第18話 手鏡

 ……野華ひろかさんが貸して下さった鏡に自分を映すと……


 良かったあ〜! 極々ごくごく平凡だが、かれこれ27年間付き合っていた顔に戻ってる〜!


 ……しかし……


 やっぱり、こんなに可愛らしい野華さんの手鏡に、むさ苦しいおっさんの顔を映すのはおこがましいなあ~(恥)


 手鏡を返しながら……「野華さんも戻られましたか?」と聴くと……


「はい! 私は『株式会社アティロム』の鷹音ようおん 野華ひろかと申します」……野華さんは、そう言って会釈したのち最っ高さいっこうの微笑みを俺だけにくれた。 ……さっきまでのカオスを一瞬のうちに修復する、既に『神』の領域に到達しているかのごとき笑顔だ! ……もう、あいくるし過ぎて……気絶しそう!


 コホン……さて、何が起きたか、ユイに聴こう。


「ユイ……『戦闘終結』って、今回の戦闘は何だったんだ?」


「決まっておるだろう! 『刀根とね朔也 現出げんしゅつおよ奪取だっしゅ作戦』だ』


 ……またもや、何かややこしい作戦だなあ……。


 『刀根 朔也』を実に現させて、それをる作戦……って事か。


「この前『仮想Hypothetical emery』との『仮想戦闘Simulation』を繰り返してるから、佐奈ちゃんの願いを叶えるのは野華さんのお茶を冷ますより遥かに容易たやすい……って言って無かったか?」(本作第11章『軍師』第6話 Don Alonso Quijanoをご参照下さい)


「……容易かったろうが!」


 いやいやいや、随分かかったよ~! 執筆に、かれこれ5ヶ月くらいかかってるじゃん ←遅筆でスミマセン(←作者の声)


「……ま、まあ、今回は『仮想敵』とは言え、やぬしの脳内にしか存在しない者を実在させる……という、我が衛鬼兵団はつこころみだったゆえ、通常よりは時間がかかったように感じるかも知れんな……」


 ……確かに、いつもなら突っ込む行間ぎょうかんも無いうちに事が進むのに、今回はかなり時間をかけたよね。


 ……絶対防衛A・Dが『発動中アクティブ』の時は、あらゆる事象から隔絶されるので時間の観念すらも無くなるが、野華さんが『サン・クリスタ女史』になっていた『時点』では、普通に時間が流れていたから、計算すると、既に2週間近くかかっている計算だ。



 ………これ……


 ……すご〜く!


 ……や ば い じ ゃ ん !


 俺たち会社員は無断欠勤になってるし、佐奈ちゃんは無断欠席になってんじゃん!更に、こんなに長い期間、佐奈ちゃんを連れだしていたら、未成年者略取で、俺たち逮捕されちゃうんじゃないの!?


「兄! 落ち着け。 ……絶対防衛A・D解除と同時に関係者全てが、前回の絶対防衛A・D解除時点に転移するのは戦後処理の一部に組み込んである!」


 ……な、なら良かった。


 ……何せ、ここには中学生と『見た目は未成年、中身は衛鬼おに』……の未成年がふたりがいるから、神経を使う。。



 ……って事で……


 さあ、ユイ~! 説明して貰おうか~


 ユイは、野華さんがたった今、れて下さった『アイス・レモンバームティー』を、複雑な表情で飲んでいたが、


「『軍事機密』だ」……と言って、横に座った野華さんにもたれかかった。


 こいつ……面倒臭がってるな!


 ……野華さんだって疲れてるんだから、あんまり体重かけるなよ〜! この甘えん坊め! プンプン! ←ジェラシー


 ……仕方ない。 俺が、本件終了後に作戦参謀に聴いた、今回の大綱を以下に記す事とする。



***************


『刀根 朔也』という佐奈ちゃんの妄想彼氏を現実の者にする為には、次のプロセスが必要だった。


1、佐奈ちゃんの脳内から、『刀根 朔也』の妄想データをトレースする。


2、そのデータを、生物学的に一番近似している者に付与し、その者を一時的に『刀根 朔也』に変化させる。


3、複製可能な『システム』を構築し、完成し次第しだい、2から『刀根 朔也』のデータのみを移植する。


4、複製された、純粋な『刀根 朔也』に、疑似的な『記憶』を搭載して、完全な『ヒト』と成す。


 ……以上。



 ……上記のプロセス1、2はスムーズに進み、生物学的に一番近似する、俺『たいら 盆人はちひと』に佐奈ちゃんから抽出した『妄想データ』を付与し、俺を一時的に『刀根 朔也』に変化させる事は成功した。


 ……確かに、この時点で、俺は自分を『刀根 朔也』と名乗っていたっけ。


 ところが作戦参謀によると、3の『複製可能なシステム』の構築が、ことほか苦労した部分だと言う。


 ……その詳細は……また次回!

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