第21話 武者震い

 今回も、俺は野華ひろかさんの美味しい手料理に舌鼓を打ち、野華さんをボケ〜っと見詰めていただけで、終戦になってしまった。


 まあ、誰ひとり欠ける事無く……もとい、敵の司令官『王牙おうが 刀孤とうこ』以外、欠けること無く戦いを終えられたのは、ユイ風に言えば『重畳ちょうじょう』だ。


 ……さて、今回の戦勝報告をしたり、佐奈ちゃんや落合さんへの叙勲の準備もある。 名残惜しいが、そろそろ野華さんの部屋から撤収しなくては。


「じゃあ、野華さん! また今度、ゆっくりお会いしましょうね」……と笑顔で右手を差し出すと、野華さんは恥ずかしがりながらも、両手で俺の手を握ってくれた。 ……水仕事が多かったからか、手が冷たい。 俺は無意識に野華さんの手を包み込んで温めた。


 …………


 …………?


 何か……視線が刺さる!?


 !


 全員の視線が俺たちに注がれていた。


 は! 恥ずかしい〜〜!


 ユイが「……さ、戻るぞ。 兄〜、絶対防衛A・Dを解除せい!」


 く〜〜っ! 名残りを惜しんでいるこの気持ちを斟酌しんしゃく出来ぬとは!


 全く……お前は鬼か! あ……鬼だった。


 了解ロジャー、行きますよ。。


 野華さんと、もう一度、再会の約束をして『司令徽章』に絶対防衛A・D解除を命じた。


 それと同時に、ユイが部屋を飛び出したが、その後、直ぐに戻って来た。


 顔が強張こわばっている!?


 野華さんが「ユイちゃん! どうしたの?」……と言いながら駆け寄ると……


 ユイが、ユイらしくも無く「……な、何か……妙な生き物が……!」と言って、震えながら野華さんに抱き付いた!


 その背中を撫でながら、野華さんも不安気な表情をしている。


 衛鬼兵団の総司令たるユイが、ここまで怯える姿を、俺は今迄見たことが無い!


 このドアの向こうに、一体何が居たと言うのか!?


 ……俺は、新たなる戦いの予感に、武者震いを覚えていた……。

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