第20話 汗と涙

 ……さて『絶対防衛A・D圏』……野華ひろかさんのお部屋に話を戻そう。


 のんびりと、野華さんがれてくれた最高のお茶と、美味しいお菓子に舌鼓したつづみを打っていると「……あの……たいら総司令」……と、佐奈ちゃんが口を開いた。


「どうした?」


「……私……ごめんなさい」


 佐奈ちゃんが立ち上がり、俺たちに頭を下げて恐縮している!


 ど……どしたの!?


 野華さんと落合さんが、すかさず佐奈ちゃんに駆け寄り、背中や腕をさすり、ゆっくりと席に座らせた。 ……急なことで対応出来ずにオロオロしている俺とは違う(汗)


 ……『斬鬼軍』の捕虜だった、3頭身キャラ化している、元『バウンティー・アーミー』の5人も、おままごとセットのような、小さなカップをミニチュアテーブルに置いて、心配そうに、机の上から佐奈ちゃんを見上げている。


 ……それとは対照的に、だ記憶を付与されていない、元『純白の兵士』の『刀根とね 朔也さくや』は、微動だにせず、悠然と座ったままだ。


 俺はユイに「……こんな時は、朔也くんが率先してハンカチを差し出して、佐奈ちゃんを慰めるものなんだけど……」と言ったが、やはり絶対防衛A・D展開アクション中は人格付与処理が出来ないそうだ。


 ……佐奈ちゃんが、しゃくり上げながら、話し始めた。


「……私、ずーっと『努力』や『根性』なんて、ダサいし、カッコ悪い……と思っていました」


 それ、なんとなく解る。 


 親が観ていた『熱血ドラマ』? なんて、こっちが恥ずかしくなるし、流行はやりじゃ無いよね。 努力が実るのにも時間がかかるし……。


 やっぱり『俺TUEEE』最強だぜ! 方向転換しよっかな ←独り言


「……そんな時、コマイ先生の作品に出会って、主人公の『スズキ ノリコ』を羨ましく思いました。 ……私も、自分のと恋人になりたい……って、心から思ってんです」


 そう言って佐奈ちゃんは、出来たてほやほやの『朔也くん』を、眩しそうに見た。


 ……うんうん、中学生くらいの『夢見る少女』らしくて結構結構!


「……でも今回、平総司令やユイさん、コマイ先生や鷹音ようおんさん……そして衛鬼兵団の皆さんが、本当に…… ほ、本当に……」 ……佐奈ちゃんが声を詰まらせた。 俺たちは、優しく見守る。


 ……暫くして、佐奈ちゃんが続けた。


「……本当に……私の、しかも『妄想』を叶えてくれる為に、皆さんが全力で戦って下さる姿を見て……私、自分の間違いに気付いたんです!」


「間違い?」とユイが聴き返すと……


「……はい。 皆さんおひとりおひとりが、次々に訪れる困難を、流れる汗や涙を拭きもせず、文字通り『全力』でこなしている姿……しかも、それはご自分の為じゃなく、昨日今日、初めて合ったばかりの、こんな小娘こむすめの為に……です! ……私には、この世界で一番尊く、何よりも美しく見えました!」


 ……そう言う佐奈ちゃんも、流れる涙を拭こうとしない。 


 若い涙は、宝石以上に美しくきらめいて、頬を伝い落ちた。 それを見て、皆が貰い泣きしている。


「あ〜〜〜〜〜〜っ!」


 な、何だあ!?


 ユイがこんな大声を上げたのを初めて聞いた!


「どうした!?」


「や、やぬし! 見てみよ!」……ユイはそう言って、朔也くんを指差した。


 その指の先には、な、なんと……


『涙』だ! 朔也くんが、佐奈ちゃんに負けずとも劣らない、綺麗な涙を両の眼から流している!


「あたしは『奇蹟』って言葉は好きではないのだが……これこそ『奇蹟』だ!」


 ……確かに、だ『人格』を付与していない『人形』が涙を流すなんて有り得ない事だ。


 ……佐奈ちゃんが立ち上がり、朔也くんの涙を拭きながら……


「……私、朔也くんとは、ただのクラスメイトのままでいたいんです。 ……せっかく皆さんが全身全霊を込めて創って下さった朔也くんを、何の努力も無しにを手に入れるなんて、今の私には早すぎるから……」


 ……佐奈ちゃんの言葉に、全員が感動した。


 やはり佐奈ちゃんは、ただのお嬢ちゃんでは無い。 しいて言うなら、矢主家の皆さんが、しっかりした教育をしているんだろう。



 佐奈ちゃんは自分の涙を拭き、朔也くんの顔に頬を寄せて、スマホで自撮りした。 、いい笑顔をしている!


 写真を共有させて貰ったが、とても素敵なセルフィーだ! このまま雑誌の表紙になるよ!


「じゃあ皆さん! 次は皆で記念撮影しましょう!」


 佐奈ちゃんの呼びかけで、皆が顔を寄せ合った。 


 元バウンティ・アーミーの面々も、嬉しそうに皆の肩に乗った。



 ……こんなに清々しい気持ちの記念撮影は久しぶりな気がする。


「じゃあ、撮りま〜す! せ〜の!」


『パシャリ』

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