのシエルとあまり変わらないぐらいに見えますが……」


 オッ・サンと会話をしているところにメルビルが話しかけてきた。


「今年十二才になります。シエルさんはおいくつになるのですか?」


「私も今年十二才になります」


「シエルと同い年ですか! それはそれは……」


 メルビルがニヤッと笑ったような気がした。


「ところで皆さんはユールシア連邦に着いた後はどうされるのですか? またエイジア王国に戻られるのですか?」


 話題を変えるようにメルビルが質問をしてきた。


「当面の間はユールシアで依頼を受けながら生活しようと思います。できるだけ大きな町で冒険者の依頼が受けられるところに行こうと思うのですが、どこかいい町はありますか?」


「それでしたらフレイス共和国の首都オルレアンをお勧めしますよ! オルレアンの近くにはエルフやホビットの自治区もありますし、西側には広大な草原や森が広がっていてランクの高い魔獣もごろごろいますし、冒険者として活動するならもってこいですよ」


 メルビルが丁寧に説明をしてくれる。


「活動しやすそうな場所ですね。ところでユールシア連邦の中に国があるんですか?」


 よほど変なことを言ったのか、なぜか皆苦笑いをしたように感じた。


「今からユールシアに行こうとしているのにそんなことも知らんのか! ライス! ちょっと説明してやれ!」


 ロックに頼まれたライスがため息をつきながら説明を始めた。ちょっと腹立たしい。


「いいかぁ、ユールシア連邦はフレイス、デルタ、エターリア、ストーリアの四つの共和国で構成されている国だぁ。もともとはそれぞれ独立した国だったんだがぁ、エイジア王国とソビールト帝国の二大国に対抗するためにそれぞれの国が集まってできたのがユールシア連邦だぁ。ちなみにフレイス共和国内にエルフとホビットの自治区があるだぁ」


「沢山の国が集まってできた国ってことですか? じゃあユールシア連邦の王様はどこの国の王様がしてるんですか?」


「ユールシア連邦は君主制でなくてだなぁ、つまり王様がいる国じゃないんだよぉ。それぞれの国の代表が集まって連邦の政治方針を決めているんだぁ。ちなみにエルフとホビットは自治区だから政治には関わってないけどなぁ」


「王様がいない国って想像ができませんね……貴族もいないのですか?」


「細かいところはおらぁも知らんがぁ……」


「貴族制を維持しているのはフレイスとデルタの二か国です。四か国とも連邦設立時に共和国としたので王政は無くなったのですが、フレイスとデルタは貴族制を維持して貴族の中から国の代表が選ばれることになっています」


 ライスが分からない細かい部分の説明をメルビルが代わりにしてくれた。


「難しい話ですね。よくわかりませんが活動がしやすそうなのでメルビルさんの勧めどおりフレイス共和国のオルレアンに行ってみることにします。フレイス共和国では冒険者証はそのまま使えるんですか?」


「身分証としては機能するが依頼は受けられんぞ! 依頼を受けるためには向こうで冒険者登録をする必要がある! 冒険者ランクは引き継ぐこともできるから安心しろ!」


「フレイス共和国で冒険者登録すればユールシア連邦全土で使えますので安心してください。私たちの家もオルレアンにあるのでいろいろご案内できますよ。オルレアンに戻った後はシエルも時間がありますので案内させましょう」


「シエルさんはオルレアンでは学校に通っているんですか?」


「いいえ、学校は十二才からですので、今は治療院で治療師のお手伝いをしています。お手伝いは午前中だけなので昼からは時間がありますし是非案内させてくださいね」


 シエルは今も僕の胸に手を当て治療を続けてくれている。しかし、笑顔で話しかけてくるシエルがとてもかわいく見えるし、とてもいい匂いがしてさっきからドキドキしてたまらない。


(……惚れたな。チェイスにもついに春が来たか)


(かわいいとは思うけどそんなじゃないよ!)


(そんなに恥ずかしがらなくても誰もが経験することだから気にするな。しかし初恋とは甘酸っぱいものだ)


 ちゃかしてくるオッ・サンは無視だ。


「ユールシアに着いたらいろいろと買いたいものもあるので是非案内をお願いします」


 シエルは嬉しそうに微笑んでくれた。笑ったときにできたえくぼがとてもかわいく見えた。

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