第15話 ダメな奴

 更に、それから数日後……


 俺達は、これと言ってやることも無いので、王牙と『偽ユイ』以外のみんなでトランプ遊びをしていた。


 すると突然、お店のドアが物凄い勢いで開き、カウベルが『ギャリンッ!』と悲鳴を上げたような音を立てた。


 全員でそちらを向くと、王牙が仁王立ちし、いつもの鬼のような形相以上の、鬼の『頭領とうりょう』(!?) のような形相でユイを睨みつけている。


貴様きっさま〜! はかったなぁ!」……と、王牙は此処ここが『絶対的非武装区域』なのを忘れ、道路工事の電動ハンマーのような足音をたててユイに突進して来た。


 王牙の手下たちが、手にしたトランプを投げ捨て、全員で王牙をブロックした。


「貴様! 司令官を辞していたなら先に言え〜!」


 ありゃ……バレた。


 ……ユイは、トランプが『勝ち手』だったのだろう……不機嫌に王牙を睨み返し「莫迦者ばかもの。 何故なにゆえ貴様なんぞに、わざわざ伝えねばならんのだ」と言って、手にしたトランプを机に投げ捨てた。 ……! ロ、ロイヤルストレートフラッシュ! こいつ、運、持ってるなあ〜。 ん? ご破産になったから……不運なのか?


 コホン……さて……『司令官の交代が行われた』……なんて事は、確かに『軍事機密』だ。 わざわざ敵か味方かも判らない奴に教えてあげる必要は無い。


 ……王牙も、それに気付いたのか「ムッ……グッ」……っと、声にならない声を出して項垂うなだれ、近くの席に腰掛けた。


 ……偽ユイは現時点で、その姿が役に立たない事が判ったからか、また『純白の兵士』に戻り、王牙の横に座った。


「女史……アイスココアを人数分頼むわ」……王牙は野華ひろかさん……いや、サン・クリスタ女史にそう言って、また机の上で足を組んで目を閉じた。


 ……王牙の手下たちは、以前のように王牙に媚びる必要が無くなった事に気付いたのか、好き勝手な席に座り、王牙もそれを咎めなかった。


 笑顔の野華ひろかさん、落合さん、そして紗奈ちゃん……の『美人三姉妹』が「お待たせしました〜」……と言いながら、みんなにアイスココアを配ってくれた。


 ……実に芳醇な香り……そしてアイスなのに心が温まる……と言う、まるで魔法のようなココアだ。


 ……皆がその味に酔いしれていると、王牙が、遠くに目をやりながらユイに「……で『タイラ ハチヒト』は、何処どこにいる?」……と、さっきとは打って変わって、の〜んびりとした声で言った。


 ユイもつられての〜んびりと……「あ〜、はちひとは、今はの中だ……」……と俺を指差して言った。


 ……


 …………


 ……………………


 ……!


 ユ イ !


 そ れ 言 っ ち ゃ ダ メ な や つ ッ!

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