第7話 退避

 このままでは朔也くんが危ない!


「情報参謀ーッ! めろーッ!」 


 ……デカ過ぎて俺の声が届いているかどうかは判らないが、俺は必死に叫び続けた!


 ……朔也くんがひざまずき、俺に一礼して……


「総司令閣下! 誠に恐縮で御座いますが、佐奈殿どのを連れて、安全な場所に退避なされませ! この場は私がおさめまするゆえ」……と言った。


 ……た、確かに、これは生身なまみの人間がどうにか出来る状況では無い! 俺は、朔也くんから離れようとしない佐奈ちゃんを抱え、透娘とうこと5人組を連れ、司令徽章で少し離れたビルの屋上にテレポートした。


「朔也く〜ん! 朔也く〜ん!」……佐奈ちゃんが、泣きながら屋上の金網に掴まり、必死に叫んでいる!


 ……? 


 ……あれ? いない!


 朔也くんが消えた!?


 ……巨大な情報参謀が、朔也くんを探知しようと、首や眼を滑稽なほどせわしく動かしている!


 ……情報参謀は、その名の通り情報収集のプロであり、彼はその頂点を極めた『参謀』だ。 


天網てんもう恢恢かいかい疎にして漏らさず』の『天網』とも評される、衛鬼兵団情報部が誇る索敵ネットワーク『ビルバクシャー』の隙をかいくぐり、たくみに身を隠すとは! 大したもんだ!


「ガンバレ! ガンバレ! サ・ク・ヤ! 良いぞ〜! その調子〜!」


 ……佐奈ちゃんが、さっきまでと打って変わって、飛びっ切りの笑顔を浮べ、朔也くんに声援を送っている……


 ……おかしい!……そんな事をしたら、逆に朔也くんの位置を情報参謀に教えているようなもんだ。


 ……かと言って佐奈ちゃんが、情報参謀を撹乱かくらんするため、朔也くんの嘘の位置に声援を送る『偽装工作』に協力しているようにも見えない……。


 ……


 …………


 ………………


 あ……あれ? 


 情報参謀……なんか……小さくなってない?


 いつの間にか、情報参謀の巨大な身体が、さっきの半分くらいに縮んでいる!?


 ……そうか! 判った! 


 俺は勘違いしていた。


 ……朔也くんは、初めから逃げも隠れもしていなかった。


 奴の体表を高速移動しつつ、情報参謀の再生能力を凌駕する速度で、本体をぎ取っているんだ!


 ……あれよあれよと言う間に、情報参謀は小さくなり、ついには元の姿に戻っていた。


「総司令閣下〜! 皆さ〜ん」


 ……ここまでの緊迫感を一瞬で台無しにするような情報参謀の間の抜けたコミカルボイスが辺りに響いた。


 俺は、司令徽章に命じて、全員を情報参謀と朔也くんの近くにテレポートした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る