第1話 一閃

 さて、言うまでもないが、この物語の主人公は俺だ! 周りにキャラ立ちまくりのやからが多いので影が薄いが……。


 今回は『衛鬼兵団』総帥のユイが、こんなに怯えている。


 ふっふっふ! ……やっと俺にもお鉢が回って来たようだ。 現・衛鬼兵団司令官である俺……『たいら 盆人はちひと』に、やっと見せ場が訪れたのだ!


 とは言え、丸腰ではいささ心許こころもとない。 ……何か武器は落っこちてないかな〜……と、辺りを見渡すが、ここは野華ひろかさんのお部屋だ。 そんな物が落ちている筈も無く、バットや鉄パイプなどはもちろんの事、棒っきれ一本見当たらない。


「……佐奈殿どの……安全な場所にお下がりを」


 ……へっ? なんか、すげー凛々しい声が聞こえたぞ!?


 ……声の方を見ると……


 そこには、すらっとした美少年が立っていた。 抜き身の、切れ味の良さそうな長い刀を手に、佐奈ちゃんを庇うように、半身はんみに構えている。


 それは、男の俺でさえ見惚みとれる、おとこの中のおとこ!……そう……『刀根とね 朔也さくや』くんだった!


 ……絶対防衛A・Dを解除したと同時に朔也くんのパーソナリティが付与されたんだろう。 さすが衛鬼兵団! 仕事が速いZE☆


 ……って、し、しまった! 俺とした事が遅れをとったあ! ← いつもか……。


「百戦錬磨のユイでさえこんな状態なんだ! 油断するな!」……と言うと、朔也くんは「はっ」っと丁寧に一礼し、颯爽とドアを開けて外に出た! なんと優雅な身のこなしだ!



 ……しかし、その後、外からのリアクションが無い。


 俺は、朔也くんの後を追った ←り腰


 外では、朔也くんが刀を構えて立っていたが、敵らしき者の姿は無い。 ……逃げられた?


「敵は?」と、俺が朔也くんに尋ねると、どこか遠い目をしていた朔也くんの両の眼から大粒の涙が零れ落ちた!


「どうした?」


「はい。 このかたから頂戴した一宿一飯の恩義は忘れませぬが、今となっては我等われら怨敵おんてき! この場にて、お命頂戴つかまつる!」


 ……? こいつ突然……誰に何の事を言ってるんだ?


 哀愁を帯びていた朔也くんの表情が殺気に変わり「お覚悟を!」と言って何もない空中に向かって刀を振り上げた!


 その時「きゃ!」……と、下の方から、小さな悲鳴が聞こえた!


 視線を下げると……女性? が、頭を抱えて縮こまっているじゃないか! 


「朔也くん! 待て!」……と、俺は間に割り込み、勢い良く振り下ろされた朔也くんの刀身を無我夢中で、素手で掴んだ!


「くっ!」……握った手のひらに、激痛が走った!

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