第4章『駐留』

第1話 潜伏

「おい、あに


 ……俺は敢えて聞こえないフリをした。


「兄! 貴様、返答せんか!」


 あ〜! 聞こえない聞こえない!


 ……ユイは、作戦継続中の為、いまだに俺のアパートに駐留しているのだが、軍人口調しか使った事が無いので、大仰おおぎょうで不自然極まりない言葉遣いをする。


『このまま、この世界に潜伏するなら、もうそろそろ自然な口調で話して欲しい』……と頼んだが、一向いっこうなおす気配が無い。



 ここは、俺のアパート。 先日の一件で、憧れの『鷹音ようおん』さんと同じ小学校の出身になれたのだが、はてさて、そこからどう進めたら良いか見当がつかない。


 いくら出身校が同じになったとは言え、それはそれ、恋愛どうこうに移行するまでには、まだまだ遠く遥かな道程みちのりが続く……。



『バッチ〜ン!』


 ……軽快な破裂音と共に、痛みが俺の背中を襲った。


いててて! 何だよ!」


「さっきから呼んでおろう! 聴知したなら応答せい!」


『聴知』? 『応答』? ……今日日きょうびの娘っ子がそんな言葉遣いをするか? っての!

 

「血中のグルコース濃度が低下した! 食料調達に行くぞ」


 俺はもう少し聴こえないふりをしようと思ったが、ユイの平手打ちが怖いので諦めた。


 御意ロジャー、行くよ……。

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