第15話 領地開拓を行う僕

 現在開拓しているのは領土の西側の森だ。イースフィル領で利用可能な土地は全体の二割程で、領土のほとんどは森か山におおわれている。


 人口五百人程の小さな村なので現在の耕作地でも領民が食べるだけの作物は育てられていたが、ここ最近人口は増加傾向にあり早急な未耕作地の開拓が必要となっている。


「知っているとは思うが息子のアルヴィンとその師匠ルアンナ様だ。今日から開拓を手伝ってもらうことになった。アル、挨拶を」


「アルヴィン・イースフィルです。ご迷惑をおかけすると思いますが、父ともどもよろしくお願いします」


「ルアンナ・ドラゴニアだ。しかし思った以上に開拓の人数が少ないな。冬季ならもうちょっと人がいてもよさそうなものだが」


 開拓に従事する領民は五人だけだ。これが少ないのか多いのかはよくわからない。


「他の者は布を織ったり工芸品を作ったりで忙しいので開拓に参加できるのはこれだけです。この人数ですので開拓には時間がかかって仕方ありませんよ」


 開拓に従事する領民たちとは軽いあいさつを交わすことはあったが、きちんとした形で会うのはこれが初めてで、僕が魔法を使えることを領民たちは知らなかったようだ。


 挨拶が終わると皆すぐに開拓の作業に入った。木を伐り、運びだし、木の根や大きな石を取り除く。それを全て手作業でしているのだ。大きな木や石を取り除くためには下手をしたら何日もかかるらしい。開拓がなかなか進まないわけだ。


(聞いてはいたが、開拓ってのは大変な作業だな。貴族は楽な仕事だと思っていたが、領地運営ってのも案外大変なんだな)


(上級貴族は開拓なんてしないと思うけどね……下級貴族にとって開拓は切っても切り離せないものだし仕方ないよ。隣の領主は開拓を急ぎすぎたから、領民から謀反を起こされて、領地を没収されたらしいしバランスも大事なんだろうね)


「さあ、私たちも始めるぞ。まずは木を切り倒すぞ。木は木材として利用できるから火魔法は使わないない方が無難だが、どんな方法があると思う?」


 ルアンナが僕に問いかける。


 火魔法で燃やし尽くすのが速い気がするが、切り倒すとなると考え物だ。


(畑にするんなら焼いて肥料にした方がよさそうだけど、木も売れば金になるからな……風魔法で切り倒すのは難しそうだし……なかなか思いつかんもんだな)


「土魔法で細い岩を作ってぶつけるのはどうですか?」


「それで切れんことはなさそうだが、木の商品価値が下がりそうだな。お手本にちょっとやってみるから見ていろ」


 ルアンナは木の根元に手をかざし何か魔法を使うとすぐに立ち上がった。


 ルアンナが手で木を少し押すと木は簡単に倒れてしまった。


 木の切口は鋭利な刃物で切断されたように綺麗である。


「以上だ。わかったか?」


「いや、全然わかりませんでしたけど……風魔法を木に密着させて使ったんですか?」


「似たようなものではあるがちょっと違うかな。土魔法で岩を飛ばすときは面にまんべんなく運動エネルギーを与えるだろ? 点で運動エネルギーを与えても岩を貫通するかもしれないし、方向を定めるのが難しくなるからな。今回は面ではなく線上に運動エネルギーを与えたんだ。木は線に沿って力を与えられたからまるで鋭利な刃物で切られたような切口になっているだろう? 原理は以上だ、とりあえずやってみろ」


 細い線をイメージしてそれに運動エネルギーを与えればいいのかな? ルアンナと同じように木の根元に手を当てて細い線に運動エネルギーを与えた瞬間、木がこちらに向かって倒れこんできた。横に倒れこんで避けたが危うく下敷きになるところだった。


「言い忘れていたがうまく切らんと倒れて危ないからな」


「言うのが遅すぎますよ!」


(しかしこの威力はすごいな。無詠唱が使えないと発動できないとはいえ、この攻撃力は反則じゃないか? 『魔刃』と名付けよう)

(勝手に名前つけていいの? いつもに比べたらカッコいい名前だけど)


(アルもやっと俺の高尚なセンスに追い付いてきたようだな。)


 名付けのセンスの問題は置いといて、確かにこの魔法が使えれば剣士など鎧ごと切り裂けそうだ。


「この魔法があれば剣士にも余裕で勝てそうなんですが……」


「そうだな、力や反射神経が何倍にも強化された剣士の身体に手を当てて魔法を発動できるならまず負けないだろうな」


 運動エネルギーを物体に与える場合、距離が離れれば離れる程拡散してしまうため、この方法で敵を切り裂くためには相手と密着する必要があることに気が付いた。

 

 遠くから相手を吹き飛ばすことはできても切り裂くことは難しいだろう。


(言われてみれば実戦で相手の体に手を触れて魔法を使う暇はないな。魔法発動までそこまで時間はかからないとはいえ、発動までの間に間違いなく切られるだけか……)


「とにかく実戦で使えるものではないが、木を切るにはこれ以上ないくらいに使える。私が北側をやるからアル君が南側をやってくれ。さっさと終わらせるぞ」


 開拓はルアンナも手伝ってくれるらしい。魔法を使いどんどんと木を切り、森を切り開いていく。それなりの土地を開拓できたと思うが、まだ切り株をどうにかしなければならないし、開拓は思っていた以上に時間がかかる。


「だいぶ木は無くなってきたな。あとは土の中に運動エネルギーを与えて土を掘り起こすぞ。ついでに切り株や根っこも掘り起こせるから好都合だろ? ある程度掘り起こしとけばあとは領民が耕すから大体でいいぞ。深さは1m程度でいいからまんべんなく掘り起こせよ」


 ルアンナの指示通り地中一メートル程度のところに運動エネルギーを与え爆発させるように土を掘り起こすとボーンという低い音が鳴り響く。連続で土を掘り起こすと音が何重にも鳴り響いて小気味いい。


(気を切ったり、掘り起こすだけでいいならもっと効率よく行けると思うが、切った木を運ぶのが面倒くさいな。あと領民たちの視線が痛いな……)


 僕とルアンナがすさまじい速度で開拓していく様子を領民たちは呆然としながら見つめている。


 そしてなぜかモーリスもだ。領民たちがびっくりするのは分かるが、モーリスはいつも僕の魔法を見ているだろうに……


 午前中いっぱいルアンナと木を切り続け、屋敷の敷地何個分もの土地を切り開くことができた。


「アル、そろそろ魔力も無くなるだろうから昼からは休んでもいいぞ」


 初日だからか、モーリスは気をつかっているのだろうか。


「いえ、まだ魔力には余裕がありますし、私だけ休むわけにもいきませんので」


 領民たちが働いているのに自分だけ休むなど貴族の息子としては許されない行為だと思うが……


「気持ちは分かるが……アルの午前中の働きだけで私たち全員の何十日分以上の成果が出ているからな……しかも今日はルアンナ様にも手伝ってもらっているから更にその倍以上の成果だ……」


(アル一人で何百人分もの労力になっているということか……魔法の力はすさまじいな。モーリスも今後の計画を再度考え直さないといけないだろうし、モーリスの言うことも分かってやれ)


 僕としてはどんどん開拓を進めて行きたい気持ちもあるが……ここはモーリスとオッ・サンの言うことに従うことにしよう。

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