第13話 強者《つわもの》

「何が起きた?」俺はユイに尋ねた。


 ユイは小声で「貴様、軍議を聴いてなかったのか?」とつぶやいた。


 ……はい、すんません。


 こいつらの信じられない早業はやわざに理解が追いつかない細河ほそがわの皆さんも『どうか、ご教示を!』……と、説明を求めている。


 ユイは面倒そうに「情報参謀、説明せい。」と言って、本陣の仕出しおにぎりをパクついた。梅干しを、種ごとかじって食べている。……さっき『歯ぎしり』と思ったのは、この音かぁ。


「はっ」情報参謀は一歩前に進み、説明を始めた。


「我が軍の参謀本部は、本作戦の中核となる貴軍との軍事協定締結にあたり~、え~っ……」……これは長くなりそうだ。


 ……以下は、情報参謀の説明を要約したものだ。


 まず衛鬼兵団えいきへいだん参謀本部は、記録に残された細河ほそがわ様のデータと戦国武者およそ千人分のデータをパターン解析し、その結果から、99.9%以上の確率で、細河ほそがわ様が俺たちを裏切ると予測した。


 ……と言うより、もし俺たちを裏切らずに俺達の兵力を当てにして戦いを始めるようなら、国を治める資格無し……と、滅ぼしてしまうつもりだったようだ。


 そして、細河ほそがわ様が計画通りに・・・・・俺たちを拘束してくれたあと『フォーメーション“コード・BS”』が失敗したふりをして、情報参謀の本体の一部いちぶを分離させ、『佐井ヶ原さいがはら』で『地獄の蜘蛛Spider from hell』を発動し、岩熊いわぐま軍ニ千を一瞬で殲滅した。軍が消えたように見えたのは、その為だ。


 その後、岩熊いわぐま 剛勝たけかつ首級しるしを手土産に、武田信玄と会い、『甲獄かだけ』の領地三分のニを無料でプレゼントしたそうだ。


 その際に、信玄から八瀬やせの隣国『鮫賀さめよし』の国の領主宛に『お前さんの領地の三分の一を八瀬やせに渡さないと、武田軍一万が攻めちゃうぞ』という内容の書状を書いて貰った。


 それを持って『鮫賀さめよし』の国に飛び、交渉ネゴシエートした。


 武田軍を恐れる鮫賀さめよしの領主は、ふたつ返事で領地の三分の一を八瀬やせにプレゼントしてくれたそうだ。



 ……と、サラッと書いたが、これをすべて、しかも本体から分離した一部のみでやってのけた情報参謀……すげぇ!


 それに加えて、状況説明のあと細河ほそがわ様に『細兵投網さいびょうとあみのより良い編み方』を作って渡し、実技講習までしていた!……見直したよ。 ただ、情報参謀……『まにゅある』はひらがなで書いても、この時代の方々かたがたには、きっと理解されまいぞ。 『手引』にしてあげて。



 そんな訳で、無事に俺と鷹音ようおんさんが同じ小学校出身になれた! 細河ほそがわ様も死なずに済んだし、ずはめでたしめでたし……だ。



 別れの時、細河ほそがわ様は、改めて頭を下げて下さった。ご家老や旗本も同様だ。騎馬の兵士はあぶみを外し、槍隊は槍を伏せている。この時代は、これが最高の儀礼らしい。


 名残惜しいが、俺たちは八瀬やせを後にした。


 今回、俺は何もしていない……。帰ったら、情報参謀の爪の垢を煎じて飲ませてもらおう。


 ……爪があれば……の話だが。



********************


 数日後、俺の実家近くの駅に行ったら、駅名が『鮫賀さめよし』から『八瀬やせ』に変わっていた。


 更に、駅前に見慣れない銅像が建っていた。……それを見て、俺は思わず吹き出してしまった。


 銅像名は『細河ほそがわ兵六ひょうろくこうと三人の強者つわもの


 …凛々りりしい細河ほそがわ様に、若武者、桃太郎、そしてひょろ長い謎の武者…の三人が、付き従っている銅像だ。

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