第39話 ロックの強さに驚く僕

 ワイバーンはドラゴンかどうかとの議論が学者の間で長い間議論されている。今の主流はワイバーンはドラゴンではなく、トカゲ型魔獣の上位種が繁殖したものではないかというものらしい。


 現在の学説によると、ドラゴンとトカゲ型魔獣の違いは魔力を自らの意思で操れるかどうかだ。ドラゴンは鱗に魔力を流すことで強化することができるし、ブレスも魔法によるもので、空を飛ぶのにも魔法による補助を使っていると言われている。


 対してワイバーンは魔力による鱗の強化はできず、ブレスも吐けず、翼の力のみで空を飛んでいる。他の魔獣同様に無意識で身体強化の魔法は使っているかもしれないが、意識的に使えなければ魔力を自らの意思で操れているとは言えない。


 魔力を操れないワイバーンはドラゴンに比べて防御力は格段に落ち、ブレスが使えない分攻撃力も落ちる。ワイバーンが厄介なところは飛行できるところと常に群れを作っているところだけだ。


 冒険者には特に優秀な魔法使いは少ないためワイバーンを倒そうと思えば、弓矢が攻撃の主体となる。しかしいくらワイバーンの防御力が低いと言ってもそこらの弓矢程度でダメージを与えるのは難しい。


 至近距離であれば弓矢でもそれなりのダメージは与えられるだろうが、ワイバーンは空を飛んでいる。攻撃してくるワイバーンにカウンターで矢を当てるくらいの技量があれば問題ないだろうが、空を飛ぶワイバーンに普通の弓矢で攻撃しても距離があるせいでほとんどダメージは入らない。


 それなりに強く、空を飛び、常に集団でいることからワイバーンはCランクに設定されているのだろう。


 以上が、以前見た魔獣図鑑の知識を基にオッ・サンと考察したワイバーンについてだ。結論としては一体ずつ個別撃破して行けば大した問題はないということだ。




(今日中には終わらせて明日にはこの町を出たいな。ワイバーン狩りの報酬がそれなりに手に入れば馬を買って先を急ぎたいが……それにしてもあいつら遅いな。もう五時の鐘はなったぞ!)


(約束の時間になってから宿を出るのが普通だと思うよ。オッ・サンは出るの早すぎるんだよ)


(下手したら何時間も待つことになるし、なんかその習慣納得いかないんだよな)


 個人で時計を保有しているのは一部の富裕層だけであり、多くの者は鐘の音で時間を知ることしかできないので仕方ないと思う。たいていの町では一時間ごとに鐘がなるためその鐘の音と回数で時間を知るのだ。


そんな話をしているうちにロックとライスの二人がやってきた。


「よう、早いな! おっ弓矢を持っているのか! 後衛はライスとチェイスに任せるから頼んだぞ! 空から落としたら俺に任せておけ!」


「ええ、弓には自身があるので任せておいてください」


「よし! じゃあ出発だ。ワイバーンがいる場所までは二時間程度だ! さっさと狩って、今日は飲むぞ!」


 ロックは朝からうるさいくらいに喋ってくるが、ライスはお辞儀をするだけであった。体も細いし大丈夫だろうかと心配になってくる。ワイバーンの生息地に向かう途中もロックがずっとしゃべっているがライスは黙ったままだ。


「そういえばロックさんは冒険者になってから長いんですか?」


「もう十年以上になるな! これでもD級冒険者だぞ! ちょっとは尊敬しろよ!」


 一般的にはD級冒険者は一流と認められるランクであり、田舎の冒険者ギルドでならトップレベルと言っても過言ではない。


「すごいですね! ライスさんとはパーティを組んでから長いんですか?」


「組むのは今回が初めてだ! お前と会う前に依頼書の前でチョロチョロしていたから声をかけたんだ! まだG級だが俺がみっちり鍛えてやるつもりだ!」


(D級とG級の二人でワイバーン狩りは無謀な気もするけど大丈夫かな? )


(まあ、ランクと強さが直結するわけではないからな……ライスはどう見てもダメそうだがロックはそれなりにやるのかもしれんぞ)


(そうならいいけど……)


「なんでロックさんはワイバーンを狩ろうと思ったのですか? その……斧が武器じゃワイバーン相手は分が悪くないですか?」


「この町ではワイバーン狩りが、一番割が良さそうだったからな! 田舎はそろそろ飽きたし王都に戻ろうと思ったんだが路銀が無くなってな! なーに、俺の斧でワイバーンくらい軽く切り裂いてやるよ」


 どうやらロックは見た目だけじゃなく頭まで筋肉でできているようだ。悪い人じゃないのだろうが多分何も考えていない……


 その後もロックがずっとしゃべり続けること二時間、ようやく目的地に到着した。


「まだ相当距離があるのにここからも飛んでいるのが見えるな! 矢が当たる距離まで近づいたら二人で一斉射撃だ! 落ちてきたところを俺が止めを刺す!」


(なんて雑な作戦だ……しかしこれだけ障害物が少ないとワイバーンもこちらのことは気づいているだろうから奇襲は難しそうだな。どの程度の距離まで近づけば矢は当てられそうか分かるか? )


(どこに当ててもいいならある程度の距離でも当てられると思うよ。一撃で仕留めるなら百メートルぐらいまでは近づきたいかな)


(飛んでいるワイバーンだけで八匹はいるからな……倍以上の数が近くにいることを想定した方がいいぞ。この状況ではロックの作戦で行くしかないが、できるだけ弓矢で戦って危険な状況になったら魔法を使っていくぞ)


「よし! じゃあ進むぞ! 真下まで行けば矢も届くだろう?」


「届くと思いますけど、その前に襲われると思いますけど……」


「大丈夫だ! 襲ってきたやつは俺が叩き切ってやる! 安心して矢を放っていいぞ!」


 どこまで信用していいか分からないが、自分の身くらいならなんとか守れるので僕には何も問題はないだろう。最悪の場合はロックとライスの二人がやられることになるが……


 遠慮なしにワイバーンに向かって進んでいくと、ワイバーンの一匹が僕たちをめがけて滑空してきた。思ったとおり人間を餌認定しているようだ。


 矢を放とうと構えたが、ロックが僕たちの前に立ち視界を遮った。


「俺に任せろ!」


 ロックはそう言うとこちらに向かって風を切るような速度で飛び込んでくるワイバーンに対し、目にも止まらぬ速度でロックが斧を振りおろした。


 足から突っ込んできたワイバーンとロックの斧が激突しすさまじい音が辺りに鳴り響く。ワイバーンは一撃で下半身を吹き飛ばされ絶命してしまったようだ。ロックは血まみれになりながらも豪快に笑っている。


「どうだ! これで一匹だ! どんどん行くぞ!」


(おい、予想以上に強いじゃないか! 身体強化も完璧に使えるようだし攻撃力は半端ないぞ!)


(ちょっと予想外だったけど……でもこれなら問題なく狩れそうだね)


「多分ロックさんを警戒してもう降りてこないと思いますよ……僕が弓矢で攻撃しますのでロックさんは落ちてきたのを仕留めてください。できるだけ素材をのこしたいので丁寧にお願いしますよ」


 弓を構え、空中を旋回するワイバーンめがけて魔法で矢を放つ。矢は風を切るような速度でワイバーンの頭に当たったようで、宙を舞うように落下してくる。


「やるじゃねえか! ライスもチェイスを見習ってワイバーンを落とせ!」


 ライスも弓を構えて矢を放つが、ワイバーンが飛ぶ高さの半分までも届いていないようだ。なんとかワイバーンがいる高さまで矢を届かせようと頑張ってはいるがライスの腕力的にも弓の能力的にもどう頑張っても届くことはないだろう。


 奮闘しているライスを横目に僕は次々とワイバーンを落としていく。七匹目を落としたところで空を飛ぶワイバーンはいなくなった。


「全部チェイスに持っていかれちまったが大漁だな! 全部運ぶのは骨が折れそうだ!」


「町から商隊を呼んできましょうか。この場で売買するとの条件であれば来てくれるんじゃないですかね?」


「それはいい考えだな! ライスひとっ走り行ってこい! 俺とチェイスはもう少しここで狩りをしておくから頼んだぞ!」


 ロックの命令にライスは顔を真っ青にして不安そうな顔をしている。


「ライスさんだけだと不安でしょうしロックさんも付いて行ってもらってもいいですか? もし途中で魔獣に襲われるといつまでも商隊が到着しないことになりますので念のため……」


「それもそうだな! よしライス行くぞ! これだけ稼いだら今日の宴は豪勢にいけるぞ!」

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