第38話 弓矢を試す僕
(今日出発でも良かったけど狩りは明日か……時間ができちゃったし町をぶらぶらしてみる?)
(ちょっと武器屋に寄るぞ。いろいろと買いたいものがある。こないだのルタとの戦いで魔法だけの戦いに限界を感じたからな)
(じゃあ武器屋から行ってみようか。どうせならかっこいい武器がいいな)
武器屋は町の中心部に近いところにあったがやはりあまり繁盛していないらしく、一通りの武器や防具はあるものの置いてある品数も少なく感じる。
(冒険者が少ないと武器屋も儲からないよね……ところで何を買うの? 剣はあるから槍とか?)
(弓矢を買おうと思っている。試射ができるか聞いてみてみくれ)
(弓矢なんて僕使ったことないけど大丈夫? 試しに射ってみてもいいけど……)
「すみません、弓の試射はできますか?」
「坊主が使うのか? 別にかまわんが子ども用の弓はこれしかないぞ」
武器屋の店主が出してくれたのは子ども用の小さな弓だった。鳥は狩れても魔獣はとても狩れそうにない頼りない弓だ。
(この弓でいいの? 全然役に立たなさそうだけど)
(それでいいぞ。値段は大銅貨五枚か、悪くないな。初めて打つことを伝えて少し教えてもらえ)
「実は弓を使うのは初めてなんですが少し教えてもらってもいいですか? 矢の代金は払いますので」
「暇だし構わんぞ。裏庭で少し射ってみるか」
矢二十本の代金として大銅貨六枚を渡して裏庭に回った。
「的はないからあそこの木に向かって適当に射ってみろ」
適当に矢をつがえて弓の弦を弾いてみるが、想像していた以上に難しく思うように弦が弾けない。
力任せに弦を引っ張り、弦から手を放すが、矢は一メートル程前に飛びぽとりと落ちてしまった。
「まあ初めてならそんなもんだ。基本は教えてやるから後は自分で練習しろ」
武器屋の店主が一時間程かけ弓の使い方を教えてくれたおかげで少しはまともに矢を飛ばせるようになったが、今のレベルではウサギ一匹仕留められそうにない。
(まあ、少しは形になったな。矢はさっき買ったのをまだ使えそうだし、追加で矢尻を二十個買ってくれ。試したいことがあるから人がいないところに行くぞ)
武器屋の店主にお礼を言い、弓と矢尻二十個の代金を払い店を出て、町の外の森に向かった。
(魔獣は近くに居なさそうだし練習に良さそうな場所だな。早速始めるか。さっき教えてもらったとおりに弓を引いてみてくれ。ただし、今回矢は魔法を使って放つぞ。いつものように矢に運動エネルギーを与えるだけだから難しくはないと思う。)
オッ・サンの言うとおり弓を構え、真っ直ぐ矢が飛ぶように矢に運動エネルギーを与える。矢が放たれる衝撃で右手で持った弦は自然に手から離れ、あたかも弓で矢を放ったような形になった。
矢はすさまじい速度で的にしていた木に真っ直ぐ向い、木を貫通し、後ろの木に深く突き刺さりやっと止まった。
(狙い通りだな。威力も狙いも問題ないし、これなら魔法を使っているとはだれも思わんだろう。威力は魔法に比べたら落ちるが、ある程度の魔獣なら問題なく倒せそうだ)
(弓矢のプロみたいでちょっとかっこいいかも。普段使っている魔法と違って矢がビシュッと飛んでいくのが気持ちいいね)
(明日の討伐では魔法は使わず弓矢を使うぞ。魔法の天才少年がいるなんて噂がたつと厄介だからな。あともう一つ実験だ。まずは普通に土魔法の岩弾を使ってみてくれ)
オッ・サンに言われた通り、最初に岩弾を飛ばした。やはり、弓矢を使うより直接魔法を使った方が威力が高いようだ。
(次は土を固めて飛ばすのではなく、矢尻を飛ばしてみてくれ)
先ほどと同じように矢尻に魔力を与えて放つ。
(若干矢尻の威力が高いかな? これがオッ・サンのやりたかったこと? )
(ああ、普通の土魔法より矢尻の方が堅い分、若干だが威力が高いみたいだな。だが見たかったのは魔法の発動速度だ。やはり矢尻を使った方が発動速度は上だな)
(全く意識してなかったから分からなかったけど……一秒も変わらないよね? )
(恐らくゼロコンマ何秒か程度しか変わらないだろうが実践では大きな差になるぞ)
(確かに……ルタ戦でももうちょっと威力とスピードがあればなと思ったもん。でもなんで発動が早くなるんだろう? )
(土魔法はまず弾となる岩を作り出さないといけないから、その作業がない分早くなるんだ。今回は矢尻を使ったが弾を工夫すればまだまだ威力も速度も上がるはずだ。落ち着いたらそれも実験してみるぞ。少しでもレベルを上げんとルタには太刀打ちできんからな)
(ルタを倒さないとイースフィルには戻れそうにないから早く倒したいけど、今のレベルじゃ厳しいよね……)
(ルタはユグド教の枢機卿だからルタと戦うということは最悪の場合、教国や教国の騎士団と戦う可能性もあるということだからな。チェイスのレベルアップだけじゃなく一緒に戦える戦力も集める必要があるし、先は長いと思うぞ)
(先が長すぎてちょっとへこんじゃったよ……モーリスとリリーに生きているってことを早く伝えたいけどかなり先になりそうだね……二人が元気なうちに会いに行けるといいけど……)
(頑張ればどうにかなるさ。暗くなってきたし宿を取りに行くぞ。たまにはうまいもんでも食わんと滅入ってしまうからな)
その日は疲れをいやすため、一泊銀貨一枚のお高い宿に宿泊し、翌日のワイバーン狩りに備えた。
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