第6話『衛鬼』

 我ら衛鬼兵団が『皇雅おうが 透娘とうこ』から依願されたのは、以下のような案件だった。


***********


 高校生の『しずみ 裕介ゆうすけ』君と『御代みよ 彩夢あやめ』さんは、将来を誓い合った、仲睦まじいカップルだ。


 ある時、突如現れた軍隊が、彼らの仲を武力で引き裂こうと攻撃を仕掛けて来たそうだ。


 だから、それに対抗しる衛鬼兵団の全兵力を投入し、二人の愛を護って欲しい 


 ……と言う。


**********


 ふ〜む……


『全兵力』って……ちょっとオーバーじゃない?


 ……ま、まあ、俺と野華ひろかさんとの『接点』を作る為に、戦国時代にタイムトリップして一戦ひといくさ起こしたくらいだから(本編第3章『初陣』をご参照下さい)オーバーって事は無い……か。


 ……なっ、ユイ……と言って振り返ると……


 うっ……ヒョロ長!


 情報参謀と目が合った。


 ……そうだ〜、ユイは絶賛落ち込み中だった。


「……ユイの様子はどうです? 今次戦に参加出来そうですか?」……と情報参謀に聴くと……


「……現時点では、前総司令閣下の復帰は厳しいですネ。 ……わたくしたちも、あんな状態の前総司令閣下を見るのは初めてデス」


 ……そうか。 


 確かに、あいつも慣れない環境で、ずーっと俺のサポートをしてくれてたし、疲労がたたったのかもな。


「よし、今回は俺たちだけで行こう!」


 俺は、佐奈ちゃんと落合さん……そして何回もお邪魔して、山程やまほどご馳走になり、本当にご迷惑をかけ通しだった野華ひろかさんにお礼を言って、名残を惜しみつつ別れた。



 ……人目のつかなそうな場所で、衛鬼兵団前線基地に転送しようとした時『バタバタバタッ』とせわしい足音が響いた。


「……た、たいら総司令〜!」


 走って来たのは、佐奈ちゃんだ!


 佐奈ちゃんは、息を切らしながらも「私も……行きます!」と、決然と言った。


 ダメダメ! 今回は本当の戦争になりそうだから、連れて行くわけにはいかないよ!


「佐奈ちゃんは、ちゃ〜んと学校に行って、受験勉強もしなきゃ。 今回は待機してて。 ……これは……『命令』だよ」と、さとすように言った。


 佐奈ちゃんは、大きな眼から大粒の涙をポロポロこぼしながら、朔也くんの袖を掴んでいる。


「朔也くんは生まれたばかりで、まだ何も知りません! ……せめて近くで見守っていてあげたい……そう思ったんです」


 

 ……それを聞いた朔也くんも、辛そうにうつむき、涙をこらえているようだ。


 そうか……それほど朔也くんの事が心配なのか……。


 ……困ったなあ。 


 本物の朔也くんを作ったのは、俺たち衛鬼兵団だ。 せっかく会えたその相手をぐに取り上げちゃうのは、ちょっとこくかな……。



「……了解致しました……では、わたくしが、その未練を絶ち切って進ぜましょう!」


 ん!?


 じ、情報参謀!? 突然、何言ってんの?


 ……! ……!?


「グッ……グググッ…ググッ……」


 ……情報参謀が、今まで聴いた事がないうめき声を上げ、更に……


「グオォォォオオオ!」と雄叫びを上げた!


 うわあ! 地面が波打ち、地鳴りが響いた!


 俺と朔也くんは佐奈ちゃんをかばいつつ、その場に伏せた。


 元バウンティ・アーミーの5人は、透娘とうこを囲むようにして庇っている!


 唐突に暗闇が訪れた! な、何が起きた!?


 やっとの思いで見上げると……それは暗闇では無かった。


 それは……巨大生物の『影』だった。


 そこには、既に情報参謀の面影は微塵も無い、無数の腕を複雑に振り回す……


 『いくさおに』がそびえ立っていた。


 朔也くんが、変貌した情報参謀を見上げなら……


地獄のスパイダー フロム……蜘蛛ヘル」……と呟いた。


 ……そうか……これが、情報参謀の……真の姿……!


 誇張抜きで、その場に居た全ての者が……


 『死』を覚悟していた……。

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